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第011話「魔力充填完了!(後編)」

「あっっっっぶねっ! どう考えても、今の奴はチャンバラで勝てる相手じゃなかった!」


 猫耳広瀬――尾本は帽子を軽く押さえながら、安堵の息を吐く。

 夕日の照り返しを浴びながら、興奮の余韻がまだ体に残っていた。


「銃器ってありなんですか?!」


 隣の女神フェルネスが、驚いたように白銀のマスケット銃を指差した。


「魔法のマスケット銃だぞっ!」


 尾本はマスケット銃を肩に乗せ、得意げにVサインを決める。

 その姿は可愛らしいが、中身はオッサンである。


「『だぞっ!』じゃありませんよ。それに長靴をはいた猫って、マスケット銃とか持ってましたっけ?」


「どっちかっていうと『三銃士』かもしれないですなあ」


「三銃士の著者はシャルル・ペローじゃなくて、アレクサンドル・デュマじゃないですか……」


 女神は深いため息をつきながら、こめかみを押さえた。


「何とかなったからドンマイ! それにしても、76kgで使える『武器への魔力付与』だっけか? これもなかなかいいですな。思わず魔力特盛で撃ち出したけど、マスケット銃でこの威力って、もはやSFの武器だな。ビーム砲? 荷電粒子砲?」


 尾本はマスケット銃を軽く持ち上げて構える。沈みかけた夕日の光を浴び、白銀の筒が鈍く輝いた。

 女神は銃身をじっと見つめながら、「納得がいかない」とでも言いたげに、眉をひそめる。


「具現化された時点で、この世界がその武器の存在を認めたってことなんですかね……?

 なんだか納得がいかない。それに、マスケットが〝銃〟って意味だから、『マスケット銃』だと〝銃銃〟になっちゃうし」


「ありがとう、異世界! ボルグニルさん、グッジョブ! 銃銃、バンザイ!」


 尾本は両手を広げ、天を仰ぐように叫んだ。


 * * *


 獅子頭の巨人という指揮官を失った犬頭の小人たちは、ばらばらに散りながら森の方へと退却していく。

 武器を構えつつ警戒しながら後ずさる者もいれば、振り返ることなく武器を担いで全力で荒野を駆けていく者もいる。落ちている武器や矢を拾ってまで逃げる様は、少し滑稽であり、魔物であっても惨めに見えた。


 一方、人間の兵士たちは歓声を上げ、勝利の雄叫びが夕焼け空へと響く。

 沈みかけた西の太陽が、赤く染まる荒野を長く照らし、彼らの影を地面に引き伸ばしていた。


「尾本さんってこんな状況でも余裕ですね。失礼ながら、もっとパニックになるかとイメージしてましたよ」


 女神に言われてみて、ふと考えてしまう。

 敵である魔物とはいえ、手をかけても恐怖や罪悪感のようなものがまるでなかった。

 自分は猫好きであると同時に、動物好きだ。魔物を動物と言っていいのかは謎だが、それにしたって害虫ですら、命を奪うのに抵抗があるほうだと自認していたのだが……?


「現実感がないってのもあるけど……あれかな? 小学生の頃から高校二年生の夏までは、日がな一日サバゲー三昧だったからかも」


「サバゲー……サバイバルゲーム? おもちゃの銃で打ち合う遊びでしたっけ?」


「そうそう。森の中とかを走り回ったりする大人の戦争ごっこ」


「なるほど、それで筋肉量が多かったんですね。それがどうして、こんな情けない身体になったのやら……」


「わがままボディですみませんね。社会人やってると不摂生しちゃうんですよ。でも、社会人やってたから、さっきの毛玉野郎も簡単に倒せた気もする」


「そうなんですか?」


「いきなり不意打ちしてくる奴なんて、だいたい状況を支配したがる傾向が強いんですよ。何回、そんな奴がいる競合他社に仕事を取られたことか……だけど、そんな奴に限って『自分の作った状況』に安心して油断するんですよね」


「ふむ」


「だから、表面上だけ相手が望む状況を作ってやったんです。俺がサーベルを向けた時のあいつ、あの余裕の顔、見ました? 思い出しただけでも腹立つ」


「全て計算済みだったと?」


「ついでに言うと、刃物を向けられたり、地面に刃物を置かれたら、視線はそっちに釘付けでしょ? だからその隙に、マントで隠した手で魔法のマスケット銃を構えて、魔力をチャージっと……」


「それが大人のやることですかね? 感心するやら呆れるやら……」


「大人だからできるんでしょうが」


《え? やば! 大人じゃん! そういうの好きだわー!》


「だから誰よ?」


 尾本は猫耳を抑えながら、辺りを見回した。

 脳内に流れる謎の声は、今度ははっきりと聞こえた。


「どうしたんです?」


「え? 女神様には聞こえてないんですか? さっきから声が――」


 その時だった。遠くから、馬の蹄の音が乾いた荒野に響く。

 ゆっくりとこちらへ近づいてくるのは、一人の青年だった。沈みかけた夕日を背負い、風に真紅のマントを翻しながら、彼は堂々と馬を駆ってこちらに向かってきていた。



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