第095話「そうか。可愛いいのか」
フェルネスから話を聞き終えたアヤトは、ふと目の前に立つシャルルへ視線を向けた。
いや、正確にはシャルルの姿をしたアイリスである。
「ところで、シャルルさんはどうしたんですか?」
「ああ、シャルルさんですね。その、何といいますか……。
今日は中の人はお休みです。ちょっと本業が忙しいらしくて。シャルルさんの個人情報なので具体的な理由は言えないんですけど」
「な、中の人??? そ、そうなんですね? よくわからないけど……」
「いえ~い」
自由に動かせる体を手に入れたアイリスが、勝利のVサインらしきものを作っている。
「シャルルさんの中の人がいない状態のアイリスさんって、どんな感じなんですか?」
アヤトに問われたアイリスは、自分を指さしてきょとんとした顔を見せた。
「えっとね。どう説明していいのか分からないけど、そこそこ強くて、そこそこ弱い感じ?」
「すみません。さっぱり分からないです」
「んーと、どう言ったらこの感じって分かりやすいかな〜?
ほら、ウチの適正な運用方法は、ユーザーがあってこそじゃん?」
「分かるような、分からないような……」
「わっかんないかな〜?
あれよ。骨が無いんで、筋肉だけで人体を動かしてる感じって言ったら分かる?
だから、ダルいんだわ。動きも微妙にラグるし」
「なんか気持ち悪いですね、その状態……」
「言うじゃん、アヤト〜」
アイリスは素早くアヤトに近づき、その頬を指でつついた。
「ほんっっっっとに勘弁してください、アイリスさん!」
「それで、実際のところ、アイリスは戦闘になったら活躍できるの?」
アヤトに代わり、フェルネスが質問する。
「そうね〜」
アイリスはうーんと考え込んだ。
「第二スキル【身体制御】をリミッター解除した状態で常に使い続けている感じなんよね。
フェルっちから常時魔力供給されてるから、魔力切れの心配はないけれど……
外部供給されてる都合で、第三スキル【GAL(高度予測能力)】はおろか、第一スキル【先読み】も使えない状態。危険が迫った時に『簡易未来予知』ならできるけど」
「簡易未来予知はともかく、星詠みの剣としての利点が失われている状態なのは痛手ですね」
「まあ、それでもウチは剣そのものじゃん?
剣技に関して言えば、その辺の相手なら絶対に負ける気がしないっていうか」
「なるほど。それは心強い」
「それとですね。今後に関しては『神々の戦争』という事もあって、私も積極的に勇者たちに加勢することにしました。ただし、私にできる事が神側の事情で色々と制限があって……
まず、ご覧の通りなのですが、シャルルの代わりにアイリスを用意したのがひとつ――」
アイリスが自慢げに胸を張る。
「そして、こちらをご覧ください」
フェルネスは背後を指差した。
「女神像ですか?」
「いえ、その下」
そこには猫のぬいぐるみが立っていた。
短い手足が妙に愛らしい。ぬいぐるみというより、縦長のクッションのようにも見える。
そして微妙に見覚えもあった。
姉が持っていた謎のぬいぐるみに似ているような気もするが、どことなく愛らしさの中にワイルドな雰囲気も感じる。
その正体は、次の瞬間すぐに分かった。
「おう。よろしくな」
短く、野太く渋い声でぬいぐるみが答えた。
どこに鼻が付いているのか不明だが、「ふんす」と鼻息まで鳴らしている。
思わず、アイリスが吹き出した。
「ちょ! 何、このヌイグルミ! ウケるっ!」
アイリスが腹を抱えて笑い転げる。
「な、なんか聞き覚えがある声ですね」
「アヤト……俺だよ、俺」
「ん? ひょっとして……」
「そう。製造神ボルグニルさんにお手伝いにきてもらいました」
アヤトは唖然とした表情になった。
「あのボルグニル様が、猫のぬいぐるみに……」
「嬢ちゃんよう……俺のこのアバターはどうにかならなかったのか?」
「だって……可愛かったから……」
「そうか。可愛いいのか……」
ボルグニルは円らな瞳を閉じ、短い腕を組んでしばらく考え込む。
そして――
「じゃあ、仕方がないな!」
短い親指を立てた。
そうか。仕方ないんだ?
「可愛いのはともかく……大丈夫なんですか?」
何がどう大丈夫なのかは、様々な意味で。
「ふふん。安心しろ、アヤト」
そう言うと、ボルグニルはどこからともなくシャルルと同じマントと帽子を取り出して装備した。
さらにマントの中からマスケット銃を引き抜き、短い手で器用に構える。
「俺が作ったマスケット銃だ。俺に扱えないわけがない」
「あ、ウチは剣のプライドがあるから、シャルルっちがいないなら銃は使わないんで。よろしく〜」
「心得た。支援攻撃は俺に任せろ」
猫のぬいぐるみのつぶらな瞳が不敵に輝く。
やっぱり可愛い。声は渋いが。
「ちなみに、この姿のボルグニル様を『ボルグニル様』って呼んでいいんでしょうか?」
「ふむ。たしかにそうですね。じゃあ、シャルル……そうだ、ペローと呼びましょう。
それでいいですか、ボルグニルさん?」
「ペローか? うん、まあ、悪くない。俺の神格も上がったしな」
ふわっと猫のぬいぐるみが光り輝いた。
「今のやり取りに神格が上がる要素ってあったんですかね」
「知らん」
「……そうですか」
「ちなみに、今の俺は試作を終えたばかりの『初期型』だ。なので『ペローA1型』と名乗っておこう。今後、改良を加え『ペローB1型』に進化する」
「ペローA1型さん……」
「なお、改良はB2型で終える予定だ。以降は環境や運用に応じて、寒冷地仕様のC型、砂漠戦仕様のD型、水中戦仕様のM型……最終的には汎用量産型のペローF型を作る構想があってだな――」
ボルグニルの言葉を遮り、フェルネスがにこやかに尋ねた。
「面倒なんで、全部『ペロー』って呼んでいいですか?」
「……残念だ」
「そして女神である私ですが、シャルルの帽子の羽飾りである使い魔ボンボンを利用して、旅のお供をします。名前はそのまま『ボンボン』と呼んでください。防御系の魔法でみなさんをサポートします」
「なるほど。そちらは何と言うか……違和感がまったくないですね」
アヤトはそう言った後で「なんで違和感がないんだろう」とも思ったが、もう気にするのはやめた。
「よし。準備はできましたね。まずは、リュシアンさんに状況を聞きに行きましょう」
勇者アヤトと勇者アイリス、銃士ペローと使い魔ボンボンの四人は、新たな決意を胸に教会を後にした。
ほったらかしになっているトニとかいう男は、そのうち勝手に目を覚ますと信じて――




