19.密談
目の前に広がるのは鬱蒼とした木々しか見えない暗い森。
時折、暗い闇の底から這い上がってきたような異臭を含む湿った風が、緊張でぎごちなく歩く私たちを舐めるように前方から吹き付けては通り過ぎていきます。そして遠くから聞こえるのは、今まで聞いたことも無い見知らぬ鳥が、キィーキィーと鳴く声。
さすがに、パーティ会場の喧騒はここまでは聞こえてきませんでした。
どこから魔界なのか、いまいち分からないまま私たちは「蚊取り線香」を通り過ぎて道無き道を進みます。
(今まで魔界に行ったことあるの?)
前方にいるはずの2人には聞こえないように、自分たちの足音にかき消されそうな声で私は聞いてみました。
(あるわけないやん、恐ろしい)
どちらからともなく繋いだ手をぎゅっと握り締めながら彼は言いました。
(ま、でも前しか見たらあかんで。吟遊詩人の歌にもあるやろ?)
彼が続きを話そうとしたその時、私は前方で物音がしたので唇に指を当てて合図をします。
私たちは森を抜けていつのまにか開けた土地まで来ていたのでした。前方に泉が見え、その傍には王子とローズの二人が寄り添うようにして並んで座ってました。
私たちは息をつめてそばの岩陰に身を潜めます。
「やっと二人きりになれたね、ローズ」
「えぇ、ここなら」
そう言って二人は親密そうに見つめ合います。
私たちが固唾を呑んで見守っていると、王子はローズの背中にそっと手を回して彼女を抱きしめました。
「こうやって君を抱きしめるのも久しぶりすぎて...」
「あら? 私はいつでもしてくださって構いませんのに」
「君ったらまたそんなこと言って僕を困らせる。あの女が僕に惚れるまでの我慢だよ。そうしたら君を完全に...」
「まだかかりそうなの? 惚れ薬でも使えばいいじゃない」
「薬を使うと不純物が混じるから...」
ちょっと会話内容でよくわからないところがありましたが、私は興味深々で二人の会話に聞き入ります。
「それにしても以外だわ。貴方がこんな力を持っていたなんて」
ローズが関心したような声を上げました。
「結界のこと? 誰もここに来られないように魔界の本流の力を流してこの泉を囲ったからね。この世界の人間は入ってこられないさ」
少し嬉しそうな王子の声を聞きながら、私たちは思わず顔を見合わせたのでした。




