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第007話「まあ、分かっていましたけどね(前編)」

 女神フェルネスは、大学に向かうため、朝の混雑した電車に乗り込む。満員電車の中で、女神は端の手すりに軽く寄りかかり、周囲の様子を静かに観察していた。


「今日から、この電車に乗って大学に通うんだ……」


 思わず口から出たその独り言に、頬が緩む。白く冷たい『神木の塔』で目が覚めた瞬間から女神として異世界ウルファジムに存在し、当たり前のように守護神としてウルファジムを管理していた自分が、〝ここ〟では「人間」で、しかも「学生」を演じている。それが新鮮で楽しい。


 違和感とともに、懐かしさを覚える〝ここ〟は、とても居心地がよかった。とくに、料理が美味しい。尾本にはああ言ったが、正直なところ、勉強も管理栄養士を目指すのも、八割方は趣味と好奇心だった。もちろん、尾本に痩せてもらわないと自分が守護する世界に悪影響が出るので……これは、いわゆる「利害の一致」というやつだ。そう、自分に言い聞かせ、納得した。


 次の駅で電車が停車する。乗り込んできた乗客の中に、小学校高学年くらいの女の子がいた。小柄で、茶色い癖っ毛が可愛らしい子だった。彼女は少し不安そうに辺りを見回しながら、ぎゅっとランドセルの肩紐を握りしめている。立つ場所を探しているようだが、混雑のために戸惑っている様子が窺えた。


 女神は、自然な笑みを浮かべて目線を合わせ、「ここが空いてますよ」と手すりの一部を軽く示す。女の子は一瞬驚いたように顔を上げるが、女神の優しい雰囲気に少し安心したのか、小さくお礼を言ってその場所に立った。


 しばらくの間、二人は無言のまま電車に揺られる。次の駅に近づくと、女の子が降りる準備を始めた。女神は微かに微笑み、「気をつけてね」とさりげなく声をかけた。女の子は少し恥ずかしそうに笑顔を返し、「ありがとう」と静かに答えてから、電車を降りていった。


 ――不意に女神のスマホが振動する。体重管理アプリの通知が入り、尾本の体重データが更新された。


「お? データが送られてきましたね。ちゃんとまじめに測って……って、81.6kgかー」


 女神は大きなため息をついた。


「まあ、分かっていましたけどね」


 呟いてから、スカートのポケットから封筒を取り出して、中身を開ける。


「さて、こっちはっと……お金と手紙?」


〝これは体重計の代金です。

 女神様とは言え、学生さんから高価な物はいただけません。

 それか神へのお布施だと思って、お納めください。〟


 手紙には、走り書きの下手くそな字で、そう書かれていた。


「ふっ、変な人……」


 思わず笑みがこぼれた。

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