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第010話「こちらはボルグニルさん。製造神です(前編)」

 古びた鉄の扉を押し開けた瞬間、工房に響く鉄槌の音が耳を打った。扉をくぐると、炉から漏れる琥珀色の炎が薄暗い室内を照らしている。鉄が焼ける独特の匂いが鼻をつき、じんわりとした熱気が満ちていた。

 工房の奥で鉄槌を振るっていた逞しい壮年の男が、手を止め、ゆっくりとこちらを振り返る。


「よう、お嬢ちゃん。新しい勇者を連れてきたのか?」


 渋く低い声が工房の静寂を破った。


「こんにちは。えっと……彼は尾本コウといって……なんというか、諸悪の根源?」


「もうちょっとマシな紹介をしてほしかった」


「こちらはボルグニルさん。製造神(せいぞうしん)です」


 紹介された壮年の男は、小さく頭を下げる。その所作には、どことなく神らしからぬ謙虚さがあった。


「製造神? 創造神じゃなくて?」


「俺は存在する物を加工して、新たな形にすることしかできねえのさ」


 ボルグニルは腕を組み、炉の炎を背に微笑む。その言葉に、尾本の瞳が輝いた。


「おおっ! 自分はシステムエンジニアっていって、物理的に形あるものを作るわけじゃないんですけど……モノ作りの指揮とか設計とか、顧客対応とかをやってまして。……ああ、なんかすみません! モノ作りの神様って聞いて、親近感というか、尊敬というか――」


 自分の話が長くなりすぎたことに気づき、尾本は気恥ずかしそうに頭をかいた。


「なんか早口がキモいし、私に接する時と態度が違いません?」


 女神が不機嫌そうにジト目を向ける。


「いや、だって相手は神様でしょうが。何を言ってるんですか?」


「は? 私も神ですが? 喧嘩売ってるんですか?」


 女神の不満げな声を聞きながら、ボルグニルは豪快に笑った。


「よしてくれやい。俺は自分のことを神だなんて思ったことは、一度もねえよ」


「ん? それってどういう……?」


「ボルグニルさんは、もともと人間だったんです。その類まれな技術力と献身的な仕事ぶりが世界に認められ、製造神となったんですよ。彼の作った武器は数多くの英雄に使われ、数々の伝説を生み出したんです」


「何の因果なのか、そういう感じだ。好きなことを突き詰めていたら、こうなってた」


 ボルグニルは、まるで他人事のように肩をすくめた。


「そんなすごい神様から、俺専用の物を作ってもらえるなんて感慨深いですな」


「言っときますけど、ひとつしかダメですからね!」


 隣で、女神が釘を刺すように言う。


「作ってもらった物って、魔法の力とかあったりします?」


 尾本が興味深そうに尋ねると、ボルグニルは顎を軽くなでながらうなずいた。


「まあ、そうだな。俺ができる範囲でなら、魔法の力を付与することもできる」


「じゃあ、過去に作った魔法の武器や道具のリストがあれば、ありがたいんですけど」


 尾本の提案に、ボルグニルは口元を緩める。


「ほう。尾本の仕事がどんなもんか俺にはさっぱりわからんが……さすがモノ作りを仕事にしてるだけあるな」


 腕を組み、感心したように言葉を続ける。


「いきなり、『ドラゴンを一撃で葬る槍をくれ』とは言わないわけか。アヤトといい、お嬢ちゃんが連れてくる勇者は面白い」


 女神はにっこりと微笑むと、尾本の腕を掴む。


「それじゃあ、ボルグニルさんが過去に作った作品の図録を、頭の中に送りますね」


「え、ちょ――」


 次の瞬間、電撃が走り《《何か》》が脳内に流れ込む。


「あばばばばばばばばばばば!」


 尾本は白目をむき、その場で激しく震えた。


「――ちょっと! いきなりナンカせんでくださいよ!」


「効率重視です!」


 女神が腕を組んで、自慢げに答える。


「で、どうだ? 何か気に入ったのはあったか?」


 ボルグニルは尾本の様子など気にせず、豪快に笑いながら問いかけた。

 頭の中に浮かぶ膨大な情報――ボルグニルが作った武器や道具、素材の一覧が次々と脳内スクリーンに流れていく。


 意志を読み取って形状を変える金属、自律生産型魔導ミシン、無限の水袋……どれも興味をそそるものばかりだが、はたしてこれらは〝武器〟と呼べるのか?


「この〈無限に水が出てくる水袋〉って、どういう物なんです? というか、武器?」


「袋の底と海底の空間をつないでおいた。もちろん、塩分なんかは除去する仕組みも組み込んである」


「何でそんな物を?」


「……いろいろと事情があったんだよ。しかし、あれは酷い道具だった」


 作った本人であるボルグニルが、渋い顔で肩をすくめる。


「あれはもう二度と作らないでくださいね! 尾本さんも、欲しがらないように!」


 女神が険しい顔で割り込む。ふたりの様子から察するに、ただでは済まない何かがあったらしい。

 まあ、それはそれとして――


「海底以外の空間をつないだりできるんですか?」


「ちょっと尾本さん、聞いてます?」


「条件はいろいろあるが、俺が行ったことがある場所ならどこへでも」


 ボルグニルは落ち着いた口調で答えながら、大きな腕を組み、顎をさする。


「海底に行ったことがあるんだ……すげえ……」


「絶対にアレはダメったらダメ!」


「気になったから聞いただけですよ。そんなの頼んだりしないから安心してください」


 尾本は、軽く肩をすくめた。


「俺は尾本のことは気に入ったからな。必要とあらば、いくつでも作ってやるぞ」


「ボルグニルさん、あんまり尾本さんを甘やかさないでくださいよ。この人、自分で自分を甘やかした結果、ぶくぶく太ったんですから!」


「ぶ、ぶくぶくってほどじゃないと思う!」


「はあ? 体脂肪率30%超えてるのに? バカなんですか? 自覚ゼロですか?」


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