表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駆け落ちする予定です。  作者: クロタダ
おまけ
5/5

誰も知らない部下の話

何年か前の話をしよう。

俺は当時人事のミスと人手不足という理由により本来と違う所に配属になった事があるんだ。

本来の業務の実績もあるし、後見人もいるから大丈夫だと安心していたから、その時は最悪だと思ったんだ。

ん、違う所に配属されたから最悪ってどういうことかって?

今でもそうだけど、ここは2っの派閥が強いんだ。

成果主義でミスしたらみんなでフォローしあうような関係の(しゅう) 高里(こうり)派と実力主義で能力さえあればすぐ上の地位につける王 陽明派。

互いに正反対な勢力は当事者もそうだが恐ろしく仲が悪かった。

俺は本来ならば周派に着くはずなのに王派、しかも中枢である彼の元で働くことになった。





実際に俺は浮いた。浮きに浮きまくった。だって周りがエリート集団なんだから。

しかもちょうどその時名家五家の一つ朱家の三男、(しゅ)子忠(しちゅう)が補佐官からの異例の出世をしたことで話題となっていた。ついでに彼の傍若無人な態度も有名だった。

そして配属されて一週間後それが発揮された。

『彼女は役に立たない。そこにいる彼のほうがマシだ』

と本人と王陽明の目の前で言った。ついでに俺も巻き込まれた。

その本人こそ王陽明の右腕と言われている、(ちょう)(あん)さんだった。

あーあれか、本人の前で言うから悪口じゃないとか思っているか。つーか、俺を巻き込むな。 

そう言いたくなったが我慢した。

で上司、王陽明はというと・・・笑っていた。

大笑いして杏さんが仕事が出来ないことを認めた。

杏さんも否定はしなかった。

そして上司は言った。

『杏は信頼出来る部下だから俺が置いているんだ』

その意味が分からなかった。

杏さんの次に古株の人達は教えてくれなかったため俺の同期や年の近い先輩達の間では色んな憶測が呼んだ。

賄賂、上司と寝てる、後見人が友人である次期将軍候補李夏白だから等。

また言われるのはコリゴリだったため俺自身気になっていたが関わらないようにした。

それから朱子忠は毎日上司に言うようになった。

そして上司は笑い、杏さんはそれに微妙な顔して対応する。

そんな毎日だった。






そんなある日些細なことだがあることに俺は気づいた。

初めは窓に飾ってある花は誰が飾っているのだろう。

俺にとって殺伐とした中で一輪咲く花は俺を毎回和ませてくれた。

初めは侍女達がやってくれていると思っていたが上司の許可が無ければ侍女がこの部屋に入ることはない。

許可する側の上司でさえ自分の女を入れることはなく約束しても外で待たせていた。

そして浮かんだのが紅一点の彼女。いや直感的に彼女しかいないと思った。

女だからとかそう言う理由でもなくて、ただそう思った。

そして次の日の朝、彼女が部屋を掃除している姿を見た。

既に昨日と違う花が飾られていた。

ここでようやく杏さんを手放せない理由が分かった。

ここにいる奴らは優秀な奴程自分の仕事にプライドを持っている。

が、俺もそうだが皆自分の事しか考えてない。考えてないから周りを気にしない。

ミスをしても見て見ぬ振りをする。

でも杏さんは周りを気を使っている。

お茶を周りに配るのも、ミスをフォローしてくれているのも杏さんだ。

気がつけば俺は杏さんに挨拶をしながら手伝っていた。






それから朝早く来て杏さんの手伝うようになった。

1、2ヶ月たった頃突然杏さんと子忠が仲良くなった事件も起き噂がまた流れ始めたり、少しずつ同じ時にやって来た同期や噂話をしていた先輩達も飛ばされ始めた。

ああ、もうそろそろ俺も飛ばされるのかと覚悟し始めた時杏さんの裏切りが起きた。

いや、実際は裏切っていないと言っていたけど。

彼女の上司の敵と言っても過言ではない、周高里にうちの部署の一部の資料を渡したのだ。

それから大騒ぎだった。

腹心の杏さんの位置が子忠に変わったり、周高里が杏さんを欲しがって人事に口を出したり。

同時に他国への漏洩が発覚して李夏白が保護したという栗色の髪が印象的な異国の少女が連れ出され疑われたり。

俺が通常書類をこなしている間に周りはバタバタとしていた。








そして数週間後、王の前で数名が断罪された。

告発者は王陽明と周高里。

そして王陽明の横には確かに杏さんがいた。

杏さんは情報漏洩の犯人をあぶり出すためには双方の派閥のトップが協力しなければならないと考えその為に説得していたらしい。

一時子忠が右腕に変わったのも動き易くする為でうちの部署の書類も勝手に持ち出したのは本当だがその書類もあぶり出すために必要でこれが決め手となった為結果的にはお手柄と言うわけである。

