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魔法の呪文

 僕は中学校の図書室奥にいる連中に頼んで何枚かの髪の束を分けてもらうと、マリの眠る病室に向かった。手には山本屋の今川焼き。

 彼女は相変わらず化粧っ気のない寝顔だった。髪は切ってないからか長く伸びていた。酸素用のマスクをつけ、手には心電計がつながっている。


「随分、待たせちゃったね。君の欲しかったものを見つけてきた。」

 その時、生暖かい風が窓から一瞬吹き込んで消えた。僕はあわてて、親父から借りていたサングラスをかけた。

 目の前には恐ろしい形相をした鬼のような女性の影が見え、その影と僕の間に長い黒髪のパジャマ姿の後ろ姿の女性が立ちふさがる。


 おそらく例のストーカーの怨霊だろう。呪いがまだ成就してないということなのか。後姿はそこに横たわっているマリだった。怨霊の狙いは、僕のようだ。

 僕は、救急同好会から預かった護符を腕に貼ると怨霊を掴んだ。

「呪詛返しの護符だ。ただし、失敗すればただではすまんぞ。」

 同好会に教わったとおりの呪文を唱える。護符とともに悪霊は黒い霧となって見えなくなった。


 僕は、マリの眠るベッドの横に行くと

「ずーとずーと来なかったら、その時は僕が家族だ。」

 そういって、手に握っていたものを意識の無い彼女の右手の上へと置いた。部屋のカギ。結婚とか同棲とかではない。いつも一緒に居てあたりまえの存在。いなくなるなんて考えられない相手。たわいも無いことを言いいあうが、困ったことがあれば全力で助け合える。


『家族』


 それが彼女のずうと求めていたものだった。幼いころから急がしかった両親。唯一の理解者の兄も海外に行き、年に一度あうだけ。母も知事になってからは別居だった。そんな彼女は、まずネットに家庭を探した。しかし、そこには安らぎは無かった。次に友人に求めた。楽しかったが、やがては消える存在だ。そんな中で、父親の死をきっかけに再び家族に戻ろうとしたが、おそらくうまくいかなかったのだろう。そんななかで、兄との家庭ごっこすら、理不尽に奪われた。

 子供のたわいも無い発想からでた無責任な言葉といってしまえばそれまでかもしれないが、マリにとっては残された唯一の希望だったのかもしれない。

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