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Re: 後編

「はぁ!?」

 ロイヤーは動揺する。

 間違いなく自分は合格すると思っていたし、それに見合うパフォーマンスをしたつもりだった。

 なのにジェームズの評価は実践に値しないというものだったので、理解できない怒りより先に驚嘆や動揺が来た。

「私怨では無いですよね?」

「んな訳あるか。お前の実力だ」

「どこがいけないんですか?」

「お前、なんで的の真ん中が赤いか分かるか?そこが急所だと想定されるからだ。急所を狙わないならいくら制御が上手くとも使い物にならん」

「それは、弱点をつかなきゃいけない弱い魔法使いがやることだ。それに、僕だって真ん中を狙い撃つくらいできる!」

「お前は確かに魔法の腕は優秀だ。それだけならこの会社でも指折りだろうな」

「じゃあ──」

「でも魔法使いとしては……どうだろうな。実践に送り出すにはまだ怖いな。もういいだろう。さ、ゴミ拾い行くぞ」

 ジェームズはまるで何事も無かったかのように、訓練場から去る。

 まるでしてやられた気分だ。

 これほど屈辱的な経験は今までない。

 ロイヤーは腸が煮えくり返るような感覚を覚えた。

 そして、ロイヤーは彼の後について行くのだった。


 ロイヤーが帰宅した後、ジェームズは社長室に呼び出された。

「ロイヤーくんの調子、どうだい?」

「いやー、若いっていいですね〜。オラオラしてる感じがします」

「にしても、君も慎重過ぎやしないかい?彼はあのケンブリッジの首席だよ?」

「現場に出る以上、新人には十分な教育が必要です。何かあってからでは許されない。特に、彼のような金の卵は」

「価値があるからこその慎重さか。それも、君らしい──」

「いや、彼はまだダメです。魔法の腕は一流と遜色ない。でも、討伐院なら潰れてるでしょう」

「そうなのかい?」

「ええ、彼は精神が未熟です。そして、彼は魔法石の声を聞けない。さっきテストして確信しました。この銃の指示を無視したのがその証拠だ」

 ジェームズが銃を指さして説明する。銃に飾り付けられている魔法石は相変わらず美しく光を反射する。

「魔法石の声が聞こえないということは、戦場で一人になるということ。中小のドラゴンなら大丈夫ですが、災害級のドラゴンならその精神の脆さが致命的になる。こればかりは才能ですが……声が聞けない分強い精神を持たないと……彼は破滅しますよ」

「そうならないよう、頼んだよ」

「重い責任を背負うのは苦手です」

 ジェームズは笑って社長室を後にした。

 社屋の外に出ると突風が吹いた。

 いや、突風かと思ったらずっと吹き続けている。

「風が強いのか」

 そういえば明日の予報は雨だった気がする。

「明日は介護だな」

 そう呟いて、ジェームズも家路に着いた。


 翌日、ロンドンは予報通りの雨模様だ。

 強い雨に降られ、街には人がほとんど出歩かない。

「おはようございます。ファ〜」

「眠そうだな、ロイヤー」

 ジェームズは眠そうに入社してくるロイヤーに声をかける。

「雨の日はほうきが使えないんで、早起きしなくちゃいけないからあまり眠れないんです」

「大変だな。それより、今日は介護だぞ」

「そうですか」

 ロイヤーはやれやれというようなやる気のない返事をする。

 その時、社のテレビがニュースを伝える。

「フランス、ブルターニュ半島ではハリケーンによる大規模な災害が発生しています。このハリケーンはドラゴン由来で、かつてブリテン諸島を襲ったドラゴンと同一の個体と見られています」

「え……?」

「どうしたロイヤー」

 突然テレビを見たまま硬直したロイヤーを不思議に思い、ジェームズは声をかける。

 だがロイヤーは止まったままテレビを見つめたままだ。

「このドラゴンは本来北上して海水温の低下とともに死滅するのですが、温暖化により海水温が下がらず生き延びた模様。それにしてもフォールドさん。三年半前のあの災害がしかも同じドーセットに帰ってくるとは……」