ついでに周高里が杏さんが欲しがっていたのも事実で全てが終わった後王陽明の前で口説かれていた。

(その口説きが仕事以外も含まれていることは皆気付いていたが聞かない振りをしていた。多分気付いていないのは当事者である杏さんと色事には疎そうな子忠、それから双方が喧嘩腰になっているの抑えようとしている李夏白だけと思われる)

その行動力も凄いが双方を説得してしまったのも凄い。

これが王陽明の右腕なのかと納得してしまった。

そしてその日盛大な宴が行われた。

盛大、というのは主催者が王陽明にも関わらず周高里、その部下達も招かれたからだ。

それからお酒の席が苦手と言っていた杏さんに栗色の髪の少女清水百華、将軍の位に上がることが確定された李夏白に彼についてきた武官達。

かなりの人数で何時もより賑わっていた。

少女も着慣れない服を着がせられ大勢の前で晒し者のように座らせられて始めは李夏白の側を動こうとせず人形のように固まっていたが時が経つと武官達のお酌や話し相手をするようになっていた。ついでに武官、というより男にお酌する度に李夏白の眉間が深くなっていく。

清楚で箱入りお嬢様みたいにお淑やかなタイプが好きになりそうだと思っていたが、ああいう活発的で可愛いタイプが好みなのかと意外に思う。

そういえばちらっと彼らを見たがまるで親鳥とひよこみたいと思っていたが今考えるとまるで、恋人同士のような・・・







急にザワザワとなった。

皆、一点を見ていた。

居なくなっていた杏さんと周高里が彼を探していた部下と共に帰って来た。

そして杏さんは王陽明の側に座った。

少しの間芸妓を侍らしながら話をした後(多分彼女をからかっているだろう)芸妓達を下がらした。

正直に言おう、驚きしかない。

宴中はずっと芸妓達を誰か侍らしている。

虎視眈々と上に上り詰めようと媚びを売るものがいても下がらすことはないし、お開きするときも芸妓達の中から気に入った者を連れて行く。

まるで病気、そのぐらい女誑しだと認識していた。

いや、杏さんが女ではないとかではないが杏さんは別みたいな雰囲気が常日頃からあった。

そして少し話をして・・・臣下の礼をとった。

周りのざわつきは大きくなり、話していた相手である王陽明の顔は驚いている。

そして俺は杏さんの行動に冷や汗が出た。

臣下の礼は忠誠を誓いを表す。

通常は王の前だが忠誠を誓う人間の前、たとえば武官で言えば自分の主人の前でする。

でも武官以外の人間が、公場の場で、王以外の人間に忠誠を誓う臣下の礼をとるのは危険だ。

ある意味宣言だからだ。

礼をとった人間以外使えないと言う意味で、もし上司が失脚したりして左遷された場合自分が被る被害は大きい。

確かに宴で酔っていたという言い訳は出来るかもしれない。

でもこんな大きな宴でそんな言い訳通じない。

自分でも人の行動にこんなに慌てたことがないぐらい慌てた。

でも杏さんを見つめる王陽明の顔は穏やかだった。

・・・今思えば裏切り行為が当たり前の世界に杏さんの行動は王陽明にとって嬉しいものだったのだろう。

王陽明は長年付き合いのあった友に裏切られたことがあると聞いたことがあった。

信じる行為がこの世界にとって残酷な結果が待つのは必然的だけど杏さんは証明しようとしていた。

信じて欲しいと。

ああ、確かにあなたにとって信頼出来る部下だ。









ちょうど一年が経っていた。

俺は元々希望していた部署に行くことになった。

杏さんは寂しくなるね、と本当に寂しそうに笑ってくれた。

そうですねっと笑いあっている後ろで王陽明と朱子忠に睨まれていることは気づかない振りをした。

最後の後ろから二番目の出来ない部下の意趣返しである。

それからその半年後俺は結婚して地方のほうに舞い戻ることになりあの人達がどうなったのか知らない。

そうこの前出た異動命令さえ出なければ一生知ることもなかったのだ。

「松莉君、お久しぶり」

「お久しぶりです。またよろしくお願いします」

後ろでもの凄く睨む上司がいることも、その上司の所に杏さんが嫁ぐなんて知りたくなかった。

彼女に対しては良かったですねと声をかけるべきだろうがかけたくないのが本心だ。

と言うか俺結婚して2歳になる娘がいる父親なんですけど。





・・・俺はこれから前途多難になりそうです。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