259 世界全言語翻訳魔道具と対応問題集
ラルフがカーナリアン王国の外相、ナイドの執務室に許可を取って入室した。
すると、そこにはなんとロバート国王、ハルド王太子、マラド宰相、そしてナイド外相の四人が席に座って待ち構えていた。
「体調はいかがですか、ラルフ公爵。お元気そうで何よりだ」
極上の笑顔を浮かべるロバート国王に、ラルフは思わず苦笑いを返した。
「ええ、おかげさまで。竜皇国の皆様のご様子でも報告できればと思ったのですが……。あちらとの守秘義務の魔法契約書が厳しくて何も言えないのです。
ところで皆様、決して暇ではないですよね? 国王様、王太子様も宰相様も外相様も……」
すかさず、ハルド王太子がジト目を向けた。
「私たちの胃痛の最大の原因であるラルフ殿が、それを言いますか?」
「これは失礼、申し訳ございません。それよりも、マラド殿下が『番』を見つけられたそうで!
本当におめでとうございます。留学先から戻られて再会された、幼馴染のターミア様だったとは……。
来年の成人が待ち遠しいですね。どうかお幸せになってください」
話を振られたマラド宰相は、はにかんだ。
「ありがとうございます。……身内ばかりの場で言われると、なんだか恥ずかしいですね。
ところで、今日はなぜナイドとの面会を?」
「はい。現在、竜皇国の皆様の滞在によって、我が公爵家では竜皇国語の不便な者がおりまして。
早期に竜皇国語を習得したいという従者が増えたのです。その相談と、何か良い問題集や魔道具があれば購入したいと。やはり言語と翻訳といえばナイド様しかいないと、頼りに参りました」
同行していたサラが持参した荷物を手際よく並べた。
「お忙しいところをご心配させてしまったお詫びに、皆様の胃に優しいお茶と、センベイの全種類お持ちしました。ぜひご賞味ください。あと、皆様の番の方々への甘い物も多めにお持ちしましたので、どうかこれでご勘弁を……。」
「ああ……いつもありがとうございます! 父上とハルド兄上は本当に胃痛がひどくてね……。また新商品を楽しみにしていますよ」
マラド殿下が嬉しそうに微笑む傍らで、ナイド外相がほっと息を吐いた。
「左様でしたか……。てっきり、竜皇国の皆様との間で何か重大な問題でも起きたのかと心配しておりましたよ」
「重ね重ね、お騒がせして申し訳ありません。
それで、やはり語学習得の極意は、繰り返すしかないのでしょうか?」
「ええ、その通りです」ナイドはそう言うと、棚から試作品のような魔道具を取り出した。
「実は先週発売されたばかりなのですが……。徹底的な即時修正を行う『世界全言語翻訳魔道具』と、その対応問題集があります。
新しい機能を追加しておりまして、発音や文法を間違えると、その場ですぐに『言い直し』を要求されるのです。即座に正解が流れる反復仕様になっております」
ナイドは自慢げに「うちの平民の職員でも、最短一ヶ月で竜皇国語を完璧に習得できました。
行動しながら復唱し、後からそれを書く。忘れたらまた読んで書く、の繰り返しです。
竜神教会の歌を歌いながら、『聖書を見て覚えた』とも話していましたね。ただ、子供には少し難しいので……。
今は幼児用の優しい版の作成を考えているところでして……。あっ、これはまだ内緒でした。」
「大丈夫です、他言はしません。魔法契約書を書きましょうか? もちろん完成しましたら、そちらの幼児用も購入させていただきます。
それで……今すぐですと、大人用はいくつ用意できますか? 早急に必要なのですが……。」
「ああ、大人用はかなりお高くてですね……。実はまだ一台も売れておらず、たくさん余っているのです。
すぐにご用意できるのは三百台ほどですが……」
「では、その三百台、すべて購入させてください」
ラルフの即断即決に、その場にいた全員の目が丸くなった。
「公爵家の領地にある教会と、市民学校にも置きたいので。各教会に五十台ずつで五箇所。学校は図書室に常備させたいので五十台ずつで五箇所。全部で五百台は必要になりますね。
言語授業を作り、教育体制が整えば……いずれは留学者も受け入れて、我が国が『全知の教育先進国』で最も言葉が通じる国として生まれ変われますね。
その骨太の政策を考えられて翻訳魔道具の開発と販売。ナイド外相は本当に素晴らしい。」