「信じ難い事象ですね。私も長らくドラゴンを見てきましたが初めての経験です」

 止まっていたロイヤーはわなわなと震えた。

「ロイヤー?」

 様子が心配になって、ジェームズは声をかける。

 次の瞬間、ロイヤーが突然飛び出す。

「ロイヤー!?どこ行く!」

 社屋から飛び出してほうきにまたがろうとした所をジェームズが手を掴んで阻止する。

「こんな雨の中なにするつもりだ!」

 掴んだロイヤーの手は震えていた。

「離してください!」

「んな事出来るわけないだろ!」

「うるさい!僕の才能に嫉妬してるんだ!バディの先輩なのに新人が自分より手柄を挙げるのが怖いんだろ!」

「お前……あのドラゴンを倒そうってのか?身の程を弁えろ!」

「できる!」

「死ぬぞ!それくらいあのドラゴンは危険だ!」

「わかってる!でも、父さんの仇くらい、自分に討たせてくれ!」

 その言葉を聞いて、ジェームズは驚く。いや、驚いてしまった。

 二人の間に静寂が満ち、そこに大きな雨音が割り込んでくる。

 驚いたことによって握力が緩んだ。

 その隙にロイヤーは手を振り払う。

 そしてロイヤーはほうきにまたがり、雨を切り裂くように空へ飛び出した。

「待て!ロイヤー!行くな!」

 だがロイヤーは一度も振り返らなかった。


 ほうきを南へ飛ばしていると、空一面に広がる雨雲の中でも一際暗い雲が見えた。

 ドラゴンと戦ったことはない。だがあの雲の中にドラゴンがいるというのは、この強い緊張感が嫌でもわからせてくる。

 さらに一段ほうきを速くすると、ドーセット沖、ポートランド島上空で突然ほうきが減速し始めた。

 ロイヤーはより力を込めたがまるで効果がない。

 となれば原因は一つ。

「魔力が乱されている」

 ロイヤーはその事を理解すると領域の外にまで退いた。

 だが逃げではない。ロイヤーは十分な場所まで戻ると雲めかげて杖を向ける。

 杖にありったけの力を込めれば、杖先にエネルギー球が出現し、ロイヤーの込めた力の分だけ膨 れ上がっていく。

 エネルギー球が大きく成長すると、ロイヤーは暗雲へ照準を合わせてそれを解き放った。

 エネルギー球はまっすぐ雲へ飛んでいき、その奥で凄まじい轟音を轟かせた。

 その轟音の裏でドラゴンの悲鳴に似た鳴き声が聞こえて雲が崩れる。

 それを見たロイヤーは右手で拳を作った。

 父の仇やドラゴンに一泡吹かせる実力はある。

 この拳はその事を誇ったように握られたものだった。

「ぶおぉぉ」

 だが、雲の崩れ方がおかしい。

 雲は同じ方向に崩れ、晴れ間が一筋イギリス海峡に作られる。

 それと別に風が風向きを変えた上に一段と強くなる。

 さすがのロイヤーもなにか変だと思い、もう一度杖を構えた。

 エネルギー球が再び生成され、狙うは晴れ間。そこを狙ってロイヤーはエネルギー球を射出した。

 エネルギー球は晴れ間を目掛けて放ったはずだったが、風で流されるようにそれてしまう。

 さらにほうきの調子も悪い。

 中々体勢が安定しなくなってきた。

 ここでロイヤーは気がついた。

 あのドラゴンとの戦いは既に始まっていたのではない。

 今から始まるのだと。

「ぼおぁぉふうぉぉぉぉん!」

 世界の中心でドラゴンが咆哮した。

 開戦の合図が鳴った。


 ドーセット州・ポートランド島──

 三年半前の悲劇に決着をつける。その想いを抱えていたのはロイヤーだけではない。

「……あの日を思い出しますね」

 あの日以来三年半ぶりのポートランドでのドラゴン対策キャンプ。

 討伐院の面々も、この因縁の大地でリベンジに燃えていた。

「あの日もこんな雨だった。風が強くてほうきを飛ばすのは無茶だった。だからウィリアムハート指揮官は単独戦闘を挑んだ」

「……悔やまれているのですね。ネイサン指揮官」

 ミリー・ネイサン。討伐院の精鋭メンバーにして──本作戦指揮官。

 彼女もまた三年半前に屈辱を味わった一人。

 あの日指揮官の力になれずに撤退したこと、そして指揮官を失ったことや、指揮官を討伐院の汚点にしてしまったことは悔やんでも悔やみきれなかった。

「必ずやウィリアムハート指揮官に戦果の報告を……」

 覚悟を持って空の暗雲を見つめた次の瞬間だった。

 風が強くなったと思いきや、彼ら彼女らは視線をその悪夢を彷彿とさせる空へ釘付けにされた。

 悪夢の雲が変形していく。

 雲が渦巻いて、その中心からは太陽光が侵入してくる。

 なによりもその真ん中には、今まで見たことの無い雲に隠れ続けたあの存在が鎮座していた。

「な……なんで……まだ……ハリケーンになるタイミングじゃない……」

 風が強まり海が荒れてなお、そこにいる魔法使いたちは呆然と空を見上げた。

 しばらくすると、ハッとしたミリーは部下に尋ねた。

「避難状況は!?」

「まだかかりそうです!」

「どうするの……このままじゃ……三年半前のあの日と……同じ……」

 その時、ミリーの頭の中に過ぎったのはあの日の鮮明に思い起こされる記憶。

 砕けたレンガの建物、ヒビ割れたアスファルト、どこから飛んできたか分からないひっくり返った自動車。

 その時ミリーの体は、尊敬する亡きあの人と同じように行動するのだった。

「行かなきゃ……」

「指揮官!何処へ行くのですか!」

「決まってるでしょう!あのドラゴンを討伐するのです!」

「無茶です!」

「ウィリアムハート指揮官がそうしたように、私もまた部下を守る責任がある!」

「あのウィリアムハート指揮官ですらやられたドラゴンですよ!三年半前と同じ轍を踏むつもりですか!」

「……ヴィクラムくん。私がいない間、この現場の指揮はあなたに預けます。私があのドラゴンの侵入を許したら……あなたが、みんなを逃がしてください」

 そうして、ミリーはキャンプを飛び出す。

「指揮官!」

 静止を促す声は届かない。

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