第052話「魔法のマスケット銃・Ver.1.0!」
戦場の喧騒の中を走るシャルルの目に、前方で倒れたエンサリアの兵士に襲いかかろうとしているトカゲ兵――ヴァルガンの姿が目に映った。
――間に合う!
シャルルはさらに加速する。
その刹那、周囲にいた犬頭の魔物――ガウムたちが槍を構え、シャルルに向かって襲いかかってきた。
左右から迫る槍の穂先――
シャルルはその場で身を沈め、スライディングで突撃を回避。
避けきれなかった槍は、左腕の籠手で払いのけ、その勢いのまま上半身を起こす。
敵の動きが一瞬止まった。
そこを狙い、シャルルはマスケット銃を構える。
銃口が、遠方のトカゲ兵の頭部を正確に捉えた。
引き金を引く。
狙いは寸分違わず、トカゲ兵の額を撃ち抜いた。
「お見事!」
帽子の上から、ボンボンの声が響く。
「どんなもんだい! ライフリングされたマスケット銃だぞ!」
シャルルは得意げに宣言するが、反応する間もなく、新たなガウムが槍を構え直し、突進してくる。
すかさずシャルルは、もう一丁のマスケット銃をマントから引き抜き、迷いなく引き金を引いた。
「ついにリリース! 魔法のマスケット銃・Ver.1.0!」
銃声とともに、敵が青白い光となって霧散する。
シャルルは、そのまま語り続けた。
「散弾こそ使えなくなったけど、製造神の力もあって大幅に命中率アップ!
滑腔式歩兵銃にロマンを感じてたんで、ライフリングを施してもらうかどうかは最後まで悩んだんですけど――」
「ああ、そういうのぜんぜん興味ないんでシャルルさんが何を言ってるのかサッパリです」
「……いいんです。自己満足なんで」
気を取り直してサーベルを抜き、飛びかかってきたガウムを、ハエでも追い払うように瞬時に切り払う。
「すごいな。50%しか解放されてない剣術スキルでも、この余裕かよ」
自分の剣術の精度に驚きつつも、再び走り出す。
「相対的に相手が弱いってのもあるんでしょうけどね」
ボンボンの言葉に軽く苦笑しながら、シャルルは周囲を見渡す。
砦から進撃してきた国境警備隊の突撃と、側面からの伏兵部隊の奇襲攻撃を受け、魔物たちは明らかに動揺している。
その混乱の中、シャルルは魔物たちの横を駆け抜けながら切り捨て、距離が離れた敵はピストルで撃ち抜く。
「次のは強そうですよ。気をつけてください」
ボンボンの警告と同時に、複数の魔物がシャルルを標的に定めた。
大型の犬頭の魔物ハイ・ガウムが二匹と、ヴァルガンが三匹。
彼らは目配せし合うと、息を合わせるように剣を抜いてシャルルへと向かってきた。
しかも、ハイ・ガウムの一匹は温存しておいたらしい弓を構えており、殺意を帯びた矢の切っ先がシャルルを捉える。
「さすがに一度に五匹同時は無理!」
走る勢いが殺せず、シャルルは滑るように足を止める。
しかし、次の瞬間――
《お待たせー!》
脳内に響く、あの謎の声。
背後から、地面を蹴る力強い足音が聞こえる。振り向くと、アヤトが剣を抜いたまま走ってきていた。
「すみません! 遅くなりました!」
アヤトは走りながら、地面に刺さっていた敵の槍を掴むと、走る勢いを乗せて槍を投擲する。
槍は一直線に飛び、弓を構えたハイ・ガウムの胸を貫く。
その命を刈り取る一撃にハイ・ガウムの指が緩んだ結果――
放たれた矢が軌道を大きく外れ、前方にいたヴァルガンの背中に深々と突き刺さった。
弓を持ったハイ・ガウムと背中を射られたヴァルガンが同時に青白い炎の柱となって消滅する。
その衝撃に驚いて立ち止まったヴァルガンの頭部を、シャルルのマスケット銃が容赦なく撃ち抜く。
そして、シャルルの横を駆け抜けたアヤトは、逆手に持った剣で低い姿勢で走るヴァルガンを切り裂いた。
「このまま敵中央まで突貫します。援護してください!」
シャルルは一気に四匹の仲間を倒されて狼狽えるハイ・ガウムの眉間に狙いを定め、ピストルの引き金を引く。
銃口から炎が瞬くと、ハイ・ガウムは青白い光に包まれ、その場から跡形もなく消え去った。
「あいよ!」
シャルルはピストルをマスケット銃に持ち替え、アヤトの後ろを駆ける――




