↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬だと思って拾ったら、どう見ても猫でした  作者: 櫻木サヱ
それを猫と呼ばない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/12

犬は爪を研ぐ

 事件は、静かに始まった。


 朝だった。


 私はいつものようにコーヒーを淹れ、犬のいる方向を確認する。

 ソファの背もたれ。

 ……いない。


「?」


 視線を巡らせる。


 カーテンレール。

 ……いない。


 冷蔵庫の上。

 ……いない。


 私は少し焦った。


「ポチ?」


 返事はない。


 そのとき、耳に届いた。


 ガリ……ガリ……。


 嫌な音だった。


 私は音のする方へ向かい、固まった。


 柱。


 アパートの、備え付けの柱。


 そこに、犬がいた。


 前足を柱に当て、後ろ足で立ち、

 規則正しく、真剣な顔で、

 爪を研いでいた。


 ガリ、ガリ、ガリ。


「……」


 私は言葉を失った。


(やってしまった)


 犬は、内心で冷静に状況を把握していた。


(これは……人間に見られると、まずいやつ)


「……えっと」


 私は、ゆっくりと息を吸った。


「……爪、伸びてたか」


 自分でも驚くほど、落ち着いた声だった。


 犬は、ちらりとこちらを見る。


(怒られない?)


 私は続けた。


「犬にも、爪あるもんな」


 犬は、もう一度柱を見た。


 ガリ。


(続行していいやつだ)


 音が、再開する。


 ガリ、ガリ、ガリ。


 私は腕を組んだ。


「……まあ、柱で研ぐ犬も、いるかもしれない」


 自分に言い聞かせるように、そう言った。


 その日の午後。


 私はホームセンターにいた。


「犬用……爪……」


 売り場を彷徨い、最終的に手に取ったのは、

 どう見ても猫用の爪とぎだった。


「……まあ、犬でも使えるだろ」


 私はレジに向かった。


 帰宅後。


 私はそれを部屋の隅に設置した。


「ほら、これ使え」


 犬は、一瞬だけ見る。


 無視。


(焦るな)


 数分後。


 誰も見ていないと判断したタイミングで、

 犬はその爪とぎに向かい、

 完璧なフォームで、

 爪を研ぎ始めた。


 ガリ、ガリ。


 私は、感動した。


「……やっぱり犬だ」


(猫)


 犬は、心の中で小さく呟いた。


 その夜。


 隣人が壁越しに、ぼそっと言った。


「……それを猫とは、呼ばないんだな……」


 返事は、なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。