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第047話「心置きなく踊れ。そして、奴らを灰にしてやれ」

 薄曇りの中でぼんやりと輝く朝日を背に、黒い毛玉のようなザルバス・ドローンがコウモリのような翼を羽ばたかせながら、南エンサリア砦の警備隊の布陣を上空から見下ろしていた。


 砦の前面に展開したエンサリアの兵士たちの陣形は整然としており、動揺もない。


 魔王軍の魔物たちが集結する森の出口に光の渦が舞い上がる。

 その光の中から現れたのは、ターコイズブルーの踊り子の衣装をまとったシセだった。

 ザルバス・ドローンはゆるりと降下し、彼女の前に降り立つ。


「ザルバス、状況はどうなっている?」


「エンサリア共和国の連中、こちらの動きに気づいておったようじゃな。まるで浮足立っておらん。せっかく驚かしてやろうと思っておったのに」


「言うまでもないが、勇者達が知らせたのだろう」


「本当に厄介な連中じゃな」


 シセとザルバス・ドローンの前では、森から出た魔物たちが機械のような精密さで陣形を整えていた。

 総勢1500。うち500匹はトカゲ兵、ヴァルガン。

 残る1000匹は犬頭の小人、ガウム。ただし、ガウムのうち半数は通常のガウムの倍の大きさをしており、もはや小人とは言い難い。


「ザルバス……新しい魔物がいるようだが?」


「気づいたか? あれは『ハイ・ガウム』という」


 ザルバス・ドローンはシセの頭上をパタパタと舞いながら、自慢げに大きなひとつ目を細めた。


「ガウムは生産性と機動力に重点を置いたせいで図体(ずうたい)が小さすぎたからな。人間の武器を扱ったり、工兵として使うには少し不向きじゃった。そこで体躯(たいく)を人間並みに引き上げたガウムの上位種を作ったわけじゃ」


 地を踏みしめる重厚な足音が響く。

 長槍や盾を構えたガウムたちが整然と前進し、その後方を弓を構えたハイ・ガウムの部隊が無言で続く。


「ぶっつけ本番か……ちゃんと戦力になるんだろうな?」


「わしを誰だと思っておる。それは問題ない。

 それに、この日のために人間の武器を大量に鹵獲(ろかく)してきたんじゃからな。

 とはいえ、弓が500張ほどしか揃えられんかったのが残念ではあるが……」


 ザルバスは不敵に笑った。


「エンサリア共和国の連中め。馬鹿のひとつ覚えで長距離から魔法強化した矢を放ってくるのは目に見えておるわけじゃが……

 こちらがそれ以上の距離から魔法強化した矢で攻撃してきたら、奴らどんな顔をするかのう?」


 ザルバスの言葉に、シセは目を細める。


「こちらもエンサリアのエンチャント・アローが使用可能になったのか?

 おまえが人間どもの弓を集めていた理由はそれだったか……」


「あの程度の魔法技術、見れば模倣(もほう)した上で改良するなど造作もない。

 ……ところで魔王め、何でもかんでもアバターに組み込めばいいと考えておらんか?

 シセから少し注意しておけ」


「なんのことだ?」


「コード解析に時間がかかってしまってな。いったんバラしてアーキタイプまで戻し、作り直しに近い整理をしなくてはならなかったというか――」


「何の話だ? さっぱり話が見えん。私に理解できるように言え」


「こちらのエンチャント・アローの魔力付与の発動プロトコルを、アバター・シセの『歌と踊り』に組み込んだんじゃ。

 じつはそっちに時間がかかってな。素人が書いたコードほど気持ちの悪いものはない。

 そうそう、ムダな処理を外したから戦闘処理速度も少し上がっておるはずじゃぞ。

 心置きなく踊れ。そして、奴らを灰にしてやれ」


 シセは顔を引きつらせる。


「わ、私の身体を勝手に(いじ)るな! それと、そういう作戦なら早く言え!」


「いちいちうるさいのう……それより配置につかんか!

 今回の作戦の(かなめ)はおぬしじゃぞ」


 シセは呆れ顔でため息をつくと、無言でヴァルガンの腕に抱え上げられた。

 長い尻尾が地面をかすめながら揺れる。ヴァルガンはしなやかに身を屈めると一気に大地を蹴り、ハイ・ガウムの弓兵隊へと駆けていった――


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