19 ルノアの守りたいもの
ヴァリアードが念話で話し始めた。
「ルノアの婚約は、第二のサリドも第三のライドも断れたんだな。
それと、ラルフが体調不良を理由に宰相を辞めるって噂になってるが……実際はどうなんだ?」
「ああ。ハーマイルが宰相を引き受けてくれることになったからな。
二年後、ルノアの魔術学院の入学に合わせて、俺もヨーリアン帝国へ行くつもりだ。
ただ、今は話さないつもりだ。領地へ療養で戻る、と伝えるつもりだ。周囲にも話を合わせてくれ。
国王がヴァリーへの支払いで苦しくなっても、自分たちの贅沢はやめようとしない。もう、見切りをつけた。
今のところ、国替えをする予定はない。
ヴァリーはどうする?」
「ほいじゃあ、俺もしばらく帝国に世話になるよ。
二年後に、向こうで生活できるように整えてもらうか?
……話をしてもいいのか?
でも、ラルフはルノアを最優先にするんだろ?
宰相には戻らないよな?
それなら魔術師団に挑戦してみたらどうだ?
お前の夢だったろ?」
「いや。しばらくは、ルノアとゆっくり自由な生活を楽しむつもりだ。
冒険者をしてもいい。魔石を売れば、生活に困ることもないからな」
「でも、ルノアはどうする?
第三のライドは、まだ諦めてないんだろ? 実際、ルノアなら王妃だって務まるだろう?」
ヴァリアードの言葉に、ルノアは少し考えてから答えた。
「私は、まだまだ勉強不足です。
王妃にもなりたいとは思いませんし、社交界で生きていきたいとも思っていません。
ライド殿下がどれほど優秀な方でも、私はまだ結婚に幸せを見いだせる年齢ではありません。
ただ……お母様と最後に見た、マクアリール領のタスワンズ湖だけは守りたいです。
それから、伯父様とお父様が幸せそうに過ごしているところを、これからも近くで見ていたい。
そして、お母様が見たかった世界を、自分の目で見て、たくさん勉強したいです。
ところで、これって……周りには盗聴されないんですか?」
「俺たちと同等の魔力を持っている奴にしか聞こえない。今はラルフが結界を張ってるからな。
同等となると、帝王とその息子たちくらいだ。
それより上……ルノアより上は、竜人皇族だと思う。
ただ、『運命の番』に巡り合えず、少しずつ人数が減っているとも聞くな。
この国では念話で問題ないが、帝国では注意した方がいいだろう。
ルノアは、ラルフに結界を習っておけ。念話をするときは、必ず結界も張る。そういう習慣をつけた方がいい。
まあ、結界に関しては、ラルフの方が俺より上手いからな。
魔石に関しても、慣れればルノアが一番になるんじゃないか?
たくさん作って、たくさん売れ。世界も助かるからな。
売り方については、竜人のクローを紹介したいんだが……ラルフはどう考えてる?
お前のところの商会だと、扱う量が増えれば調べられるだろ? どうするつもりだ?」
そのとき、ルノアが敷物の方へ移動しながら声をかけた。
「お父様。福ちゃんのブラッシングをしても大丈夫ですか? ご機嫌斜めさんになってしまいました」
「もちろんいいよ」
ルノアが福ちゃんのところへ向かうと、ラルフが続けて言った。
「クロー? 竜皇国第二王子のクロリナラド殿下のことか?
もう何年も公の場に姿を見せていないと聞いているが……頼めるような御方なのか? 竜人皇族だろ?」
「付き合いが面倒で逃げ回ってるだけで、元気にしてるぞ。
世界魔法会議には必ず出席している。
ただ、公には参加者の発表を差し控えているんだ。
それに、竜人皇族なら絶対に探られない天空都市にいるからな。
魔石作りも地味に大変なんだ。ちょうど魔石を頼まれたところだから、必要ならクローに頼むぞ。
まあ、その前に、ルノアがどれくらい作れるかを確認するのが先だな。
この後から教えてもいいんだな?」
ヴァリアードは、そこで何かを思い出したように声を上げた。
「あっ! 大事なことを言い忘れてた!」
そう言うと、福ちゃんのブラッシングをしているルノアのそばまで、ヴァリアードが近づいてきた。
「ルノア。これから俺たちと同じように、魔石の資産を持つことになるからな。
銀行ギルドに預けるのは、この間の報奨金だけでいい。
今後、自分で作った魔石は自分の魔空間に保管する方法を、あとで教える。
国王には、エミリアからの遺産を渡すということで話をしてあるから、その点も大丈夫だ。
それに、ルノアに魔力が見えることも、魔力量が多いことも、まだ知られていない。
王族たちも、俺たちが金を持っていること自体は知っているからな。だからライドやサリドが寄ってくるんだ。
今回の魅了に関する報奨金は、あの金額の半分だ。
残りの半分は、エミリアから預かっていた遺産だからな。
それをラルフとルノアで半分ずつにした。
……遅くなって、本当にすまなかった。
ようやく渡すことができて、俺も安心したよ。
それに、こうしてまた話せる関係に戻れたことも、本当にありがたい。
ラルフとルノアのおかげだ。
俺も、これからは誠実に、真面目に生きるよ。
怒られないようにな。
……エミリアの分までな」
ルノアは、静かに息を吐いた。
お母様の遺産を、レアアイテムの大人買いに使わず、お父様に渡して本当によかった。
そして、これからは自分の力で魔石を作って、お金を得ることができる。
そう思った瞬間、ルノアの目が少しだけ輝いた。
――ああ。
魔道具屋と魔道書店。
自分で魔石を作って、売って、そのお金で思いっきり買おう!
ルノアは、小さく握り拳に力を込めた。




