第056話「名付けて――」
「うひょー!」
トカゲ兵――ヴァルガンの剣が横一閃に迫る。
シャルルはギリギリのタイミングでサイドステップし、その鋭い刃を躱した。
視界の端で、ヴァルガンたちの動きが、以前戦った時よりも格段に洗練されているのが分かる。
個々の剣技が向上しているだけでなく、互いに呼吸を合わせた連携が取れている。
「これ、どう考えてもピンチじゃん!」
本来なら、マスケット銃でアヤトの援護をしたいのに、そうも言っていられない。
むしろ、アヤトとの距離はどんどん広がるばかりだった。
「あの勇者の方を見たな?」
上空から、コウモリのような翼を羽ばたかせながら黒い毛玉の魔物――ザルバス・ドローンがくぐもった声を発した。
「おぬしがあの勇者の支援役という事ぐらい、とっくに見抜いておるわ。そう簡単に連携はさせんよ」
「え? ああ、俺が銃士だから? いや、必ずしもそういうわけでもないんだけど」
ヴァルガンの剣を躱しながら、一発撃ち込む。
弾丸はヴァルガンの腹部に命中。しかし――
いつものように青白い光になって爆ぜることはなく、ヴァルガンは苦痛に顔を歪めながらも剣を構え直した。
致命傷には至っていない。
「やばい、やばい! これは本当にやばい!」
シャルルは焦りながら距離を取る。
「ライフルド・マスケットは失敗だったかも。命中精度はいいのに威力が弱い!」
ヴァルガンたちは、巧みに連携しながらシャルルを囲い込む。
躱しきれなかった剣を、撃ち終えたマスケット銃で受けるが、その瞬間に銃身は光となって砕け散る。
「やべっ!」
次に襲いかかる剣撃を、シャルルは左腕の籠手でギリギリ弾き返した。
「五対一なら、まだギリ勝てますよ、きっと!
手足の一本ぐらいはくれてやる覚悟でいけば、たぶん」
帽子の上から、ボンボンの声が響く。
「乙女なんで、傷は勘弁してほしいかも」
バックステップで距離を取りながら、シャルルはピストルを抜いた。
「ついにオッサンやめて乙女を名乗りますか?」
「どれ、トドメにもう一体追加してやろう」
ザルバス・ドローンが低く笑いながら呟いた。
上空から、赤毛の犬頭の魔物――ハイ・ガウムが一匹降下する。
それを運んできたのは、もう一体のザルバス・ドローンだった。
ハイ・ガウムは着地と同時に背負った弓を素早く構える。その矢は魔力を帯びていないが、当たればただでは済むまい。
「これで六対一じゃ。さて、どうする?」
シャルルはピストルを持ったまま、ちらりと上空を見上げた。
「あの目玉コウモリって、魔物も運べるんだ?」
「何を呑気に感心してるんですか……」
「じゃあ、俺がぶら下がっても大丈夫だよね」
そう言うなり、シャルルは左腕の籠手をザルバス・ドローンに向ける。
それと同時に籠手からアンカーの付いたワイヤーが飛び出し、ザルバス・ドローンの黒い毛玉の身体に絡みついた。
「は、離せ! 何をする?!」
ザルバス・ドローンが慌てた声を上げる。
「こうするんだよ!」
瞬間、ワイヤーが巻き取られ、シャルルの身体が宙へと舞った。
ヴァルガンたちの剣がシャルルに届く瞬間、それを紙一重で回避。
宙を舞いながら、弓を構えたまま慌てているハイ・ガウムの脳天をピストルで撃ち抜く。
弾丸を受けたハイ・ガウムは青白い炎を上げながら消滅。放たれた矢はあらぬ方向へと飛んでいった。
振り子の要領でヴァルガンたちの背後へと着地したシャルルは、ワイヤーで動きを封じられたザルバス・ドローンをマスケット銃で撃ち抜いた。空中で青白い花火になったザルバス・ドローンからワイヤーが素早く巻き取られる。
「こやつ! 次から次に予想できん行動をとりよって!」
最後の一体になったザルバス・ドローンが苛立たしげに叫ぶ。
「今度は何なんですか、それ?!」
ボンボンが驚きの声を上げる。
「いや、ボルグニルさんの図録に『意志を読み取って形状を変える金属』ってのがあったから、
通常はコイル状で、意識したらワイヤーみたいに伸びる物を籠手に仕込んでもらったんですよ」
言いながらシャルルは、籠手を構えてにやりと笑う。
「名付けて――ワイヤーアンカー」
背後を取られたヴァルガンたちが、一斉にシャルルへ向かって駆け出す。
「いい距離だ」
シャルルが呟き、マントの下からマスケット銃を二挺取り出し、左右同時に引き金を引いた。
放たれた銃弾が、突撃してくるヴァルガン二匹の額を正確に撃ち抜く。
二匹は同時に青白い炎へと変わり、跡形もなく消え去った。
「ジグザグに動きながら距離を詰めるんじゃ! 立ち止まるな!」
ザルバスの緊張感が籠もった声が、ヴァルガンたちへ指示を飛ばす。
さっきまでの余裕は、もうどこにもなかった。
「そうくると思った!」
シャルルは、すぐに新たなマスケット銃を取り出すと全力で駆け出した。
ただし、アヤトの方へ向かって。




