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TS猫耳銃士戦記~俺が痩せれば魔王も倒せるらしい~  作者: 頑田むぅ
第二章『アルバベールの首輪』
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第085話「クレープ屋、楽しみですね」

 今日の試験が終わった。英語やドイツ語の勉強時間が不要だった分は、食品衛生学などの専門科目に時間を回せたのは幸いだったと言える。

 星山めぐみは学内のコンビニで15時のおやつを買うと、学生ホールに向かった。

 ちなみに、今日もおやつもリプ◯ンのミルクティーとS◯YJ◯Yのストロベリーだ。もちろん原田みのりの分も含めてふたつずつ。


 テスト勉強に勤しむ学生たちでごった返している学生ホールをキョロキョロと見回すと、席を確保してくれてたみのりが、ぐったりと机につっぷしているのを見つけた。

 英語と第二外国語のイタリア語がみのり的には相当つらかったらしい。語学系の科目のテストばかりは秘伝のテスト対策攻略法もないので仕方なしといったところか。


「大丈夫ですか、みのり?」


 そのほっぺたに冷たいミルクティーの紙パックを当てると「ひゃっ!」と小さく可愛い悲鳴を上げて、みのりが飛び起きた。


 みのりは抗議の視線を向けながらも、ミルクティーとお菓子を受け取る。


「専門科目はともかく、英語とイタリア語は全然ダメだったよ。なんで、めぐみちゃんはそんなに余裕なの?」


 ――そりゃあ、異世界の女神ですもの。言語習得スキルに関しては神レベルですよ。神だけにねっ!


 という自分だけの鉄板ギャグを言いたいのをぐっと我慢して、代わりにニヤけてみせた。


「その余裕の笑みが羨ましいよおぉぉ〜!」


「とは言え、私が余裕を出せるのは語学系のテストだけですよ。さてさて、明日のテストは生化学Ⅰと公衆衛生学――」


 スケジュール帳を開き、中間テストの日程を確認する。


 みのりは冷たいミルクティーを飲みながら、ため息混じりにつぶやいた。


「この試験が終わったら、お料理サークルの活動を再開したいんだけど、いいかなあ?

 ただし、私が再試を免れているのが前提になっちゃうかもだけど」


 問われて、自分がお料理サークルのメンバーだった事を思い出す。


「うっかりしてました。ところで、お料理サークルって、そもそも何をするんです?」


「そりゃあ、月に一回みんなで集まってー」


「うん」


「お料理を作ってー」


「うん」


「みんなで食べます」


「その後は?」


「お片付けをしてお家に帰ります」


「……私、毎日やっていることなんですけど」


 ――しかも、ほぼ毎日二人分作っているのだが。お弁当込みで三食。


「だって、そういうサークルなんだもん!」


 ――なるほど。そういうサークルなのか。


「あ、そうだ! 忘れてた。お料理サークルの一番の見せ場はイベントだよ、イベント!」


「イベントぉ?」


「めぐみちゃん、そんな顔しないでよ〜」


 ……そんな顔になっていたらしい。


 それはそれとして、神格の都合上なるべくなら人間との関わりは減らしたいというのが正直な気持ちだ。


「サークルでお料理を作るのには参加しますけど、イベントはちょっと……人混みが苦手なんです」


 ――嘘だけど! むしろ、人混みが大好きだけど!


「そうなんだ。残念……」


 みのりががっくりとうなだれる。

 そう落ち込まれると、嘘をついているという事もあって良心が痛むし、何より神格が落ちるではないか。


「ちなみに、どんなイベントなんですか?」


「そりゃあもちろん、文化祭!」


「ああ、イベントって『文化祭』のことでしたか……」


 ふと、自分が模擬店に立っている光景を思い浮かべる。


 クレープ屋なんていいかもしれない。

 サークルの仲間たちとお揃いのサロンエプロンをつけて、笑顔で接客する自分……うん。これぞ青春だ。

 誘えば、きっと尾本は遊びに来てくれるだろう。

 そうなったら、自分はどんな顔をするだろうか。

 照れて笑う? それともあえてクールに振る舞う?

 クールに振る舞うなら、ついでに尾本のクレープにだけ、ちょっといたずらしてわさびとか仕込んじゃうのもいいかもしれない。


 ……いや、ダメだ。食べ物で遊んだら、きっと尾本に何か言われる。


 尾本はいつもふざけてばかりなのに、変なところで真面目だから困る。


 ――うん。なんだか楽しくなってきた。


「文化祭には参加します」


「あれ? 人混みが苦手なんじゃ……?」


 めぐみは空白になっているスケジュール帳を確認する。


「うっかりしてました。その日は人混みが苦手じゃなくなる予定です」


「そ、そうなんだ。そ、それはよかった……」


 みのりがひきつった笑いを浮かべる。

 もっと喜ぶと思っていただけに心外だ。


「クレープ屋、楽しみですね」


 思わず、ニコッという効果音が付きそうなぐらいの笑顔になってしまう。


「しかも、模擬店がクレープ屋で確定しちゃってるし」


「そうなると、他のサークルメンバーにも早めに根回し――

 じゃなかった、挨拶とかしないといけませんね」


「他のメンバーは他学部の子ばかりだから校舎が違うもんね。試験が終わったら集まるように連絡しとくよ」


「ちなみに、お料理サークルって全部で何人いるんです?」


「前にも言ったと思うけど、めぐみちゃんが入ってくれたおかげで非公認サークルに降格するのを回避できたわけで……」


「つまり、私を入れて五人ですか」


 それぐらいなら、認識許可権パーミッションを変更して自分を認識させても問題ないだろう。


「よし、サークルに関しては把握しました。試験後の楽しみもできてバッチリですね。

 そうそう、みのりに教えてもらった例の唐揚げもバッチリでしたよ」


「あ! 例のやつ、さっそく作ってくれたんだ!」


 唐揚げが好きな尾本が、ダイエットのために唐揚げを我慢しているのはよく分かっている。

 そこで、みのりに相談して〝ダイエット中でも罪悪感が少ない唐揚げ〟を教えてもらったのだった。


 そのレシピは『サラダチキンの唐揚げ』。サラダチキン自体は、マリネした鶏むね肉をジップロックに入れ、炊飯器の保温モードでじっくりと放置するだけという手軽さ。試験勉強中の忙しい学生にとって、簡単に作れて助かる調理法だ。

 そして、こうして作ったサラダチキンを使い、あとは普通に唐揚げに仕上げるだけ。


 尾本にお弁当を渡す時、中身はいつも秘密にしている。今回はお弁当箱を開けたら唐揚げが入ってて驚くだろうな……とも思うが、こちらがどんなに料理に工夫を凝らしてみても「美味しい」ぐらいの感想しか返ってこないのが腹立たしい。


「もう少し何か言ってくれたら、私も作り甲斐があるのに……」


「お父さんのこと?」


 みのりが不思議そうに首を傾げる。


「お父さん?」


「違うの?」


「あ? あー」


 ――そうだった。そういう設定だった。

 

 まさか、みのりに尾本の事を色々と言うわけにもいかないので「お父さんのダイエット食を色々考えたい」と相談していたのだった。

 なんとコンプライアンス意識の高い女神だろうか。我ながら健気すぎて泣けてくる。


「どうしておじさんってデリカシーに欠けてて、ボキャブラリーが乏しいんでしょうね。いつか特大の天罰が下りますよ、きっと」


 やれやれ、とめぐみは天を仰いだ。


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