12.チョコレート菓子
「ううん、気にしないで。私のほうこそごめんね」
私がそう言うと安心したようにローズがほっと息をつきました。
そんな私たちを遠巻きに見ているレオは不機嫌そうに見えましたが、関わると面倒そうなので気づかないふりをしました。
そうしていると、
「ローズ様、先生がお呼びみたいです」クラスメイトの1人が私たちに近づいてそう言いました。
「あ、じゃあ私はこれで...」ローズはそう言うとちらりとレオの方を見て、去っていきました。
彼女が去ると遠巻きに見ていたレオが近づいてきました。
「な、なぁ」少し言いづらそうに切り出してから、何かを決心したのか、
「リーファ、もうちょっとローズと仲良くしてくれないかな」とぼそりと言いました。
「今回の件じゃなくてもさ、お昼ご飯の時だってあまり話していないだろ?」口調は責めているようですが、彼をちらりと見ると少し決まりの悪そうな顔をしています。
「わかりました、至らない点があり申し訳ございません」私はそう答えましたが、個人的にはレオ王子とローズがより仲良くなってほしいので二人の会話に入っていないのです。
ですが、こうした私の行動が周囲に不自然に見えていたのならば、現在は一応王子の婚約者であるため、不自然に見えない程度には会話に入らないといけないと考え直しました。
◇◇◇
それからは、私はなるべくローズにもたくさん話しかけて表面上は仲の良いクラスメイトであり、友達として日々を過ごしておりました。
しかしながら、私はあくまでこの世界での役回りは悪役令嬢です。
将来的にはどう転んだとしても、ローズと敵対しなければならないでしょう。
それに、以前の噂を流したのはおそらくローズだろうと私は推測しています。
「ちょっと、リーファ聞いてる?」
少し焦ったようなシャオの声がして、私は急に意識が現実に引き戻されました。
「え、えと何だっけ」
慌ててシャオの方を向くと、またリーファは考え事してたな、なんて顔をしながらシャオが
「これ混ぜるからオーブンの中みてきてほしいの」と言いました。
そうでした、現在私たちは治癒魔法の授業中で、魔法薬を食べやすいように上手くお菓子の中に
練り込む作業をしているのです。良薬は口に苦しという諺があるように、どの世界でもやはり薬というものは不味いものなのでした。
「上手くいきそう。後もう少しで焼き上がるから」
オーブンを確認すると綺麗に焼き上がったチョコレート菓子があり、後はシャオが泡立てている魔法薬入りのクリームをお菓子に飾り付けるだけです。
「それならよかった、今度は失敗しなさそうだね。さっきこれ味見したんだけど全く薬の味がしなかったし」
先ほどはチョコレート菓子のほうに薬を入れて、苦すぎて食べれず失敗してしまった私たちは再チャレンジしたのでした。
「ねぇ、僕たちのどう?」
そう言いながら、ルークが別のテーブルから私たちの方にやってきました。
差し出されたお菓子は、綺麗にベリーが盛り付けられたムースで見るからに美味しそうでした。
「どんな魔法薬を入れたの?」シャオが興味深々で尋ねます。
「僕たちの班は気付けの魔法薬だよ、あれすごく不味いから味を誤魔化すの大変だったんだよね」
そんな彼の言葉を聞きながら、スプーンですくって一口食べたムースは柔らかな甘さで、まさか魔法薬が入っているとはあらかじめ聞いていなければわかりませんでした。
「すごいね、全然わからない」私と同じように食べたシャオはそんな感想を述べます。
それに同意しながら、私もオーブンから焼き菓子を取り出したのでした。
「君たちはどんな魔法薬を入れたの?」ルークが私たちのお菓子を見ながら尋ねます。
「変化の薬だよ」すかさず私が答えると、
「あー、それは味を誤魔化すの大変やったんちゃうん?」どこからやってきたのか銀狼が焼き立てのチョコレート菓子をつまみながら言いました。
「そっちは何も入ってないよ」シャオは自身が混ぜていたクリームを指さしながら言いました。
そうしてルークと銀狼は二人して、クリームを味見しましたが、
「これも、なかなか...」顔を見合わせてそんな感想を述べました。
「ところで、レオ様はどうしているの?」辺りをキョロキョロと見渡しながらシャオが尋ねたので私は
「ローズと組んで作っているよ」とすかさず言いました。
今回の授業はゲーム内における重要な悪役令嬢イベントなのですが、私としてはそっとしておいてほしいところです。
ちなみに、ネタバレをすると私こと悪役令嬢リーファがお菓子に怪しい魔法薬を混ぜてローズに食べさせようとするところを王子が助けます。
しかしながら、さすがに私はいくら悪役令嬢を演じたとしても、そこまでする気はありません。
この作ったお菓子は先生に提出したら、薬の入っていない残りは美味しく食べようと考えていました。
「ちょっと、リーファ、王子にこれ持っていって様子みてきたら?」遠巻きに楽しそうに話す二人の様子を眺めていたシャオが、王子の婚約者である私に気を使って
そんなことを言いました。
「大丈夫よ、そこまでしなくても...」この世界ではあくまで悪役令嬢につき、私が下手に二人に近づいてストーリー通りの展開にはしたくないのでした。
確かに、今私が作ったお菓子は何も入ってないけど、悪役補正がかかってどんなイベントが発生するかわかりません。
私はそれを恐れているのでした。
けれどもそんな様子の私を見た銀狼が何を思ったのか、
「これ美味しかったし、シャオの言う通り持っていってあげたら」と言ってきたのです。
さすがに二人にそう言われると、私も断れなくなり、仕方なくチョコレート菓子を手に取ったのでした。
片付けは任せといて、そんな声を背中で聞きながらレオ王子たちに近づきます。
ゲームで見た展開通りの光景になってしまい、何も入っていないお菓子なのに私はなんだか不安になってきました。
「あ、リーファのところはチョコレートにしたんだね」王子が近づいて来る私に気づいてすかさずそう言いました。
「はい。こちらには薬入れてませんから」私はそう言っておそるおそる王子にチョコレート菓子を差し出すと、
「あら、私すごくチョコレート好きなんです」そう言いながらローズがさっとお菓子に手を伸ばしたのでした。




