257 実戦魔術訓練
翌日は、前日の魔術技能における「基礎の型」の確認が行われ、三王子全員が合格点を貰った。
「心を落ち着かせるために、体をほぐしながら基礎の型を行う者も多いぞ。緊張して嫌な雑念に囚われたら、一番得意な魔法陣を、丁寧な呼吸と体内に魔力を循環させることだけに集中しろ。余分な力が抜けていくのがわかるはずだ」
騎士団長は三人の顔を見回し、それぞれの課題を告げる。
「サンセールは、必須魔法陣だけを完璧にしろ。まずは考査合格だけを目指す。それで十分だ。
今は十五の魔法陣だけに集中し、雑念を捨てろ。できないことは恥じゃない。今は時間が足りないだけだ。兄二人に感情を向けるな。無駄な時間はない。
フォルとジュストはすべての魔法陣を完璧にして、さらなる加点を目指せ。
三人が考査試験に受かったら、サンセールは本番の入学試験までにすべての魔法陣を覚え、完璧にするぞ。いいな。」
そして、次に実戦魔術の訓練に移ると、彼らの指導は一変した。
「実戦では型をすべて捨てろ! まずは頭を切り替えろ。確実に倒す、最少の手数で決める、無駄な魔力は使わない。
何戦も戦い抜くための配分を絶対に間違えるな!」
騎士たちはしつこいほどに繰り返した。
「実技教員の『勝負あり』という言葉を聞くまで、絶対に敵から目を離すな! 倒したと思った敵の、死ぬ気の反撃の一手……その最後の一撃に沈んで不合格になる者が、毎年多数いるんだ。実戦において、わずかな油断は命取りになる。
それは本当の戦闘となったときも同じだ。必ず生きて帰らなければならない。
生き残った者こそが本当の勝者なのだ。」
と、誰もが真剣に、何度も何度も伝えた。
騎士たちは、王子たち自身も気づいていない
「狙われやすい癖」や「無駄な動作」を徹底的に削ぎ落としていく。そして、短縮魔法陣を同時に展開する泥臭い戦い方を強いた。
「短縮した方が魔力消費も少なく、消耗を抑えられる。どこを短縮するのがやりやすいかは、お前たち次第だ。使い慣れることが一番大事だが、戦い方が単調になるとそこを狙われる。
切り返しの応用を自分なりに工夫しろ。ジュストが得意だから、真似できるところは真似をしろ。
自分なりの応用が浮かんだら実戦し、結果を見て考えろ。何度も何度も体に落とし込め。覚えさせろ。繰り返すんだ!」
騎士団長はさらに、個別の戦略へと踏み込む。
「サンセール、十五以外でも短縮魔法陣なら、覚えられるのであれば使え。
組み立て次第で、十五の魔法陣でも確実に勝てる。
ただ、上にいくほど相手の手数が増える。これは三王子全員に言えることだが、はじめから手の内をすべて見せるな」
一呼吸置き、騎士団長は凄みを帯びた声で続けた。
「入学試験が本番なんだ。本番ではこの考査とは格が違う、異常な強者が出てくる。勝つためには、相手に自分の能力を知られないことも、短期決戦における立派な戦略だ。正体がわからないという事実そのものが、相手の恐怖を誘うからな」
不敵な笑みを浮かべ、騎士団長はサンセールを見た。
「サンセールは、十五の魔法陣しかできないことを逆に前面に出せ。侮ってきた相手には、短縮魔法陣をそのレベルに合わせて少しだけ披露してやるんだ。
相手はこちらの底が見えなくなる。
さらに、竜人族だと分かれば、種族による格の違いから勝手に萎縮して自滅していく奴も出てくる。
最後まで絶対に目を離さず、無駄な魔力は使わない。これを徹底しろ!」




