254 騎士団の決意
マクアリール公爵家の大広間に、フォル殿下が読み上げる「竜皇国国王リアム」の厳かな名が響き渡った。
その瞬間、大広間に整列していた平民出身の騎士たちは、長年の訓練によって表面上こそ直立不動の冷静さを保っていた。
しかし、その内面では冷や汗どころではない、凄まじい後悔の嵐が吹き荒れていた。
(…嘘だろ!? 嘘だと言ってくれ…!)
全員の掌が、一瞬にして冷たい汗に濡れていく。
彼らの認識では、せいぜい「何か訳ありの上級貴族の不祥事で、一時的に身を追われた我が儘な三兄弟」
……その程度のものだったのだ。
しかし、いざ蓋を開けてみればどうだ。
相手は世界最強の軍事力と膨大な魔力、圧倒的な魔導技術を誇り、不干渉の「竜皇国」の、王子たちだったのだ。
あまりにも重すぎる事実を突きつけられ、特に若手の騎士たちの顔色が土気色へと変わった。
血の気が引くほどの恐ろしい後悔が、彼らの脳裏を次々とよぎった。
(待て……俺たちはこれまであの三王子に何をしてきた……!?)
嘲笑う態度と生意気な口を叩く彼らに対し、騎士団は
「性根を叩き直す」という名目で容赦なく……。一切の手加減なしで、文字通り体と体で叩き合ってきたのだ。
いくら守秘義務を魔法契約書で交わした身内とはいえ、相手はあの竜皇国の王子である。
一歩間違えれば国家間戦争の引き金になりかねない。
(あの時、サンセール殿下の脛蹴りの返しに……鳩尾に入れた俺の拳、不敬罪で処刑されるんじゃ…!?)
(フォル殿下の弱い魔盾を叩き割って地面に転がしたのは俺だぞ…。誰かぁ…悪い夢だと…言ってくれ!)
平然とした鉄の表情の裏側で、騎士たちの脳内には凄まじい絶望が渦巻いていた。
あまりの衝撃の大きさに、幾多の戦場を潜り抜けてきたはずの古参の騎士団長でさえ、膝の震えを必死に堪えているのが精一杯だった。
しかし、そんな彼らの驚愕を前に…。
フォル殿下はいつもの柔らかな、しかし濁りのない真っ直ぐな瞳で。
ジュスト殿下は冷徹なまでに冷静な、覚悟を秘めた瞳で、平民である騎士たちに向けて誰よりも深く頭を下げた。
そして末弟のサンセール殿下は、白くなるほど拳を強く握りしめ、今にも泣き出しそうな顔をしながらも、何度も、何度も必死に頭を下げた。
そこには、これまでの無礼を罰しようとする傲慢さは微塵もなかった。
それどころか、ただの平民である自分たちに対して「どうか、私たちに力を貸してほしい」と、懇願する王子たちの、剥き出しの真摯な覚悟がそこにあった。
その頭を下げる背中を見た瞬間、騎士たちの胸を支配していた保身の恐怖は一瞬で吹き飛んだ。
代わりに、彼らの胸の奥底から、これまで感じたこともないほど熱い感情が燃え上がった。
(……上等だ。相手が竜皇国だろうと関係ねえ!
そこまで覚悟を決めて頭を下げるなら、我が騎士団の命を懸けて必ず合格させてやる!)
騎士団長は不敵に笑い、一歩前に出た。
「平民を侮らず、我ら騎士団に教えを請うたこと、見事でございます。………」
騎士団長の言葉を聞きながら……全員がゆっくりと呼吸し、自分自身の感情を整えた。そして熱い思いを闘志へと切り替えていったのだった。




