第一話 はじまりの世界
第一話 はじまりの世界
気がつくと、俺は森の中に立っていた。
湿った土の匂い。
木々のざわめき。
やけに現実感のある空気。
「……は?」
思わず声が漏れる。
さっきまで白い空間にいたはずだ。
女神。願い。
そして――
「……夢、じゃないのか」
呟いてみる。
返事はない。
頬をつねる。
痛い。
「……だよな」
乾いた笑いが漏れる。
現実だ。
ここはもう、元の世界じゃない。
サークルの飲み会も、いつもの日常も。
全部、遠い。
思い出そうとした瞬間――
ズキッ、と頭の奥が痛んだ。
「っ……!」
こめかみを押さえる。
無理に思い出そうとすると、思考が弾かれる。
まるで、そこに触れるなと言われているみたいに。
「……なんだよ、それ」
小さく吐き捨てる。
気持ち悪い。
だが、考えても仕方ない。
ゆっくりと息を吐く。
周囲を見渡す。
森だ。
見渡す限り、木と草しかない。
人の気配はない。
「一人……か」
白い空間にいた連中の姿はどこにもない。
別々に送られたのか。
それとも、俺だけが外れたのか。
「……まあいい」
考えても答えは出ない。
それよりも――
「水と、食い物か」
喉の渇きが気になる。
空腹も、じわじわと意識に上がってくる。
現実だ。
これは本当に、ゲームでも夢でもない。
一歩、踏み出す。
足元の感触がやけに重い。
否定はもうできない。
女神の言葉。
あの白い空間。
全部、現実として繋がっている。
「異世界、か」
口にしてみる。
妙にしっくりきた。
現実離れしているのに、納得できてしまう自分がいる。
「……ふざけてる」
小さく笑う。
だが――完全に否定はできない。
むしろ。
「……やるしかねえか」
腹を括る。
怖くないわけじゃない。
だが、止まれば終わる。
それだけは分かる。
その時だった。
ガサッ、と音がした。
「……っ!」
反射的に振り向く。
草むらが揺れる。
何かいる。
心臓の音がうるさい。
さっきまでの思考が、一瞬で吹き飛ぶ。
「……マジかよ」
小さく呟く。
逃げるか。
戦うか。
そんな選択肢すら、まともに浮かばない。
ただ――
草むらから“それ”が飛び出した。




