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earache 後編

 その日、ロイヤーは呼び出しを食らった。

 そこでは彼のことを気にかけてくれていた教授が待ち構えていた。

「ウィリアムハートくん。君は非常に優秀な学生だ。この三年間、常に同世代の首席で居続けている。あー、だが……今回の件は叱らなければならない」

「はい」

「わかっているな?これは模擬戦だ。相手はドラゴンじゃない、人間だ。だから手加減をしてやらないと──」

「したんです」

「ん?」

「したんですよ……手加減」

「……それは本当か?」

「手加減しても、折れたんです」

 教授はしばらくなにも言わなかった。

 そして、メガネを外し、教授は額を押さえる。

「……そうか」

 そして状況を理解し、処分を言い渡す。

「それなら、君は模擬戦をするな。勘違いしないでくれ。別に模擬戦をしないからと言って、成績が悪くなる訳じゃないさ」

「そうですか」

 ロイヤーの反応は思ったよりもあっさりしていた。

 だが教授は手を叩いて「この話題は終わり」と話題を区切ると、次に子どもにプレゼントを渡すような笑みで話し始めた。

「ところで君に……いいニュースも持ってきたんだ」

 そう言うと教授は封筒をロイヤーに渡した。

 宛先は──王立ドラゴン討伐院。

「明日面談だ。君ならきっといい反応をもらえる」

 教授は笑顔でロイヤーを励ました。

「ああ、ありがとうございます」

 あの紋章が封筒の縁に誇らしげに押されている。

 そんな封筒に向けられたロイヤーの視線は穏やかではなかった。

 翌日、彼はウェストミンスターにいた。

 目の前にはまさに建築が豪華絢爛な芸術という他ない立派な宮殿がそびえ、その荘厳で厳格な雰囲気にはロイヤーですら圧倒される。

 これから討伐院の面々に顔を合わせることや、無礼は許されないという緊張感から、ロイヤーの手のひらは少し湿潤になる。

 だが、そんな緊張を押し殺すと、その足を一歩一歩進めていく。そして、最奥の大広間の前に到着した。

 扉を叩き、合図とともに彼は中に入った。

「よく来たな」

「首席だろ?取るの決まってんだから、面接なんて意味ねえのになんでやるんだ?」

「リアム!失礼ですよ」

「全く、こんな時くらいしっかりしなさいよ」

 奥に待っていた四人の魔法使い。

 ダーウィン卿

 リアム・A・マッカートニー

 ピーター・K・ルーカス

 キャロライン・エバンス

 例え父親が討伐院のエリートだったロイヤーとて、所属していない組織の魔法使い全員の名前を知っているわけではない。

 だが、目の前にいる四人の名前は全員知っていた。

 それほどに有名な魔法使い四人がわざわざロイヤーのために時間を割いていた。

「座りたまえ」

「失礼します」

 ロイヤーが着席すると、魔法使い集団から質問が飛んでくる。

 最初に質問してきたのはルーカスだ。

「本日はどのような経路で──」

「あの……」

 ルーカスの質問をロイヤーは遮ってしまう。

「僕は……討伐院を辞退します。本当にごめんなさい」

「えぇ!?」

「はぁ!?」

「嘘っ!?」

「なんと!?」

 ルーカスとその隣に座っていたマッカートニーが大声をあげる。

「君、首席合格者なんでしょう?なら、学校の顔を立てるために討伐院に入るのが決まりでしょう」

「ですが、どうしても」

「んな事許されるわけねえだろ!なんのためにあの大学行ってるんだ!」

「あなた……何言ってるかわかってるの?討伐院を蹴ってまでどこにいくつもり?」

「にわかには信じ難い。気の迷いからの発言だな」

 魔法使いたちは困惑し、ロイヤーの正気を疑った。

 だが、ロイヤーの中で答えは出ていたし、その態度に対して物申したかった。

「僕は、討伐院に入れたからといって幸せになるとは限らないと感じています」

「でも魔法使いになるからには、討伐員の方が待遇もいいじゃないですか。国の栄誉のためにドラゴン討伐ができる。それが魔法使いにとって最上の幸せでしょう?」

「僕はそうは思いません。あなたたちは、僕の名前を見てなにも思わないんですか?」

 ロイヤーにそう言われて、ルーカスは名前を読み上げる。

「ロイヤー・ジャスティン……ウィリアム……まさか……」

 魔法使い四人は恐る恐るロイヤーを見た。

 気がつけばロイヤーの視線はとても冷たく、まるで自分たちを軽蔑するような視線を向けていた。

「あなたたちは魔法の制御を過信している。父はそれで負けた。その上使い捨てた組織に、僕は入りたくないです。もう、僕がここにいる意味はないですね。貴重な時間をいただきありがとうございました」

