第097話「おかえりなさいませ、シャルルさん!」
エンサリアの兵士に案内され、指揮官室へと続く長い石畳の廊下を歩く勇者一行。前を歩くアヤト、続くシャルル(アイリス)とペロー、そして一番後ろには女神フェルネスことボンボンに、兵士達の視線が集中するのが分かる。
アヤトに向けられるのは畏怖と尊敬の念が入り混じった視線。アヤトの存在感は圧倒的で、離れた場所からこちらを見守る兵士達の「あれが例の勇者か」と囁き合う声がフェルネスの耳にも届く。
兵士たちの視線に憧れの色が混じるのを見て、彼女は内心で満足そうに頷いた。
「我が選んだ勇者ですよ!」
と自慢したくなる。
一方、愛らしさと美しさを兼ね備えた神秘的な少女にしか見えないシャルルには、まったく異なる視線が注がれていた。
猫耳と尻尾という異形さを忘れさせるほどに、彼女の歩みには優雅さがある。
不思議そうに周囲を見渡すシャルル(アイリス)の澄んだ金色の瞳。
その視線に射抜かれた兵士の何人かが息を呑んで「可憐だ……」と呟き、立ち尽くす。
鼻の下を伸ばした兵士たちの情けない姿に、フェルネスはやれやれと首を振った。
今は違うが、中の人がダイエット中の中年男性に戻った時に、彼らはどういう顔をするのだろう?
そう考えると少しおかしくて、思わず小さなくちばしが緩む。
ペローはというと、視線を集めるというより、見る者を惑わせていた。短い足をちょこちょこと素早く動かしながら歩く姿に兵士たちの口元が緩むのを見て、フェルネスは内心でほくそ笑んだ。やはり、この猫のぬいぐるみの可愛らしさは異世界でも共通なのだ。
「中身はダンディーなオジサマなのよ? 痺れるほどに声が渋いのよ! どうよ! 神によって計算され尽くされた、このギャップ!」
と暴露したい衝動をグッと抑えた。
最後に、彼女自身だ。
フェルネスが感じたのは、もはや視線というより無関心に近いものだった。
ただの小鳥ぐらいにしか思われていないのかもしれない。外見上はそのとおりではあるのだが。
しかし、間抜けそうな顔をした兵士二人組の前をパタパタと羽ばたきながら通った時に、「おい、今日は帰りに焼鳥でも食うか?」と聞こえた瞬間、怒りで翼が震えた。思わず天罰を下したい衝動を押さえ込みつつ、フェルネスはゴマ粒のような瞳でその兵士たちを睨みつける。だが、彼らにはそれすら彼らに通じない。
「よし、天罰確定!」
心の中で呟きながら、フンッと鼻を鳴らした。
* * *
「おかえりなさいませ、シャルルさん! ……それと、アヤト殿」
指揮官室の扉を開けると、同時にリュシアンが駆け寄ってくる。
分かってはいるのだが、どう見ても12,3歳の少年にしか見えない彼が、この南エンサリア砦の警備隊長である事には違和感しか感じえない。ましてや、こちらの帰りを「首を長くして待ってました」と言わんばかりの満面の笑みは、どう見ても純真無垢な少年の〝それ〟だ……いや、純真無垢とも何か少し違う気もするが。
「して、こちらは?」
リュシアンが、不思議そうにペローに視線を向ける。
女神ことボンボンは小さく羽ばたくとペローの帽子の上にとまった。
「えっと……こちらの猫っぽいのがペローさんで、鳥っぽいのがボンボンさんです。お二人はシャルルさんの使い魔のようなもので……僕達の旅を支援してもらうことになりました」
アヤトの説明を聞いた、リュシアンがペローの前に膝をつき、その短い手を握る。
「よろしくお願いします。私は、この南エンサリア砦の警備隊長をやっております、リュシアンという者です」
「おう。よろしくな。しかし、随分と若い隊長さんだな?」
ペローが見た目に反した渋い声で答えた瞬間、リュシアンの目は点になった。
そのあまりに素直な反応に、ボンボンはブッと吹き出してしまう。驚きと困惑がない交ぜになったリュシアンの表情は、完全に女神のツボだった。




