10.広がる噂
「終わったか?」私がちょうど着替え終わったところで、銀狼さんが声を掛けてきました。
「え、ええ」私は待たせてはいけないと思って、すぐに彼のところに向かおうと奥から出て来ると早足になりました。
が、
「うわっ」思わず先程のクローゼットの開けたままだった扉で見えなかった机の角につまずいて、バランスを崩しました。
コケると思ってぎゅっと目をつぶったのですが、ぽふっと柔らかい何かが私のことを包みました。
恐る恐る目を開けると、私は銀狼さんに受け止められていました。
「なんか前から思ててんけど、見かけによらずどんくさいやつやな」彼はそう言うとそっと私を支えていた腕を放しました。
「うっ」私は反論の余地がありませんでした。
そこで、「あ、あのギルさん色々ありがとうございました」私はすかさずお礼を言って、とりあえず話題転換を計りました。
「うん、気にせんでええよ。侯爵令嬢ともあろうお方が、ぶどうジュースまみれのまま街中歩かれへんもんなぁ」彼は意地悪く笑ってそう言いました。
その時、私は初めて見る彼の表情を宿した瞳にどきりとしました。そして、彼の指摘通りに私も思う節があったため、私はただ何も言えず彼の顔を見つめるばかりです。
「こういう時のために、出来るなら執事とか連れてきてた方がええよ」彼はそう言うと、じゃ行こかと言って歩き出しました。
それからちょっと振り返って、
「ギルじゃなくて、銀狼でええよ」と言いました。
◇◇◇
次の日
「シャオ、おはよう」私が朝学園に着くなり、少しザワつく教室でシャオに挨拶をすると彼女が自分の席から私の方に飛んできました。
「ちょっと来て」少し強ばった顔の彼女はそう言うと、私の返事を待たずに私を教室から連れ出します。
「まずいことになってるわよ」適当な空き教室を見つけて椅子に腰かけた私に、彼女は開口一番早口にそう言いました。
「どうしたの?」私はそんな彼女をしかと見据えて尋ねます。
「どうしたもこうしたも昨日の件で、貴方は謝罪したローズ嬢に冷たい対応をとったことになってるわよ」
シャオは私はあの時貴方の隣にいたから、そんな対応してなかったことは知ってるけれどね、と付け足しながら言いました。
「具体的にどんなことになってるの?」私は詳しく聞こうとそう尋ねました。
「ぶどうジュースをうっかりこぼした後、すぐに謝罪し拭き取ろうとしたローズ嬢に対して、最低な女って彼女にだけ聞こえるように呟いたって」
シャオは一体誰がこんな噂を広めたのか、と呆れたようにくるりと目玉を回してそう言ったのでした。




