20 愛の至極珠 お母様の魔石
お父様が胸ポケットから、薄い水色がかった銀色の魔石を取り出した。
そして、私の右手のひらにそっと乗せてくれる。
「……お母様の匂いがする……」
気がつけば、涙がこぼれていた。
そう……この匂いは、お母様だ。
シトラスのような、すっきりとした爽やかな香り。
私はいつも、この匂いに包まれていた。
眠る前には、お母様が私の胸をゆっくりとトントンしてくれた。
その匂いと温もりに包まれていると、不思議なくらい安心して眠ることができた。
お父様が、優しく言った。
「これは、エミリアが一番最初に作った魔石だよ。
ルノアに魔石作りを教えるときに、渡してほしいと言われていたんだ。
今日、宝箱から出してきた。
これをルノアにあげるよ。
エミリアと約束したからね」
「……お父様も、持っているの?」
「私も実は……いつも身につけているんだ」
そう言って、お父様は服の下から何かを取り出した。
薄水色がかった銀色の水晶珠が、いくつも連なっている。
首の後ろから前にかけて、珠が少しずつ大きくなっていくデザインだった。
「……」
それを見ていると、ふと思い出した。
そういえば、お母様も似たような首飾りをしていた。
薄い翠色がかった銀色の水晶珠。
お母様は、いつも首元に手を添えて、嬉しそうにニコニコしていた。
そういえば、お父様がいつも大切に見ている、お母様の肖像画があった。
温室の椅子にもたれかかり、少しだけ左に首を傾けている。
右手で首飾りにそっと触れ、下からこちらを見上げるようにして、にっこりと笑っている。
私は以前から、少し変わった肖像画だと思っていた。
貴族の肖像画で、こんな表情をしているものは他ではほとんど見たことがない。
こちらの肖像画では、皆ほとんど笑っていない。
感情を表に出さないことが、貴族としてのマナーだからだ。
感情を素直に表していいのは子供だけ。
私も、礼儀作法の授業でそう教わっている。
それなのに、お母様は……。
満面の笑顔だった。
お母様の、あざといほどの可愛らしさが前面に出ている肖像画だった。
……今思うと、少しだけ失笑してしまう。
すると、ヴァリー伯父様が魔石を覗き込んだ。
「私も少し触っていいかい?」
伯父様が魔石に触れる。
「ああ……そうだったな」
少しの間、目を閉じてから、伯父様が穏やかに笑った。
「体からふっと力が抜けるような……そんな穏やかな気持ちになるな。
癒し珠、というところか……ラルフの近くにいると、いつもエミリアを感じていたからな。
その珠を身につけていたのか……懐かしいな。私の分はないのか?エミリアからのプレゼントは?」
お父様は、少し笑って、もう一つの布袋を伯父様へ渡した。
「はい。ヴァリー様、どうぞ」
「……私に?」
「ええ。
『ヴァリーお兄様には必要ないものだとは思うけど……ラルフに嫉妬するから、作っておくわね!』
そう言っていました」
「……ああ、エミリアらしいな」
伯父様は、布袋を大切そうに受け取った。
そして、ふっと苦笑する。
「それにしても……この話し方は面倒だな。
どこで誰に聞かれているか分からないから、崩せないが……ルノアは、本当にしっかり礼儀作法の授業を受けているんだな。偉いぞ」
「ありがとうございます」
「……俺は腕輪か」
布袋から取り出したものを見ながら、伯父様が呟いた。
「首周りに何かをつけるのが苦手だったこと、覚えていてくれたんだな……
エミリア。会いたいなぁ……皆、寂しいぞ」
その言葉に、私は胸がきゅっとなる。
私は伯父様が手にしている腕輪を見つめた。
たぶん、これもレアアイテムなんだろう。
ゲームでは、父ラルフも、攻略対象の一人だった。
でも、そんなお父様にも、ゲームの見出しにコメントがあった。
『あなたは《真実の愛の至極珠》を手に入れることはできるのか? できないのか? 《白銀の誓い》とは?』
……父ラルフの《真実の愛の至極珠》は絶対に手に入れることはできません!
今なら、はっきりと言えますがね……




