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犬だと思って拾ったら、どう見ても猫でした  作者: 櫻木サヱ
それを猫と呼ばない

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12/12

犬は高みを目指す

 柱事件から三日後。


 私は学習していた。


 犬は、下に置いたものには反応しない。

 目線より高い場所。

 そこが、この犬の世界だ。


「……高いところ好きなんだな」


 私はそう結論づけた。


(違う。好きなんじゃない。正しい)


 犬は心の中で訂正する。


 朝、起きると、犬はすでに視界にいない。


 だが、焦らなくなった。


 天井付近を見上げる。


 いた。


 カーテンレールの上。


 細い棒の上に、信じられない安定感で座っている。


「落ちないのか?」


 心配して声をかけると、

 犬はゆっくりとこちらを見下ろした。


(落ちるわけないだろ)


 その目は、そう言っていた。


 私は、脚立を出した。


「降りような」


 犬は、動かない。


 むしろ、さらに奥へ進む。


 カーテンレールの端から、

 エアコンの上へ。


「え、そこ行けるの?」


(余裕)


 私は息を呑んだ。


 犬は、家具から家具へ、

 床を一度も踏まずに移動していく。


「……忍者だな」


 私は感動していた。


(猫だ)


 昼過ぎ。


 隣人が、またインターホンを鳴らした。


「すみません……」


 ドアを開けると、隣人は部屋の中を一瞥し、固まった。


 犬は、冷蔵庫の上。


 いや、正確には、冷蔵庫の上に置いた箱の上。


「……あの」


「はい?」


「それ……」


 隣人は、言葉を選ぶ。


「……犬、ですよね」


 確認だった。


「はい!」


 私は笑顔で答えた。


 隣人は、目を閉じた。


(あ、この人、完全に折れた)


 犬は察した。


 その夜。


 私は安全対策を始めた。


 棚の固定。

 落下防止。

 滑り止めマット。


「犬が怪我したら大変だからな」


 犬は、その様子を高みから見下ろしていた。


(この人、本当に優しい)


 寝る前。


 私は布団に入り、天井を見つめた。


「……犬って、奥が深いな」


 天井近くで、

 犬が小さく丸くなった。


(人間も、奥が深い)

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