246 母親の手紙
「国王陛下、ならびに、王太子殿下、ご入堂!」
重厚な扉が開き、国王陛下がゆっくりと謁見室に足を踏み入れた。
銀糸の刺繍が施された深紫の外套を翻し、威風堂々とした足取りで濃紺絨毯を進む。
その斜め後ろを、白銀の光沢布に紫糸の総刺繍された外套を静かに靡かせ、王太子殿下も続いて歩く。
竜気と威厳に、二人は息を呑み、右手掌を左胸に当て少し頭をさげ立礼した。
二人のもたらす圧倒的な重圧が、謁見室の空気を一瞬にして支配した。
国王陛下と王太子殿下は、それぞれの席へと深く腰を下ろされた。
「久しいな。ヤヌス、公爵。息災であったか。
あぁ…辛そうだな。ヤヌスは未だに結界は張れないのだな。」
陛下は、穏やかな笑みを浮かべ結界を張った。
侍女からの連絡もなく、いきなりの謁見。薬が回っている様子などない姿だ。
王弟ヤヌスと、カマスリド公爵家当主シューリの背中に冷たい汗が伝わった。
陛下は二人から視線を外さず、隣の部屋へと続く壁をそっと手で示した。
「ずいぶんと賑やかに話していたな。ヤヌス。一言一句、余さず、二人の話を聞かせて貰った。」
謁見室の空気が完全に怒りの竜気に凍りついた。
二人の顔から一気に血の気が引いていくのが分かった。
王太子が冷ややかな笑みを浮かべ続けた。
「楽しんでいただけたか? 叔父上。大金を積んだ侍女は、国王陛下の忠臣で薬もない。
私兵、日雇いの冒険者達、親戚筋の三人も、全員の罪が確認され収監済だ。
あとこちらは、叔父上の家と親戚筋三家、公爵家の横領の証拠帳簿だ。かなりの横領金額だな。
新聞記者殿。明日の新聞の見出しはどうなる予定だ?」
「そうですね…。
『王弟と公爵家謀反の罪で現行犯逮捕!五家の多額の横領金額あきらかになる!』でしょうか?」
逃げ道も、兵も、信じていた侍女も最初から存在しなかった。
すべてが筒抜けだったと理解したヤヌスとシューリは、ガタガタと震え、その場に膝を突いた。
「王弟の爵位、親戚筋三家および公爵家の爵位を、本日限りで剥奪する。
五家は完全なる取り潰しとし、領地・財産はすべて没収とする。
謀反に関わった者、および横領に加担した者は例外なく、全員で天空都市の魔力動力源として、強制労働での返金に処す。」
王弟の絶望に満ちた呻きだけが響いた。
「母上からのお言葉だ。
『ヤヌス。前回の横領の時に、あなたが罪を認め、謝罪し、罪を償い、自分の労働でしっかりと返還させることが大事だった。やり直しの機会を、私が潰してしまった。前回の分を含め、自分の罪は自分で働いて償いなさい。貴方が真面目に働いて、返金できるまで待っています』―と、伝えてほしいと言われた」
「何をいまさら…。私は王族で貴重な高貴の古代竜なのだぞ。ありえない!間違っている!」
「いや…間違っているのはお前だ。王族は、民を護り、義務と責任を果たしている者だ。
特権だけを貪り、義務を放棄し、二度までも民を裏切った。
血筋に甘え、責任を果たさぬ者に、もはや王族を名乗る資格はない。
特権には義務が伴う。義務を果たさぬ者に、権利を主張する資格はない!
古代竜であっても国を蝕む者に免罪符など存在しない。」
王弟は絶望の悲鳴を上げながら公爵家当主と共に謁見室から引きずり出されていった。
そして翌日の紙面は予想通りの見出しが並んだ。
「王弟と公爵家謀反の罪で現行犯逮捕!五家の多額の横領金額あきらかになる!」
「王弟二度目の横領!一度目で先王陛下に王位継承権剥奪されていた!」
「五家貴族の取り潰し。天空都市の魔力動力源としての強制労働による返金!前代未聞の重刑」




