21 魔石のランクと魔術学院
ヴァリー伯父様が、ふと思い出したようにルノアへ尋ねた。
「ルノア。魔石って聞いて、どんなものを思い浮かべる?」
「あ……」
ヴァリー伯父様は少し考えてから、手を叩いた。
「そういえば、基本的なことをまだ教えてなかったな」
そう言って、魔石について説明を始める。
「魔石は、魔獣から採れるものが基本だ。魔道具を動かすための魔力源にもなる。もちろん、値段によって質がかなり違うぞ。
安い魔石なら、使える時間も短いし、出せる力も弱い。
逆に高品質な魔石なら、長時間使えるし、頻繁に交換する必要もない」
ルノアは真剣に頷いた。
「庶民は自分で魔獣を倒して採ることもあるし、冒険者が採ったものを冒険者ギルドで買うこともある。市にも出回っているけど……まあ、魔石は偽物も多いから、詐欺には気をつけないとな」
「偽物もあるんですか?」
「あるある。見た目だけじゃ分からないものもあるからな」
ヴァリー伯父様は苦笑した。
「魔石は魔道具だけじゃなく、宝飾品にも使われる。特に綺麗に光るものなんかは人気があるけど、ああいうのは大抵、討伐するのが大変な魔獣から採れるんだ」
「ヴァリー伯父様も、魔獣を倒すんですか?」
「頼まれれば倒すぞ。でも、俺は自分で魔石を作るほうが楽だからな」
「作る……?」
ルノアが首を傾げると、ヴァリー伯父様は頷いた。
「魔力を固めて魔石を作るんだ。俺の場合は、相手の瞳を見て作ることが多い。瞳には、その人や魔獣が持っている魔力の特徴が出やすいからな」
「瞳から……」
「もちろん、本物の宝石だってあるぞ。宝石に呪避けや浄化、防御なんかの効果を付与することもできる。魔石を使う場合もあるし、宝石そのものに魔力を込める場合もある」
ヴァリー伯父様は、そこで肩をすくめた。
「まあ、俺たちにもできるけど、専門の職人もいるからな。他人の仕事まで奪っちゃ駄目だろ?」
「そうですね」
「結局、魔石も宝石も魔力に関係するものだから、何を好むかは人それぞれだ。……まあ、俺は宝飾品のことはよく分からんけどな」
ヴァリー伯父様は、あっさりと言い切った。
「その辺はラルフに聞け。魔石作りは高い魔力を持っていないとできないからな」
すると、お父様が小さく息を吐いた。
「ヴァリー様。そこまで説明するのでしたら、資格や品質についてもきちんと説明してください」
「おう、そうだった」
ヴァリー伯父様は、今度こそ真面目な顔になった。
「魔石を作るには、まず自国の魔術学園を卒業した程度の資格が必要になる。その先まで専門的に学べる魔術学院は、今のところ帝国と竜皇国にしかない」
「魔術学院……」
「そう。資格を持っているかどうかでも、作った魔石の価値は変わるんだ。
それに、魔石は作った本人が勝手に値段を決めるわけじゃない。
魔力濃度や魔力量、効果、持続時間なんかを解析用の魔道具で測定して、その結果をもとに品質が決められる」
「では、品質にはランクがあるんですか?」
「あるぞ」
ヴァリー伯父様は、得意そうに胸を張った。
「俺は五S。これが今のところ一番上だ」
「五S……」
「ただし、五Sの魔石を作ると、その日は魔力が空っぽになって倒れる。だから俺は、それ以上は狙わない」
お父様が呆れたように口を挟んだ。
「そもそも、五Sより上を目指す必要がありません」
「まあ、それもそうだな」
「ちなみに、お父様は……?」
ルノアが尋ねると、お父様は少し考えて答えた。
「最近は四Sです」
「四S?」
「これ以上、魔力を増やすつもりもありませんし、無理をすると疲れますからね」
そして、お父様はヴァリー伯父様をじっと見た。
「竜人皇族の方々も五Sでしたよね?」
「ああ」
「今のところ、五Sはヴァリー様と竜人皇族の方々だけです」
「そうだな」
「四Sは帝王様と、そのお子様方でしたよね?」
「……そうだったな」
「でしたら、最初からそこまで説明してください」
お父様の顔には、明らかに怒りが浮かんでいた。
「ヴァリー様は、いつも大事なところを後から思い出されますから」
「悪かったって」
ヴァリー伯父様は苦笑した。
「これも毎年、品質確認が行われるからな。魔力の質や効果が変わっていないか、きちんと調べられる」
そして、少し嬉しそうに笑った。
「それから俺は、ヨーリアン帝国の魔術学院で時々講義も頼まれる」
「学院で講義を?」
「そうだ。あそこは本当に実力主義だから面白いぞ。
貴族も平民も、獣人も竜人も関係なく集まってくる。職業も年齢もバラバラだ。
しかも、自分が学びたい分野を選んで学べるから、必要のない勉強を無理にする必要もない」
ルノアは目を輝かせた。
「それでは、好きなことをたくさん勉強できるんですね」
「ああ。それに、なんと全部無料だ」
「無料……?」
「ただし、半年に一度、試験がある」
ヴァリー伯父様の笑顔が、少し意地悪そうなものに変わった。
「成績が基準に届かなければ、容赦なく退学通知が来る。だから、かなり厳しいぞ」
「半年に一度……」
「俺とラルフは、最短の飛び級卒院記録を持っている。六ヶ月だ」
ヴァリー伯父様は、楽しそうに笑った。
「ルノアも目指してみろよ」
「私もですか?」
「ああ。次の記録は、ヨーリアン帝国の長男、次男、長女の九ヶ月だからな」
ヴァリー伯父様は、何故かそこで顔をしかめた。
「……あいつらの記録には負けるなよ」
「ヴァリー様?」
「本当に、口が生意気でムカつく奴らなんだよ」
「……」
ルノアは、なんとも言えない顔でヴァリー伯父様を見つめた。
どうやら、魔術の話をしている時の伯父様は、とても楽しそうだった。




