21.二度目のダンス
仮面を被った人々が楽しそうにダンスを踊る広間を私は通り抜けます。時折ドレスの裾を踏まれそうになったりしながら、なんとか先ほど銀狼に教えてもらった控えの部屋に私は辿り着きました。
しかし、金色の繊細な細工が埋め込まれている白い重厚な扉を恐る恐るノックをするも返事がありません。
パーティの喧騒でノックの音が聞こえないのかしら?
そう思って、「シャオ? ルーク?」と言いながらそっと扉を開けましたが、部屋には誰もいませんでした。
もしかして銀狼に聞いた部屋の場所を私が勘違いしたのでしょうか。
そう思った私は再び彼に部屋を訪ねるために、先ほどいた場所に戻ろうとしました。
そうして広間を歩いていると、
「一曲、いかがですか」突然後ろから声を掛けられました。
振り向くと、目の周りから鼻を覆う仮面を付けた群青色の髪の毛の男性がいます。
さっきダンスを踊った静かな男性です。ただ、今回の夜会は一人の相手に対して1曲という決まりがあります。
なぜ、二回もこの人は申し込んでくるのだろう...
「あ、あの...さっき踊りましたよね?」私は少し勇気を出して聞いてみました。
しかしながら、彼は困ったように少し首を傾げて、
「いえ、今宵初めてお声掛けさせて頂きました」と少し悲しそうな寂しそうな声で言いました。
心なしか、仮面の奥に見える黒い瞳がうるうると潤んでいるように見えます。
まぁ、いっか。ダンスを踊りながら会場を見渡した方が、会場内で人ごみをかき分けて探すより銀狼を見つけやすいかも。
私はそう思ったので、彼の申し出に応じることにしました。
そして、先ほどと同じく私たちは静かにダンスを踊ります。しかしながら、私は会場内を見ていてあることに気づきました。
先ほど一度この男性と踊った時も会場内を眺めていたのですが、その時から時間が経過しているはずなのに人々の立ち位置が変わっていないような気がするのです。
気のせいかな...
銀狼を見つけた私は、ダンスが終わると群青色の髪の毛の男性にお辞儀をして銀狼のもとへと向かおうとしました。
けれども、彼の元に向かう途中で私はビュッフェからチョコレートをつまみ上げて食べようとしているルークを見つけました。
私は慌てて駆け寄り、
「ちょっと、ルーク、さっきウイスキーボンボンを食べて寝てたんじゃないの?」と思わず尋ねます。
まさに、チョコレートを口に入れようとしていた彼はびくりとしてこちらを見ました。
「え? これウイスキーボンボンなの?」
急に話しかけるからびっくりしたよ、と言いながら彼はチョコレートを名残惜しそうに元に戻します。彼の仮面は目の部分のみを覆うタイプのため、への字に曲げた口元が殊更強調されていました。
「リーファ! やっぱり銀狼が呼んでくれたんだ」
向こうからお皿にたくさんフルーツを載せたシャオがにこにこしてやってきました。
今日は薄ピンク色のドレスに、キラキラと光る星空を散りばめたようなショールを羽織っています。
「えっと...」私は王子に招待状を貰ったはずなんだけどな...と言いかけた時、
ぐいと腕を何者かに引っ張られました。
「っ」驚いて横を見ると、表情を強張らせた銀狼がいつの間にかこちらに来ていました。
「悪い、ちょっと用事。ルーク、そこのチョコレートは食べるなよ」
ぽかんとしている二人にそう言い残して、彼は私をぐいぐいと引っ張っていきます。
「ど、どうしたの?」彼のただならぬ雰囲気に驚きながら私は尋ねました。
「さっきからみんなの様子がなんかおかしいねん。一回挨拶済ませた役人とかがまた同じ挨拶をしてくるねん」
誰にも聞こえないような低い声で彼は言いました。この時私たちは再びバルコニーに戻って来ていました。
そして、心地よい夜風を浴びながら私たちは中庭を眺めます。
「そう言えば私も似たようなことがあった。あ、でもルークはウイスキーボンボン食べてなかったよ?」
「それは俺も見た。その時思ってん、もしかして...俺たち過去に戻ってるんじゃないかって」




