22 魔石と魔道具
お父様が、優しくルノアに話しかけた。
「ルノア。卒院記録のことは、そんなに気にしなくていいからね?」
「……はい」
「ヨーリアン帝国の魔術学院は、自分が学びたいと思ったことを学べる環境が整っているんだ。だから大切なのは、誰より早く卒院することじゃない。
自分は何を学びたいのか。
何を知りたいのか。
それをゆっくり考えていけばいいんだよ」
お父様は、穏やかに微笑んだ。
「焦る必要はないからね」
「はい。考えてみます」
ルノアが頷くと、お父様は少し真剣な表情になった。
「それから、魔石作りについても覚えておいてほしいことがある」
「はい」
「魔石作りができる人の中には、魔力過多という体質……病気を持っている人もいるんだ」
「魔力が多すぎる人、ですか?」
「そうだよ」
お父様は頷いた。
「帝王様やご家族の皆様、ヴァリー様、それにエミリアもそうだった。
魔力が非常に多かったから、幼い頃から魔力を魔石にして体外へ逃がす必要があったんだ」
「では、魔石を作ることが治療にもなるんですね」
「そういう側面もあるね」
お父様は少し言葉を選んだ。
「魔力過多の子どもに対して、親族が魔石作りを教えること自体は認められている。身近な家族が安全を確かめながら教える必要があるからね」
「でも……何か問題があったんですか?」
「残念ながらね」
お父様の表情が曇った。
「過去には、身寄りのない魔力過多の未成年者を誘拐して、無理やり魔石を作らせる事件があった。
それだけじゃない。親族が本人の意思を無視して、魔石を作り続けさせる事件もあったんだ」
「……」
「だから今では、世界各国で魔力検査が行われていて、それぞれの国の魔術協会が管理している」
お父様は、ルノアをまっすぐ見つめた。
「最近は、多種族同士の婚姻も増えているから、魔力過多の人そのものも少なくなってきているそうだけどね」
そして、お父様は少しだけ声を落とした。
「だからこそ、ルノア自身を守るためにも、これは絶対に他人へ話してはいけないよ」
「……何をですか?」
「魔石を作れること」
お父様が、指を一本立てる。
「魔空間を作れること」
もう一本。
「そして、魔法の色が見えること」
最後に、優しくルノアの手を握った。
「この三つは、絶対に秘密だよ」
「はい」
「ルノアの身を守るためだからね」
ルノアは、しっかりと頷いた。
「それから、帝王様のご家族との交流についても、必要以上に気にすることはないと思う。
ただ、相手が帝王様のご家族であることは忘れずに、丁寧に接するんだよ」
「はい」
「帝王様のご子息お二人には、それぞれお子様がいらっしゃる。ルノアと同じくらいの年頃だったはずだよ」
「同じ年くらい……」
「そう。長女様はすでに他国へ嫁がれているから、お子様はまだ小さかったと思う」
お父様は少し考えてから続けた。
「ヨーリアン帝国へ渡る前に、もう一度一緒に家系図を勉強しよう。誰が誰なのか分かっていたほうが、ルノアも安心だろうからね」
「はい、お父様」
ルノアが返事をすると、お父様は話題を魔石へ戻した。
「宝飾品についてだけど、最近は宝石より魔石を選ぶ人が多いかな」
「宝石よりも、魔石のほうが高いんですか?」
「必ずしも全部がそうというわけではないけれど、魔石は品質と価値が分かりやすいんだ」
お父様は説明を続けた。
「魔石なら、誰が作ったものなのか、どのランクなのか、どんな魔力や効果を持っているのかが解析される。そして、それを記した魔法証明書を付けて販売される」
「なるほど……」
「だから、購入する側も安心できるんだ」
「では、宝石には証明書がないんですか?」
「宝石そのものには、魔石のような品質ランクの証明はないんだ。ただし、宝石に呪避けや浄化、防御などの魔法効果が付与されていれば、その効果についての証明書は発行される」
「宝石そのものの価値と、付与された魔法の価値は別なんですね」
「その通りだよ」
お父様は頷いた。
「だから、いつの間にか宝飾品も魔石重視、そしてランク重視になっていったんだと思う」
「市で売られている魔石は、詐欺が多いとヴァリー様がおっしゃっていましたけど……」
ルノアが尋ねると、お父様は少し笑った。
「それも、今ではかなり状況が変わっているよ」
「そうなんですか?」
「去年から、帝国の冒険者ギルドや商業ギルドで、簡単に魔石を鑑定できる安価な魔道具が大量生産されるようになったんだ」
「誰でも使えるんですか?」
「ギルドに持っていけば、簡単に確認できるようになった。だから以前のような魔石詐欺は、かなり減ったそうだよ」
「それでも詐欺はなくならないんですか?」
「魔石については、ほとんど心配しなくていいと思う」
お父様は苦笑した。
「何しろ魔石詐欺は、重い犯罪として死刑と定められているからね。
鑑定も簡単にできるようになったし、今ではほとんど見かけなくなったそうだ」
「では、問題は宝石ですか?」
「そうなんだ」
お父様は困ったように頷いた。
「宝石は魔石と違って、明確なランク付けがない。だからこそ、品質や価値を偽る詐欺がなかなか減らないんだ」
「なるほど……」
ルノアは、魔石と宝石の違いを頭の中で整理した。
「帝国は、そういう問題にも新しい魔道具を作って対応しているんですね」
「そうだね」
お父様は嬉しそうに笑った。
「ヨーリアン帝国では、新しい魔道具や新しい発明が次々と発表されるから、見ているだけでも面白いよ」
「私も見てみたいです」
「きっと気に入ると思う」
お父様はルノアの頭を優しく撫でた。
「ルノアも、何か自分が楽しんで作れるものを見つけられるといいね」
その言葉に、ルノアは少しだけ考えた。
誰かに求められるものではなく。
誰かに勝つためでもなく。
自分が知りたいと思うもの。
自分が作ってみたいと思うもの。
それを見つけるために学ぶ。
そう考えると、これから始まる帝国での生活が、少し楽しみになった。




