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第011話「魔力充填完了!(前編)」


hero-avatar v2.1

target: uRu_FaJiM-prod

本番環境『異世界ウルファジム』へのデプロイ:SUCCESS(なんか、うまくいった)

勇者アバター:Standing(とっとと) by for(戦わんかい、) operation!(ワレェ!)


 猫耳美少女と化した尾本の視界の端で、いくつものシステムログが流れている。


 尾本は呆けながら、改めて周囲を見渡す。

 戦場に派手な登場をしたものの、まったく動く様子を見せない尾本を無視し、人間の兵士たちと犬の頭をした魔物たちが夕日を背に荒野での戦闘を再開している。まるで「猫耳少女なんか最初からいませんでした。みんなそれでいいですよね! はい、戦闘続行!」と言わんばかりだ。


「えっと……どうすりゃいいの、この状況?」


 尾本が考えあぐねていると、その隣に女神がふわりと舞い降りた。


「よかったですね。ペチャンコにならなくて」


「爆発の中から登場って……俺は特撮ヒーローか何かですか?

 しかも、勝手に身体が動いたんですけど?」


「体重77kgで解放される『曲芸スキル』ですね。ある程度は勝手に体を操作してナンカやってくれます」


「うわあ。超便利ぃ~」


「ところで、今の私の姿は〝勇者にしか見えない設定〟にしています。何もないところに話しかけていたら、さらに気味悪がられますよ?」


「さらにって……そんなに気味悪いモンなんですか? この姿って?」


 たしかに敵味方関係なく無視されている。

 尾本は不安そうに自分……猫耳広瀬の手足を眺める。おっさんのごつい手足とは違って、細くて白い。目線を下にやるとお腹が見えない。体からは花のようないい香りもするし、客観的に気味が悪いとは思えないのだが……


「主に私に、ですね」


「まあ、それはそうでしょうねえ」


 その時だった。


《つ……避けな……死ぬよ~?》


 脳内に響くかすれた謎の声に弾かれ、とっさに身体が反応する。

 背後から首元に迫る鋭い殺気。尾本の意思とは無関係に体が前に跳ねた。


 チッ! と嫌な音が後頭部で響く。

 切り落とされた後ろ髪の数本が、宙を舞うのが見えた。


 猫耳広瀬はその光景を一瞬、スローモーションのように感じながら、大地を転がる。そして、立ち上がりながら自分を襲ってきた相手を確認した。


 それは身長3メートルほどの青黒い毛を持つ巨人で、頭部は獅子のようだった。丸太のように巨大な腕には、黒い大剣が握られており、フルスイングを終えて、ゆっくりと動きを止める。

 その獅子頭の巨人は剣先と赤く輝く瞳を見開いて見つめる。不意打ちによる必殺の一撃が空振りしたことが信じられない、というようだ。


「――っぶね! 召喚された瞬間に首と胴体が別方向に吹っ飛ぶって、マジだったんかい!」


「ここまでドンピシャで予言が当たると、我ながら自分の神格の高さに震えがきますね」


 ドヤ顔になっている女神の身体が薄く光り輝き、鐘の音が何度も響き渡る。どうやら今ので神格が上がったらしい。


「今のも曲芸スキルなのかな? 勝手に体が動いたけど……」


 猫耳広瀬はバックステップで跳ねながら、不意打ちをしてきた相手との距離を取る。


「今のは75kgで解放される『超反応:回避』ですね。自動で不意打ちなんかを回避してくれるわけなんですが……今回は、特別に発動確率も引き上げておきました」


 女神が滑るように隣に移動し、囁く。


「確認ですけど、死んだら本当に一発アウト?」


 それには返事をせず、女神は勝ち誇った笑みを浮かべてサムズアップした。


「……死んだら絶対に化けて出てやる!」


《次の攻撃……く、るよ~?》


 かすれた声が脳内に響いたが、よく聞き取れない。


「つか、さっきからあんた誰?!」


 尾本――猫耳広瀬は腰に下げていたサーベルを片手で抜き、獅子頭の巨人に切っ先を向ける。唖然としていた巨人は、一瞬の間を置き、口元を釣り上げた。燃えるような赤い瞳を細めたかと思うと巨体を躍動させ、一気に距離を詰めようと大地を蹴る。


