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第050話「ここまでは作戦通り――」

 暗闇の中で、耳飾りから微かな耳鳴りのような音が鳴った。

 シャルルは指先でそっと耳飾りに触れる。瞬間、脳内にアヤトの声が響いた。


《シャルルさん、例の踊り子風の女を見つけました》


「こっちでも確認したよ。今、どうするか考えてたところ」


《それとリュシアンさんからの報告です。

 作戦を第二段階に移行。次の弓兵部隊の攻撃が終わったら、蛸壺の中の伏兵部隊は突撃せよ、とのことです。予定どおり、僕は踊り子に仕掛けますので、シャルルさんは援護をお願いします》


 シャルルは小さく息をつきながら、わずかに苦笑した。


「了解。アヤトくんは見事なまでに躊躇ねえなあ……」


《はい?》


「いや、こっちの話……そんじゃ、通信を切るよ」


 耳飾りに触れ、念話を断つ。


 狭い塹壕の中、湿った土の匂いが淀み、遠くの爆発音に溶けていく。

 シャルルは事前に渡されていた角笛を軽く撫でながら、呟いた。


「相手が人の姿をしてるからって、俺が甘すぎるんですかね?

 それともアヤトくんが覚悟決めちゃってる感じ?」


 帽子の上から、ボンボンがくすりと笑う。


「どっちもじゃないですかね。それと若さ?」


「いいなあ、若さ……」


 シャルルがぼやいたその瞬間、複数の魔法の矢が着弾し、連続した炸裂音が響く。

 その直後――戦場に不自然な静寂が訪れた。


 シャルルは帽子を押さえながら、ゆっくりと息を整える。


「そんじゃ、行きますか……

 帽子から振り落とされないようにね、ボンボンちゃん!」


 布で覆われた蛸壺の蓋を勢いよく跳ね上げ、シャルルは戦場へと飛び出す。

 外の光とともに、戦場の喧騒が一気に押し寄せてくる。


「私のその名前なんとかなりませんかね~?」


 ボンボンの抗議の声を無視し、シャルルは角笛を口に当てた。


「ブオォォォォン……!」


 長く、低く、空気を震わせる角笛の音が響く。

 その音が虚空に消えるのと同時に、地面に掘られた塹壕から飛び出した総勢100名のエンサリア共和国警備隊の精鋭たちが、怒声とともにシャルルの脇を駆け、戦場へと雪崩れ込む。


 轟く兵士たちの叫び声、踏みしめられる土の感触。

 角笛を投げ捨てたシャルルは、戦場の混沌の中へと飛び込んだ――


 * * *


 ザルバスのドローンは、コウモリのような翼をパタパタと羽ばたかせながら、シセへと近づいた。

 眼下の戦場では、左右の塹壕からエンサリア共和国の兵士たちが次々と飛び出してきている。


「ネズミどもが巣穴から飛び出してきよった。数は……ざっと100人ぐらいか?」


 小さな黒い体を揺らしながら、ザルバス・ドローンは目を細める。

 まるで勝ち誇ったかのように飛び出してくる兵士たちを見下ろし、愉快そうに喉を鳴らした。


「あれで隠れていたつもりというのが、滑稽じゃのう」


 その言葉に、シセは軽く息をつきながら視線を上げた。


「すると、今のでエンチャントアローの撃ち合いは終わりか?

 こちらの弓兵も、そろそろ矢が尽きるころだし……頃合いだな」


 そう言うと、シセは静かに踊るのをやめ、祈るように両手を空へと掲げた。

 掌の間に青白い光の粒が集まり、ひとつの形を成していく。

 やがて、その光の中から現れたのは、大きく湾曲した刀剣――シミターだ。


 その刃が戦場の光を受けてわずかに輝き、シセの細めた紫の瞳に冷たく映る。


 ザルバス・ドローンはゆるりと宙を舞いながら、戦場を確認する。


「ここまでは作戦通り――」


 しかし、その瞬間、視界の端に動く影が目に入り、ザルバス・ドローンはわずかに羽を震わせる。


「ん? 伏兵の中に、あの女勇者がおるではないか」


 ザルバス・ドローンは、嬉しそうにその巨大なひとつ目を細めた。


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