256 魔術技能 基礎の型
マクアリール公爵家の演習場では、早朝から三王子の合格に向けた徹底的な特訓が始まっていた。
まずは魔術技能の基礎から、三王子の動作を一つずつ緻密に確認していく。
「無駄な魔力の使い方は、長期戦で自分の首を絞める。だからこそ、基礎の型が最も無駄がないんだ。
魔術技能の試験において、型から外れない方が採点が高い。なぜ基礎の型が最も高得点なのか、理由は二つだ」
騎士団長は、三王子の動きを鋭く見据えながら言葉を続けた。
「一つは『安全性』。我流は暴走のリスクがあって危ないからだ。試験官は、安全に魔術を制御できる能力を見ている。
もう一つは『燃費』だ。基礎の型は、最小の魔力で最大効果を出す究極の形だ。
型が崩れている奴は、魔力を無駄遣いしているとみなされて減点される。
だからこそ、型を忠実に守り通せ。合格には落としていい点などどこにもないんだ」
試験の加点ポイントを熟知している、平民出身の騎士たちによる現実的な説明。
それはジュストの頭脳に深く響いた。教科書や魔術書といった「本」には決して書いていない。
泥臭くも確実な実戦の知恵ばかりだった。
騎士たちは甘えを一切許さず、その合格のための術を、王子たちの体に容赦なく叩き込んでいく。
騎士団長が言った。
「本番では、基礎に忠実なお前たちの姿を見て、必ず侮ってくる受験生がいる。そこを実戦で正しくやり返してやれ」
悪辣な、頼もしい笑顔を見せた。
「それと、これが一番大事なことだ。いいか、絶対に挑発に乗るなよ。そこもすべて採点されている」
騎士団長が、三王子の瞳を真っ直ぐに見据えて告げた。
「あの学院には平民、獣人族、竜人族、エルフ、そして人族まで、本当にたくさんの優秀な種族が集まる。学費が無料で学べるからこそ、元々が極めて狭き門なんだ。お前たちは喧嘩をしに行くのではない。
学ぶためにそこへ行くんだ。その目的を一瞬たりとも忘れるな」
騎士団長の言葉は、かつて特権に溺れていた王子たちの胸に深く突き刺さる。
「試験会場に入る前から、お前たちに爵位などない。実力こそがすべてだ。それも、ただ魔術が強いだけの粗暴な奴は落とされる。
騎士道精神を重んじる者、礼儀作法が身についている者、何より、どんな挑発にも動じない冷静で常識的な者から選ばれていく。
なぜなら学院側は、そこに集まるのが『学園推薦を貰えなかった者』や『平民』『獣人』など、何かしら事情や問題を抱えている者たちだと分かっているから厳しく採点するんだ。
未来を共に築くための集団生活の場だ。だからこそ、高い技能や知力があり学ぶ意識の高い者を選ぶ。そこに身分など一切関係がない」三王子の瞳を、騎士団長が今度は静かに見つめた。
「何を学び何を得るか……何のために学院に入り、卒院していくのか……その先に自分の求めるものは何なのか。常に自分の頭で考えて行動することを心がけよ。そして、この試験の最中だけではない。
常にお前たちは、竜人族の代表としてそこにいることを忘れてはならない。
もちろん、お前たちは自ら身分を明かすわけにはいかないだろう。
貴重な古竜種は、素材として根深く狙われる存在だからな。
自分が常に『見られている』、そして『狙われている』ということを忘れるな」
「……はい。肝に銘じます……」
王子たちは、かつて犯した自らの無礼な態度を深く反省するように、拳を強く握りしめた。
それと同時に、自分たちが「古竜種」であることの本当の危険性を、改めてその身に思い出していた。
求められているのは、強き竜人としての品格。そして、どんな逆境でも揺るがない、冷静な判断のできる知性なのだと。
王子たちは騎士団長の言葉から多くを学び、己の心をさらに引き締め直していた。




