混乱
テロsideの話です。多少時間軸のずれがありますがご了承下さい
テロは見事に咲き誇る大輪の花を見ても何も心が動かされることが無かった。なぜなら彼の瞳にはその花は映っておらず、その瞳の先に映るのは花に捕らえられた愛しい妻の姿だけだった
「カ…ティ」
テロは眠るような彼女に声をかけ、起きてくれる事を願った。何度も目にした寝起きが苦手な彼女が「う~」と唸りながら目を開ける姿を見せて欲しいと心の底から思った
「カティ…ほら…いくら植物が好きだからと言って、そんなベッドは私は嫌ですよ」
テロは一歩…カティへ近づくとその顔色に目を逸らす
「やっぱり調子が悪かったんでしょう。天界に戻りましょう?今度は私が全部受け止めますから」
テロは返ることの無い問いかけに、奥歯をかみ締める。すでに頭では理解している事に心がついていかない。手を伸ばすと触れられる距離になっても恐怖で触れる事が出来ない。カティ自身を目の前にした感情はカティの畑での暴走など些細な事に感じられる程の物で、一瞬で自分の身を焼いてしまいたい衝動が次々とわき起こる。それを止めたのはカティの表情だった
「どう…して…」
テロが見たカティの表情は満たされていて、まるで微笑んでいるかのようだった
「どうして、一人きりなのに…笑って…るん…ですか…。私が側に居ないのに!!どうして一人で逝ってしまったのに笑ってるんです!!!」
テロがきつく握りしめた拳をカティに寄生した蔦にぶつけると、蔦はみるみるうちに茶色くなり枯れ落ち、粉砕して消えた。カティの体内に伸びていたそれも枯れ消え、支えを失ったカティはテロの腕の中に倒れ込んだ。テロは自分の外套をカティに着せるとそっとカティを床に下ろした
「カ…ティ…」
「カ…ティ…、カティ……カティッ!!!」
テロはカティの肩に手を置いてその名を呼びながら彼女を揺さぶり続けた。彼女が再び動く事が無い事を認める事が出来ずに長い間それを繰り返した。
そして、突然その手を止めた
「…カティ。この世界に一人で生きるのは…私には出来そうにない…全てが終えたら私は…君の側に行きたい。許してくれますよね…」
テロはそう言うとカティを抱き上げ、転送の呪を唱えた。
*
同じ時、天界ではテロが畑で暴走した波動の余波を受けカンデラとシルヴォが倒れ込んでいた。テロが地上から時の歪みへと移動したおかげで五帝の負担が一気に減り、今は二人が寝ている場所に他の帝も揃っていたが、皆額に皺を寄せ、難しい顔をして立っていた。そんな中沈黙に耐えられず口を開いたのはアデライドだった
「さっきのテロ様の波動といい…その後に何処かへ転送された事といい、一体地上で何が起こっているのよっ!!!」
「落ち着けアデリー」
「マティアスっ!貴方カティの事が心配じゃないのっ!?」
「落ち着けと言っている」
アデライドは冷静なマティアスの言葉の下で彼自身もかなりの抑圧をしている事を感じ取り、ぐっと唇を噛むとぷいと帝から顔を背けた
「…先程のテロ様の波動は何らかの力によって地上への影響は皆無だったが、天帝が不在の今、五帝が地上の安定を取らねばならない。しかもカンデラとシルヴォは暫く使えない。我ら三帝だけで行わなければならないんだ。他の事に力を割いてる余裕はない」
「多少の無理をすれば出来るかもしれないじゃない!!」
「いつテロ様が戻るかもわからないんだぞっ!!カティが戻った時に地上が無くなっていたなどと言う状況を作りたいのかっ!!!」
段々熱くなる二人を止めたのはやはりウーゴの一言だった
「二人とも好きな様にすればいい。俺は俺のやるべき事をする」
その言葉に二人ははっとなり、そして自分自身の立場を思い出した。世界は地上だけでは無い。二人は地上にばかり目がいっており、天帝が居場所不明の不在という事は天界さえも混乱に陥る可能性があるという事を見失っていた
「悪かったわ…」「悪かった…」
二人から同時に謝られたウーゴはにっこり笑みを浮かべると二人に言った
「地上の事はマティアスの言う通り重要。そしてアデリーの言うカティの行方も調べないとテロ様の居所もはっきりしない…根本的な解決はテロ様の行方なんだからこれもまた重要。そしてさっきからいるべきはずの者がこの場に居ない事がきっとそれらを紐解いてくれる鍵だと俺は思う」
「「アウノ…」」
「地上の安定は俺だけで数時間耐える。その間にアウノの居場所を捜せ」
「「わかった」」
そしてアデリーとマティアスが波動を使おうとした瞬間とテロの執務室から天帝の波動が流れ込んでくるのは同時だった。