第123話「――ラズリオ!」
ラズリオが手にしたランタンだけが、狭くて暗い玄室の壁を弱々しく照らしていた。
その光に浮かび上がるのは、青く輝く青結晶の台座。
台座の表面には、悲しそうな顔をしたラズリオの姿が映し出されていた。
「震えているの?」
ラズリオは腰に下げた銀色の剣をゆっくりと抜き、音叉のように震える刀身に静かに語りかけた。
「でも、ごめんなさいね。優しいあなたは、人間に悪用されるたびに傷ついてしまう。
深い後悔の念を、その刃に刻むのは嫌でしょ?」
剣の震えは一層激しくなった。それは、明確な拒絶の意志だった。
「そうね……。でも、これはもう決めたことなの。
だから、おやすみ。Digit-2……インテリジェンスソード・サーティーン」
言葉と同時に、ラズリオは剣を青い台座に深く突き刺した。
その瞬間、衝撃が玄室全体に響き渡り――カタストロフィック・フレアの衝撃波を身体で感じたアイリスが我に返る。
* * *
「しっかりしなさい、アイリス!」
苛立ちを含んだ声が耳に響き、額に鋭い痛みが走った。
「痛ぁ~~~っ!」
アイリスはおでこをつつかれた衝撃で、意識を取り戻す。
反射的に額を押さえる。その瞬間、小脇に抱えていた男がずり落ちそうになった。
「わわっ!」
慌てて片手で掴み上げると、男が「ひぃ!」と悲鳴を上げる。彼の顔は鼻水と涙でぐしょぐしょだったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。震える彼が怯えた目でこちらを見上げているのを、アイリスはぼんやりと認識するだけだった。
深呼吸し、フリーズしていた思考を再起動させるように意識を集中する。
眼下にはオルティリスの街が広がっていた。
その外れには、直径二十メートルほどの焼け焦げた円形の跡が残っている。破壊の痕跡はまだ消えず、所々で赤や青の残り火がくすぶっていた。
円の外で伏せていたおかげで助かったゴブリンたちが立ち上がり、土埃を払いながら周囲を見回す。
そして、雄叫びを上げながら蜘蛛の子を散らすように逃走していった。
それに合わせ、城門の方から勝利に沸く守備隊の歓声が上がる。
その歓声を聞きながら、アイリスは青ざめた顔を破壊の痕跡に向けた。
寒気がするほどの嫌な感覚が、全身を支配していく。
* * *
小脇に抱えている男に頼まれ、坊主頭の悪人から銀髪の少女を救おうとした――その矢先のこと
だった。
あの男が、はるか上空から落雷のように現れたのだ。
千年前の昔に、自分を暗闇の世界に閉じ込めた、あの男が。
瞬間的に湧き上がったのは、激しい怒りと、それを上回る暗闇の恐怖だった。
その感情が、アイリスの思考を完全に凍りつかせる。
――ひょっとして、似ているだけの、別人?
そんな希望を打ち砕くように、坊主頭の悪人を叩きのめしたあの男は、広範囲攻撃魔法を使ってみせた。
威力を完全制御した、本物のカタストロフィック・フレア――
こんな魔法を使えるのは、あの男しかいない。記憶の奥底に封じていた、あの男の名前が否応なく蘇る。
「――ラズリオ!」




