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第003話「っていう夢を見たんだけどさ(後編)」

 この女神様が言いたいことはだいたい把握したが、因果関係が不明である以上は「自分の体重が魔物の数に直結してる!」と責められても困る。それを察したのか、女神も声のトーンを少し落とした。


「もちろん、すべてあなたが元凶だとは言いませんよ。でも、あなたの体重が増えるとこちらの世界がピンチなんです。本当に困ってるんです」


「う~ん……それで?」


「察しが悪いですね。では、次のページをご覧ください」


 資料の5ページ目をめくると、『尾本様へのご提案①』という見出しが目に入る。さらにページをめくると、女神が待ち構えていたかのように、その提案を読み上げた。


「痩せるのです! 体重1グラム増で百の魔物を産む者よ!」


 なんとも神々しい声で言い切る女神に、尾本は小さくため息をついた。


「酷え通り名を付けてきたなあ……」


「では言い換えましょう」


 女神が次のページをめくり、『尾本様へのご提案②』と書かれた文字をゆっくりと読み上げる。その声に合わせるように、彼女の周囲が黄金の光でキラキラと輝き始めた。


「痩せなさい! 1キロ太って一万の魔物を産む者よ!」


 今度は盛大に鐘が何度も鳴り響いた。


「いや、ぜんぜん言い換えてないし。それと、この鐘はどこから鳴ってんの?」


 女神は資料の最後のページを閉じると、「ご清聴ありがとうございました」ときっちりとしたお辞儀をしてみせた。その角度は、完璧なまでの九十度。思わず拍手してしまった。


「いや、まあ、鶏が先か卵が先かは置いておいて……

 俺の体重がそちらの世界に迷惑をかけてるってんなら、それは申し訳ないかな?」


 夢の中とはいえ、本心からそう思った。女神とのポップでカジュアルなやり取りのせいで、現実味は薄れていたものの、自分の脂肪が産み出した魔物が、どこかの世界の住人たちを襲っている――そんな話を聞かされると、さすがに責任も感じてくる。


「お分かりいただけましたか、尾本コウよ」


 女神は一瞬瞳を閉じると、深い息を吐き、再び尾本を見据えた。


「じゃあ、明日からダイエットを頑張る。おやすみなさい」


 尾本はその場で横になり、ふかふかの布団をイメージで生成してくるまり始めた。


「ちょっと待ってください」


「え? 今、夜中ですよ? こんな時間にどうしろと?」


「それは違いますね」


「は?」


 女神は静かに首を振り、軽く息をつくと尾本をじっと見つめた。


「朝です」



 * * *



「――っていう夢を見たんだけどさ。広瀬はどう思う?」


 尾本コウはデスクの前で腕を組み、隣に座る広瀬あかりの反応を待った。

 時計の針は正午を指しているが、興に乗った広瀬はキーボードを叩く手が止まらない様子だ。その動きはまるで楽器を奏でているかのようで、尾本はつい見入ってしまった。


「先輩、あなた疲れてるんスよ」


 広瀬はちらりと尾本を見て、軽く肩をすくめた。

 広瀬のさらさらとした黒髪のボブヘアが軽やかに揺れる。26歳と若く、年齢以上のあどけなさを残す顔立ち。その言動にはどこか子どもっぽさが残っていて、場の空気を明るくするムードメーカーでもある。


 尾本はキーボードを叩く広瀬を横目に見ながら、少しだけ微笑んだ。プログラマとしてのスキルはもちろん、彼女の明るく元気なエネルギーに救われている部分も少なくない。彼女の笑顔がなければ、この殺伐とした開発室はもっと陰鬱な場所になっていたに違いない。


 不意に広瀬がキーボードを叩く手を止め、大きく背伸びをする。どうやら本人が気が済むところまでコードを打ち終わったらしい。


「広瀬もお疲れさん」


「うす」


 一見すると微笑ましいやり取りだが、たった二人で全システムの開発・運用を回す日々は、明らかにブラックで、明らかに異常だった。

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