 * * *


 黒い獅子の頭を持つ巨人――レオガウムは、サーベルを構える猫耳の少女を冷静に眺めながら考えた。

 地上に降臨してきたこの少女は、間違いなく自分たちの天敵である勇者だ。しかし、明らかに戦慣れしていないことは肌で感じ取れる。その構えから剣の腕は立つようにも見えるが、どこか〝作られた〟印象がある。例えるなら、徹底した訓練は行ったが実戦は初めて……そんなところか。


 細身な身体に細身の剣を携えた少女など取るに足りない。しかし、相手は勇者だ。杞憂かもしれないが、迅速に息の根を止めるに越したことはない。


 さっきは必殺の一撃をかわされて驚いたが、恐らく偶然だろう。相手も躱したことに驚いていたのが、その証左だ。つまり、奇跡だ。奇跡は何度も起こらないからこそ奇跡なのだ。


「実戦の恐怖と共に『奇跡に二度目はない』という現実を刻み込んでやる!」


 ――もっとも、この小さな存在が、これから振り下ろされる嵐のような一閃を認識できるとは思えないが。


 一気に距離を詰めるべく、レオガウムは大地を蹴った。

 だが、少女は剣を構えたまま微動だにしない。


「怖じ気づいたか? それとも、その細い腕でこの一撃を受けるつもりか?」


 ――期待外れな結果だけは勘弁しろよ!


 祈るような気持ちで、レオガウムは走る勢いのまま大剣を横薙ぎに振るった。


 手応えがない。


 少女は帽子を抑えながらしゃがみ込んで、その攻撃をかわしていた。

 レオガウムの剣が虚しく空を裂く。だが、その回避は想定済みだ。


 レオガウムは剣の勢いを利用し、身体を回転させながら下段への横払いを繰り出す。

 今度は地を這う刃が少女の足元を狙う。

 しかし、少女はしゃがみ込んで溜めた脚力を使い、空中に跳び上がった。


 ――予想通りだ! やはり、こいつは実戦経験がない!


 レオガウムは踏みとどまり、回転の力を殺す。そして、空中で逃げ場を無くした少女に向かって、黒い大剣を突き出そうとして――その動きを止めた。


 少女のサーベルが地面に刺さっている。


「罠か?!」


 武器を持たずに空を舞う少女が、マントの中に手を伸ばす。次の瞬間、質量を無視して、長い鉄の筒がぬらりと引き抜かれた。


「まずい!」


 金のエングレービングが施された白銀の筒。それが何なのか分からない。だが、獣の本能が警鐘を鳴らす。


 ――あれは、危険だ!


「魔力充填完了!」


 片手で帽子を抑え、もう片方の手でその筒を構えた少女が叫ぶ。


「なんだ? それは――」


 青白い光の粒子が筒の先端に集まる。レオガウムは、その不気味な光景に言葉を失った。

 未知の攻撃に備え、剣を盾のように構える。だが、白銀の筒の先がこちらの動きに合わせて微調整された。


 ――間に合わん!


 夕日を背にし、影に隠れた少女の顔に、金色の瞳だけがランランと輝く。影に隠れた少女の顔が、勝利を確信した笑みを浮かべているのを感じた。


「魔法の――」


 少女は、その筒に取り付けられた引き金を引く。


「マスケット銃だ!」


 突如、戦場に雷鳴のごとき轟音が響き渡る。

 筒の先から放たれた紫色の炎と共に、光と衝撃波がレオガウムの構えた大剣を粉砕する。その勢いは止まらず、分厚い胸を撃ち抜き、背後にいた犬頭の魔物の数体を巻き込む。彼らは次々と青白い炎を噴き上げ、黒い灰へと変わっていった。


「――なん、なんだ?」


 レオガウムは消えゆく刹那に少女を見つめる。そして、薄紫の煙を吐く白銀の筒の正体を理解できぬまま、青白い光の塵となって消えていった。



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