先生は断言しない
診察が終わり、私は待合室の椅子に座っていた。
犬は、キャリーの中。
相変わらず静かで、鳴き声ひとつ上げない。
(ここ、騒がなくていい場所だな)
そんな顔をしている。
ほどなくして、獣医がカルテを手に戻ってきた。
「ええと……」
その「ええと」に、すべてが詰まっていた。
私は背筋を伸ばした。
検査結果を聞くときは、いつだってこうだ。
「特に大きな異常はありません」
「よかった!」
私は素直に安堵した。
獣医は続ける。
「食事も、環境も……ええ、今のままで問題は」
言い切らない。
決して、言い切らない。
(この人、綱渡りしてる)
犬は内心で思った。
「ただ……」
来た。
獣医は、言葉を探すように天井を見た。
「……運動量は、少なめでも大丈夫です」
「ですよね! 室内犬ですし!」
獣医は、微妙に首を傾げた。
「ええ……室内、ですね」
沈黙。
私は畳みかける。
「散歩、無理に行かなくてもいいですよね?」
「……ええ。無理に、は」
完全に逃げの姿勢だ。
(この人、プロとしての何かを犠牲にしてる)
犬は、少しだけ申し訳なくなった。
獣医は、最後にこう言った。
「……飼い主さんが、この子をどう理解しているかが、一番大事ですから」
私は、胸を張った。
「分かってます。犬です」
獣医は、もう何も言わなかった。




