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TS猫耳銃士戦記~俺が痩せれば魔王も倒せるらしい~  作者: 頑田むぅ
第二章『アルバベールの首輪』
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第128話「何なんだよ! さっきから、よおっ!」

 ゴルテールはフードを深く被り、その顔のほとんどを隠していた。あのまま死ぬと思われていたリオーダスが生き延びてしまったのは、完全に計算外だった。リオーダスが何を言ったところで誰も信じたりはしないだろうが、自分の顔がこれ以上露見するのは避けなければならないと判断した。

 そして何より、この場から早々に逃げなくてはならない。


 ゴルテールが跨るのは、ヴェロークと呼ばれる二足歩行する人造の魔獣だ。赤い鱗に覆われた筋肉質な体が鈍く光り、その脚が地面を蹴るたびに黄金色の麦畑が無造作に散らされた。長い尾がバランスを取るように揺れ、低く唸るような呼吸音が時折響く。ゴルテールはその音を聞き流しながら考えを巡らせていた。


 手には、自分に向かって投げつけられた壊れたアルバベールの首輪が握られている。効果範囲は狭いが、誘導の術式はまだ使える状態だった。ゴルテールはその首輪を見つめ、わずかに口角を上げる。


「まだギリギリ使えるじゃねぇか……

 これなら何とか逃げきれそうだぜ」


 このままゴブリンをフルラナンツ村にぶつけて、混乱に乗じて森に逃げる。その後は森の中を走ってギーシャルの元に戻れば、まずは一安心だ。オルティリス襲撃作戦の失敗も、ギーシャルは計画に織り込んでいると話していた。その場合、アルバベールの首輪の効果測定結果を必ず持ち帰るように、と厳命を受けている。 今はその命令を守ることだけ考えればいい。


「いや、逃げるだけじゃねえな。大事な事を忘れてた」


 その独り言は麦畑を揺らす風にかき消される。急に現れたピンク色の甲冑の男、そして奴が使った広範囲攻撃魔法の情報は絶対に持ち帰らなくてはならない。勇者だけしか使えないと思われていた魔法――あれが勇者専用ではなかったという事実は、今後の魔法技術体系全体を揺るがす重大な発見だ。エンサリア共和国の国家魔術技師が追い求める『究極』の一端を掴んだ意味は測り知れない。この成果があれば、兼ねてからの希望通り、研究職に戻れる日もそう遠くはないだろう。


 ゴルテールは、明るい自分の未来を見るかのように前方の地平線に視線を向けた。その向こうには、目的地であるフルラナンツ村が徐々に姿を現し始めている。


「ゴブリンども、ちゃんとついてきてるか?」


 振り返ると、ゴブリンたちが甲高い奇声を上げ、喧騒とともに群れを成してついてきていた。その数はおよそ百体。押し合い、掴み合いながらも前進するその光景は悍ましく、混乱を生み出すには十分すぎる規模だ。ただし、疲労が溜まってきたのか、その速度は速歩き程度にまで落ちている。とは言え、フルラナンツ村まで残り2km程度だ。


「よし、いい子だ。足を止めるなよ。餌の時間までもう少しだ!」


 ゴルテールはその乱雑な行進を一瞥し、再び前方に目を向けた。その顔が、一瞬だけ影に覆われる。


「えっ?」


 先ほど、ピンク色の甲冑の男に一方的に殴られ続けた恐怖が脳裏に蘇る。全身が一瞬にして硬直した。慌てて上空を見上げると、薄曇りの空の下を何かが飛んでいた。


「お、おい。また、あのピンクのヤツか!?」


 だが、それはピンク甲冑の男ではなかった。リオーダスを救った、あの空飛ぶ少女だ。彼女は背中から何枚もの光の翼を広げ、ゴブリンの群れを追い越し、自分の頭上で止まると仁王立ちでゴブリンを空中から見下ろしていた。


「だ、誰だ、テメェ!」


 その問いが聞こえていないのか、少女はゴルテールを無視して胸に抱いていた謎のぬいぐるみを手放した。

 ぬいぐるみは地面に降り立つと、ゴブリンの群れをじっと見据える。その妙に間抜けな顔には、どこか勝ち誇った笑みが浮かんでいた。


 空中に浮かんだ少女とぬいぐるみは同時にマントの中から、見たこともない鉄製の筒を取り出し、それをゴブリンに向かって構える。その瞬間、ゴルテールの背筋に嫌な汗が流れた。


「なんだよ、それ……!」


 次の瞬間、鉄の筒が爆音とともに火を吐く。先頭を走るゴブリン二匹が爆ぜ、青白い炎と化した。仲間が光の花を咲かせる光景に驚いたのか、ゴブリンの群れは甲高い悲鳴を上げながら陣形を崩していく。


「何なんだよ! さっきから、よおっ!」


 ゴルテールは顔を引き攣らせ、悲痛な叫び声を上げた。その声に反応したのか、少女が視線だけを向ける。天使のように空に佇む、その少女と目があった瞬間、ゴルテールは冷たい刃で刺されるような感覚を覚え、思わず息を飲む。

 片方の金色に輝き、もう片方は緑の光を放つオッドアイ――その瞳には、天使のような見た目に似つかわしくない、死神の冷たさが宿っていた。


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