23 無詠唱 複数付帯と元気珠
ようやく、ルノアが話せるタイミングがやってきた。
「ヴァリー伯父様とお父様のお話を聞いて、私が知りたかったことの答えは分かりました。
魔導初期の本に書かれていた魔法は、お母様が『詠唱は絶対いらない!』と書かれていたので……。
お母様の言葉を絵にしたものを参考にして、心の中で詠唱するだけで、声に出さなくても全部できました」
ルノアは少し考えてから、ヴァリアードを見る。
「それから、ヴァリー伯父様に聞かれた魔石のイメージなのですが……。
もしかすると、魔導初期の本に書かれていた、お母様の『魔力放出』の応用なのではないでしょうか?」
「魔力を一気に放出するのではなくて、指先から魔力を刺繍糸みたいに細くして、密に、小さく、強く巻いていくんです。
それを少しずつ大きくして、固めていったものなのかな……と思いました」
ルノアは、自分の考えを一つずつ整理するように話していく。
「それと……巻くときの気持ちも関係するのかなって。
『護りたい』とか、『綺麗に澄んだ状態にする』とか。
悪意や毒、汚れたものを外へ押し出すようにしたり、黒や紫色を絶対に入れないようにしたり……。
そういうことを考えながら巻けば、何種類でも、複数の効果を付けられるのかなと思いました」
そして、もう一つ思いついたことを口にする。
「それから、最初から作りたい大きさと形を決めて、その中へどんどん魔力を圧縮して注いでいくほうが、早いのかなとも思いました。
お母様の絵を見ながら考えたんです。
魔力放出って、こんな感じです」
そう言うと、ルノアは両手を合わせた。
中指に、ほんの少し力を込める。
すると――。
白銀の細い糸が、空中へすっと現れた。
一本、二本……。
それは瞬く間に三十本ほどに増え、まるで刺繍糸を束ねたようになっていく。
細く美しい白銀の糸は、くるくると巻き上げられ、小さな糸巻きの形になった。
「できました」
ルノアは嬉しそうに笑い、その糸巻きを二人へ差し出した。
お父様とヴァリアードは、口を半開きにしたまま、ただルノアを見つめていた。
そして二人は、ほぼ同時に念話へ切り替えた。
『ラルフ。魔力が……全く減っていないぞ』
『……分かってる。ヴァリー』
『ルノア、今の魔力量で、これだけのものを……?』
『どうする?』
『その前に、まず魔石だ。ルノア、自分の好きな方法で魔石を作ってごらん』
ルノアも念話で答える。
『糸では駄目なんですか?
切れないくらい強くて硬い糸にもできますけど……。
やっぱり石が一番必要なんですか?』
『うん。まずは石かな。流通させやすいからね』
『そうだな』
ラルフが頷く。
『それに、初めて作る魔石は、お父様の宝物にするよ』
少し考えてから、ラルフは笑った。
『ただ、ヴァリーと喧嘩になりそうだから……ヴァリーの分も作ってくれるかい?』
『もちろんです』
『それなら、糸と石、両方作ってみたらどうだい? どちらのほうが体が楽なのかも確認しよう』
「はい。両方やってみますね」
ルノアは嬉しそうに頷いた。
「私もお揃いにしたいので……」
両手を胸の前にかざす。
「糸巻き石、三つ。
護り強化、毒返し、呪返し、魔力補助、身体強化……」
その瞬間。
空中に虹色の光が弾けた。
まるで三台の3Dプリンターが同時に動いているかのように、魔力が高速で形を変えていく。
小さな糸巻きが、それぞれ空中でくるくると高速回転しながら形作られていく。
キラキラと光の粒が舞い――。
やがて、三つの虹色の糸巻き型魔石が完成した。
しかも、それぞれの中央には、紐を通せるように小さな穴まで開いている。
「できました!」
「………………」
「………………」
二人とも、言葉が出なかった。
しばらくして、ラルフがようやく口を開く。
「……あぁ……ルノア」
心配そうに娘を見つめる。
「体は……大丈夫なのかい?」
そしてヴァリアードへ顔を向ける。
「ヴァリー、魔力を見ているか?」
「……見ている」
「本当に大丈夫なのか?」
「あ、ああ……」
ヴァリアード自身も、信じられないものを見るような顔をしている。
ラルフは一度息を吐くと、気を取り直した。
「それなら今度は、丸い魔石を作ってみよう。
大きさを決めて、また三つ。お揃いで作ってみたらどうだい?」
「はい」
ルノアは素直に頷いた。
「魔力だけを詰めればいいですか?」
少し考えてから、続ける。
「……何か、思いを入れたいのですが」
そして二人を見つめた。
「お父様と伯父様には、ずっと元気でいてほしいので」
その言葉に、ラルフとヴァリアードの表情が柔らかくなる。
ルノアは二人の健康を思い浮かべながら、魔石へ込めるイメージを組み立てていった。
体内へ入り込む病原菌。
異常な細胞。
不要な脂肪や腫瘍。
体の中にできる石。
そうした病気の原因となるものを排除し、さらに脳、血液、筋肉、そして臓器が健やかな状態を保てるように。
「元気でいられるように……」
ルノアは、小さく呟いた。
そして、自分の中でその魔石を勝手に『元気珠』と名付けた。
魔力が集まり、圧縮されていく。
白銀の光が虹色へと変化し、やがて三つの丸い魔石が空中に浮かび上がった。
それぞれの中央には、紐を通すための穴が開いている。
三つの魔石は、静かに光を放っていた。
「できました。
お揃いの『元気珠』です」
ラルフとヴァリアードは、完成した三つの魔石を見つめる。
そして二人は、またしても言葉を失った。




