13 茶会後のルノアの変化
実のところ、魔鳥便のような使役魔は、本来なら便利な道具とほとんど変わらない。
魔力を与え続ける必要があるため、必要な時に作り、役目を終えれば消してしまう。それが一般的な使い方だった。
ラルフも、使役魔を家族のように大切にしている者を見たことはない。
もちろん、冒険者や魔術師の中には、魔獣をテイムし、自分を守るパートナーとして共に生きている者もいる。
けれど、ルノアと福の関係は、それとは少し違っていた。
福を家族として大切にすることで、ルノアの中にある家族への情や、自分より立場の弱い者を大切にする心が育っていくのではないか。
ラルフは、そんなことを考えていた。
もともとのルノアは、幼く、我儘なところがあり、周囲をかなり困らせていた。
高位貴族としての立場を当然のように受け入れ、自分の望みを通そうとするところも強かった。
けれど、王宮の茶会を境に、ルノアは急に大人びた。
周囲をよく見て話すようになり、相手の立場を考えるようになった。
以前の苛烈さが嘘のように消え、今では驚くほど穏やかだ。
それは良い変化だった。
だからこそ、ラルフの中には、どうしても消えない違和感があった。
――いったい、何があったのだろう。
そんな時、ラルフはふと、エミリアが昔話していたことを思い出した。
『女の子は、急に成長する時があるの。
違和感を感じるかもしれないけれど、自分の立場を考えて変わったのなら、じっくり様子を見てあげて。
もし辛そうだったら、寄り添ってあげてほしいの。
そして、どんなきっかけがあったのか、聞いてあげて。
今までの自分の行動を恥ずかしいと思っているのなら、慰めてあげてほしい。
私もラルフに会って、すごく変わったでしょう?
……あの頃は、恥ずかしかったけど』
エミリアの言葉を思い出し、ラルフは決めた。
やはり、一度ルノアに聞いてみよう。
「ルノア」
「はい?」
「お父様はね、王宮の茶会の後から、ルノアが急に大人びたように感じているんだ」
ルノアが不思議そうに顔を上げる。
「何か、きっかけがあったのかい?
誰かに何か厳しいことを言われたのかな?」
ラルフは少し心配そうに続けた。
「もし誰かに何か言われたのなら、お父様が相手の真意を聞いてみるから、話してほしい。
もちろん、何もなかったのなら、それでも大丈夫だよ」
ルノアは、あっと驚いたように目を見開いた。
けれど、すぐに少し苦笑いを浮かべた。
「……サリド殿下が、私を嫌なものを見るような目で見たんです」
「……そうか」
「私は、すごく楽しみにしていたんです。
王族だからって、私は公爵令嬢でしょう?
そんな態度を誰かにされたことがなかったので、すごく驚きました」
ルノアは少し考えるように視線を落とした。
「私が何か、サリド殿下に嫌なことをしたのかなって……」
「……」
「でも、考えてみても、男女で学び舎が違うから、サリド殿下と直接お話ししたことはほとんどありませんでした。
学園で女の子たちと、サリド殿下の噂話をしていたくらいで……」
ルノアは少し寂しそうに笑った。
「それなのに、あんなふうに見られて……悲しくなりました」
そして、しばらく黙ったあと、小さな声で続けた。
「それで……私は今まで、どうだったんだろうって考えてしまったんです」
ラルフは黙ってルノアの話を聞いていた。
「考えていたら、自分がすごく我儘で、横暴な子供だったことに気が付きました」
ルノアは恥ずかしそうに俯く。
「……すごく恥ずかしくなってしまったんです」
その言葉に、ラルフは何も言わず、娘を見つめた。
ルノアは父から聞かれるだろう質問の答えを、ずっと前から自分の中で考えていた。
実際、サリド殿下から嫌な顔をされたことも、無視されたこともある。
学園でも以前の自分は、
――サリド殿下に相応しいのは私しかいないでしょう?
そんな態度を、当たり前のように取っていた。
だからこそ、ルノアは思っていた。
サリド殿下に嫌な顔をされたのは、自分にも原因があったのだろう。
絶対に自分が悪い。
そう思ったからこそ、今までの自分を振り返ることができたのだ。
ルノアがそっと父の顔を見る。
「……お父様?」
ラルフは、少しだけ険しい顔をしていた。
怒っているようにも見える。
ルノアは不安そうに首を傾げた。
するとラルフは、小さく呟いた。
「……我が家は、王家に舐められているな」
「え……?」
「考えを改めなくてはならないな……」
低い声だった。
ルノアは、その言葉の意味が分からず、ただ父の顔を見つめていた。




