3.王子様と側近
(この世界にも桜があるのね)私はそんなことを考えながら王立学園の中庭を歩いていました。
見たこともない綺麗な花の装飾が施された白い噴水を真ん中にして、その周りを囲むようにレモン色のベンチが並んでいます。そしてそのベンチの周りには桜の木が植えられていました。
私はベンチに座りながらぽこぽこと水が湧いて、落ちていく噴水をぼーっと眺めていました。
そうすると、後ろの方からザッザという足音とともにこんな声が聞こえてきました。
「来月どうしても今日の入学式に間に合わなくて、遅れて入学してくる女の子がいるらしいけれど、めちゃくちゃ可愛らしい」
「へぇ。それは楽しみだね」
(やっぱりいつの世界も転校生というのは噂になるのね。来月ついにヒロインとご対面かぁ)
私は聞こえてきた声をもとにしてそんなこと考えながら、持ってきていた本を読んでいました。
そうしていると、向こうから聞こえてきた足あとは、私のところでピタリと止まりました。私が何事かと顔を上げると、少しバツの悪そうな顔をした私の婚約者が「あ、リーファ嬢、こんにちは」と言いました。
「ごきげんよう。レオ様」私は本を傍に置くと立ち上がり、スカートの裾をすこしつまんで膝を折った形式に習った挨拶を返しました。
(なるほど、さっきの噂話は王子がしていたのか。やはり主人公というのは、本人が出てくる前から攻略対象に好印象を抱かせているものなのね。さすがだわ)そんなことを考えながら顔を上げると、彼の傍に控えていた男性2人のうちの1人に目が行きました。
日の光を受けて輝く銀髪はまぶしく、その髪の間から見える感情の読めない黒真珠の切れ長な瞳はそれはそれは綺麗でした。
私は画面越しではなく直接初めてみる自分の推しにドキリ、としたもののそれを表には出さず「これからは、学園でお会いできるので嬉しいです」と王子の方にさっと視線を戻すと心にもないことを言いました。
「あ、あぁ。私も嬉しいよ」何を思ったのか少し顔を赤くした王子は頭をぽりぽりとかきながら言いました。
「そういえば、紹介していなかったな。こっちが大臣の息子のギル、通称銀狼でこっちが―」王子が私に自分の後ろにいた人物を紹介しかけたところを遮り、
「ルークです。夜明姫」そう言いながら私に握手を求めてきたのは、この世界の攻略対象の1人である、隣国の第2王子のルークでした。
柔らかそうな栗色の髪の毛に緑の瞳でどことなく優し気な彼は、「夜明姫の口付け」の攻略対象の中では癒し系のキャラクターでした。




