第094話「いえ。その、何と言うか……」
フェルネスの前で倒れた小柄な男をアヤトが教会の椅子へと寝かせる。
「このネズミさん、完全に意識失ってる」
アイリスが笑いながらペシペシと男の頬を叩く。そのさまは猫とネズミそのものだった。
とりあえず、アイリスとこの男は放っておこう。今はアヤトに本題を切り出さなければならない。
跪くアヤトを見下ろしながら、フェルネスが何から話すべきか考えていると、彼の方から口を開いた。
「お久しぶりです、女神様。
……実はお聞きしたい事があるのですが、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
「勇者シャルルから話は聞いております。魔王軍の幹部である『シセ』とかいう踊り子の事についてですね?」
「はい。シャルルさんから聞いておられたなら話は早いのですが――」
「おそらく、私以外の神によって召喚された勇者だと思います。私が召喚した者ではないと信じてほしいのですが……それを証明する術がないんです。ごめんなさい」
様々な回答のパターンが脳裏をよぎるが、フェルネスは一番素直な回答を選んだ。
隠すことではない。それが一番、真摯な答えだ。アヤトに拒絶されたとしても、これ以外の答えは選べなかった。
「……やはりそうでしたか。女神様を疑っていませんのでご安心ください。製造神ボルグニル様もいる時点で、複数の神様がいる事には気がついていましたから。つまり、魔王の正体は女神様に敵対する〝神〟という事で合ってますか?」
さすがアヤトは賢いな、と感心する。
弁解するまでもなく、こちらの事情を察してくれるのはありがたい。
「恐らくそうだと思います。ただし、どこのどういう神かは不明です。そして、それらを踏まえた上でお伝えしないといけないのですが……『勇者と魔王との戦い』は、私――女神フェルネスと正体不明の神による戦争という形に変わりました。つまりは、神と神による『勇者を使った代理戦争』です。これは最初にあなたに託した話と内容が違ってきています。よって、この場で冒険の旅を終えていただいても――」
「いえ。その、何と言うか……」
アヤトは改まった口調をやめ、小さく頭を振った。
「よかったら最後まで見届けさせてもらえませんか?
あなたに選ばれた勇者……いや、お節介な高校生として」
跪くのをやめて立ち上がったアヤトが、微笑みながら手を差し伸べる。
「ありがとう、アヤト」
フェルネスも取り繕った口調をやめ、その手を取って微笑み返す。
そのやり取りを見ていたアイリスが何か言いたげに、にやにやと笑う。
「アイリス、私に何か言いたいことでもあるんですか?」
「べつに~ 今の素のままのフェルっちのほうがウチは好感持てるなーとか思ってナイヨ?」
フェルネスはベーっと舌を出して抵抗などしてみた。




