忘れ物
「どっきりじゃないよね。」
「誰が、猿相手にそんな面倒なことするか。」
エレンに話しても解決しない。占い師も信用できるかどうかわからない。
僕には単に好き嫌いとか恋愛の問題とは思えない。それなら、あいつはこんな回りくどいことしない。まず、僕自身マリのことが好きかと聞かれても、家族と同じような感覚しかない。それは、あいつも同じだろう。家族だって互いの真意なんてわからないんだ。そもそも相手の何が好きと言える関係から恋愛が始まるわけでもない。何も知らずに好き嫌いなんて言っても所詮は絵に描いた餅。
なら、あいつは僕に何を求めているのだろう。それもわからずに、見舞いに行ってもかけてやれる言葉もない。
「マリの残していった私物、まだある?」
エレンの家を出る時に残されたものの中に、少しでも手がかりがないかかと思った。
「あるよ。パソコンはパスワードがかかっているかもだけど。」
放課後、エレンの車で彼女の家に向かった。うちの家計では自分の車なんてとても持てない。やはり、金持ちは違うな。
「うちなんて、アメリカじゃ中流だぞ。」
本当なのか謙遜なのかわからないが、いかに日本人が貧乏なのか改めて思い知る。
取り合えず、書きかけの絵コンテやらメモを見る。ほとんど政治ねたで恋愛の話題はない。
「あいつは、何がしたかったのかな。」
「動画を投稿する人間に共通なのは、存在のアピールだ。人は、一人では自分が何者なのかを感じることができない。誰かの目を通して、自分を意識できるんだ。経営学の基本だ。」
エレンの話をまとめると、親が多忙だった彼女にとって、ネットが家庭だった。だが、実際の家族のもとに戻ったことで、ネットという家庭は不要になったというのだ。父親の死が家族の団結を強めたのだろう。しいていうならば、この部屋を後にしたのと同じく、いつまでも兄の世話になれないという重圧は感じていていたかもしれない。
彼女の心の忘れ物が見つけて、堂々と面会に行こう。そのためにと、心理学の講義に積極的に参加した。