 そう言い残してロイヤーは大広間を後にする。

「おい待て──」

「リアム!」

 マッカートニーがロイヤーを引き留めようと声をかけるも、ルーカスがそれを止めた。

「なんで止めやがる!こんな顔に泥塗られて、黙ってられるか!」

「この行為を甘んじて受けることが、討伐院ができるせめてもの報いというものだ」

 割って入るようにダーウィン卿が説明する。

「でも──」

「あの少年が正しい。我々のやり方は必ずしも最適解とは限らない」

 その後、魔法使いたちは次の面接に備えた。


『世代ナンバーワンの魔法使いロイヤー・J・ウィリアムハートは討伐院NG!?討伐院の公示に名前なし!民間で争奪戦勃発か!』

 学生新聞の一面にはこの見出しが大きく取り上げられていた。

「どういうことだよロイヤー!」

 ロイヤーを壁に追いやったマイケルが、ロイヤーに迫る。

「どういうことって……なにがです?」

「なんで首席のお前が討伐院に行かないんだよ!なんで俺が討伐院に行くことになってるんだよ!」

「そうなんですね。よかったじゃないですか。討伐院に行く夢が叶いましたね」

「ふざけんな!俺は……お前を超えて討伐院に行くって言ったんだ!なぁ……お前どうしちまったんだよ」

「僕ですか?僕は普通ですよ」

「どこがだよ……ずっとおかしいよ……俺の知ってるお前は……もっと……魔法を楽しんでただろ!」

「そうですか」

「そんな興味無さそうな返事すんなよ……」

 手をついて彼に迫っているのはマイケルである。

 しかし、涙ぐんでしまうのもマイケルの方だった。

 この冷たい返事は、彼の相棒だったロイヤーが、もう帰ってこないことを意味するような、そんな現実を突きつける一言だった。

「俺……いつかお前と戦いたかったんだ」

「勝負ですか?相手しますよ?」

「ちげえよ。今のお前にそんな価値ねえ」

「?」

「……もうお前いいよ。ずっと期待してたんだ。戻ってくれるって」

「戻るって?」

「聞かなきゃわかんねえのか?高校の頃の、魔法を好きだった頃のお前だよ」

「高校……あんな遊んでばかりだった頃の僕と戦いたいんですか?」

 その言葉にカチンときて、マイケルは拳を振り上げ、彼の顔面に目掛けて振り下ろした。

「……危ないですねぇマイケル」

 だが間一髪のところで、ロイヤーの結界魔法が発動し、顔に傷をつけさせない。

 憎たらしくも、寸分の狂いもない完璧な魔法制御だった。

「もういいですか?僕も忙しいので」

「……勝手にしてくれ」

 そして、ロイヤーはどこかへ行ってしまう。

 二人の関係性は、この日を境に歩みを止めてしまった。


 後日、ロイヤーの就職先を巡って民間企業間では争奪戦が発生した。

 各カレッジの首席は討伐院に行くのが慣例なので、首席が民間に流れて来るというのは前代未聞のことだった。

 その激しい争奪戦の末彼の所属は、名門でありながら柱の一角オリバー・T・フォールドの衰えにより、業績が伸び悩むピカデリーに決定した。


 四年の春。

 魔法使い学院大学の大学最後の半年間は、実際に配属された企業で働く研修期間となっている。

 今日からここが、新しい現場だ。

 ロイヤーの社会人人生がスタートした。

「それじゃあ、自己紹介をよろしく」

 社長の号令がかかると、新入りの魔法使いたちが自己紹介を始める。

 トップバッターはもちろん、争奪戦の末にゴールデンルーキーとして入社したロイヤーだった。

「ロイヤー・J・ウィリアムハート。王立魔法使い学院大学ケンブリッジ校出身。まだまだ若輩者ですが、よろしくお願いします」

 ロイヤーが自己紹介をすると、少しだけ空気がざわめいた。

「こいつが噂の……」

「なんで討伐員蹴ったんだ?」

「素行悪いらしいよ」

「どんな曰く付きだ?」

 だが境遇を考えた時に社員たちは、ゴールデンルーキーというよりも民間に漏れる理由があることを心配していた。

 そんな空気の中、自己紹介は進んでいく。

 人種も出身もバラバラ。ロイヤーは仲良くできるか少し不安になった。

 その時だった。

「リチュッ……リチャード・オブライエン。ケンブリッジ校出身。憧れの魔法使いになれて……とても嬉しいです。精一杯頑張ります」

 その場にいる全員が「噛んだな……」と思うような、ある意味場の和む自己紹介をした奴が一人いた。

 よく聞くと自分と同じケンブリッジ校出身。名前も聞いたことないが、まあ同じ大学なら色々話を合わせられるだろう。

 そう踏んで、ロイヤーは彼に声をかけに行った。

「やあ、君はリチャード・オブライエンくんだったかな」

「はわわ……そっ……そうです!よろしくお願いします!」

 ロイヤーは内心やりづらいなと感じた。

「すごい……学生新聞でしか見たこと無かった……有名人に会ってるみたい……」

「フフッ……そんなことないですよ。君はロンドンの出身なんですか?」

「うん。ロンドンでドラゴンが襲ってくる怖さとか、それと戦う魔法使いを見て育ってきたから、僕もあんなヒーローになりたいと思って、魔法使いになったんだ」

「そうですか。それはいい動機ですね」

 同い年でロンドン出身、同じ大学。

 ドラゴンへの恐怖と、魔法使いへの憧れ。

 どこか似ている。ロイヤーはそう感じ取った。

「似た者同士、仲良くしましょうね」

「似た者同士?」

「フフッ……なんでもないです」

 雑談にひと区切りがつき、ロイヤーがリチャードから離れた時だった。

「ロイヤーくん。ちょっといいかな」

 ロイヤーは社長に呼び止められた。

「どうかしました?」

「社長室に来てくれたまえ」

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