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波有伝説~海をゆく虹色の鱗【後編:不老不死の秘薬】  作者: 唯紅蓮真美(いちべにまみ)
第三章 砂塵に眠る無畏の宝窟

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第74話 モヤシっ子




 小舟は金色の海を進み、あちこちに散らばる小さな島々の間を通り抜けていく。


 

 「大王様、ご主人に呼ばれるたびに僕、本当に嬉しくなっちゃうんです!面白いお話をたくさん聞かせてくれるんじゃないかって、毎日指折り数えて待っていたんですよ。ここ二、三日で何か新しい出来事はありましたか?」




 鷹王が口を開くより早く、その子はさらに言葉をまくしたてた。


 「だって考えてもみてくださいよ。ご主人が僕を大王様にプレゼントしてくれてからもう百年以上。ここへ時々来てくれるのは大王様だけで、ずーっと僕ひとりぼっちなんですよ。お話しする相手もいないんです」


 「初めて来たばかりのときは、本当にお宝が多すぎて目がいくつあっても足りないくらいびっくりしちゃいました!きっと、世界中のお宝を全部集めたって、ここにある量には敵いませんよね」




 鷹王は鼻高々に胸を張った。


 「そりゃあそうじゃ!数千年の間、ワシが砂漠にあるすべての地下宮殿からお宝を根こそぎ集めてここに保管したからな。砂の鉱山から採れた純金を使って、金色の海を作ったのじゃ」


 「この景色を見られるのは、ワシのほかには無畏だけ。お前の元の主人(人面桃)ですら、数回しか入ったことがないのだ。ハハハ!」




 無畏は顔いっぱいに尊敬の念を浮かべた。


 「大王様のためにお宝を守ることができてとっても光栄です。最初の頃は僕も大王様と同じで、島を一つずつ巡っては、お宝を一つ一つ眺めるのが大好きでした」


 「でも、ずーっと見ているとさすがに飽きちゃって……。あ、そうだ!最近は新しいお宝は増えていないんですか?何か珍しいことでもいいから、早く教えてくださいよ」




 服の裾に隠れていた小亀は、この小さな生き物がだんだん可哀想になってきた。


 百年もの間、たった一人で場所に閉じ込められていたのだ。


 これだけマシンガントークが止まらないのも無理はない。




 よく喋るモヤシっ子は、やたらと大きくて丸い頭をしている割に、体つきは信じられないほど薄っぺらく、腕も脚も細長かった。



 (……ん?待てよ)


 小亀はハッと気づいた。


 (白くて丸い大きな頭、よく見たら宝物庫の白い球体にそっくりじゃないか?)



 さっき鷹王と人面桃が話していた「無畏眼(むいがん)」という言葉、そして彼が「無畏」と呼んだこと。


 間違いなく、このモヤシっ子は宝物庫そのものの精霊(命が宿った姿)なのだ。



 でも、話を聞いていると、どうして人面桃のことを「ご主人」と呼んでいるのだろう。


 もしかして、宝物庫は将軍が鷹王にゴマをするためにプレゼントしたものなのだろうか。それなら、あいつが一番の腹心に上り詰めたのも納得がいく。




 ―――




 風も波もない金色の海を小舟は静かに進み、モヤシっ子は相変わらず一人でペラペラと喋り続けていた。




 いくつかの島を通り過ぎる間、小亀は目を細めて島の上を観察してみた。


 ここは普通の大自然の島とは全く違っていた。


 上には、大小さまざまな、お宝がぎっしり詰まった箱やケースだけが、文字通り山積みにされているのだ。




 小亀は心の中で激しくため息をついた。


 (これぞ本物の、国が買えちゃうほどの大富豪だ……。南海のお宝部屋なんて、ここに比べたらただの貧乏人の物置きに見えちゃうよ)




 「無畏よ」


 鷹王がようやく口を開いた。


 「お前の予想通りじゃ! 実はここ二、三日で新しいお宝を手に入れてな」



 無畏は嬉しそうに「おおっ!」と声を上げた。



 「けれど、そのお宝はここでは使い道がないのじゃ」



 「えーっ、じゃあ今度ここに来るときに見せてくれませんか?」


 無畏は丸くて大きな目をさらにパチクリさせた。



 鷹王は思い出したように尋ねた。


 「お前、地上の砂漠の景色をまだ覚えているか?」



 無畏はモヤシのような頭をコテンと傾けて考え込んだ。


 「僕が生まれて(自我を持って)すぐ、ご主人が僕を大王様にプレゼントしてくれたから、それからはずっと砂漠の地下にいます。だから上の世界のことはあんまり覚えていなくて……。一面が黄色い砂だらけで、すっごく暑かったような気がしますけど?」



 「その通りじゃ。だからこそ、今回手に入れた法宝は『冰晶傘』という傘での。その下にいればちっとも暑くない。避暑には最高のアイテムなんじゃよ」




 無畏は羨ましそうに目を輝かせた。


 「氷の結晶の傘ですか!絶対に綺麗なお宝ですね。名前を聞いただけでキラキラしているのが分かります!」


 「大王様、今度来るとき、その傘を僕に見せるために持ってきてくださいよ。ね?僕、百年もお宝を見守ってきたんですよ。ずーっと一人ぼっちで、寒くて寂しいんです。ここにはお宝がいっぱいあるけれど、みんな喋らないただの物だから、お話し相手にもなってくれないんですもの」




 鷹王は気のない返事で生返事をした。


 「分かった、分かった。また来るときに、持ってきて見せてやるわい」



 「わーい、大王様大好き! あ、着きましたよ! 」




 ―――




 小舟が真っ赤な砂でできた島に到着し、鷹王と無畏が船を降りた。



 この島だけは、他とは違って、箱もケースも一切置かれていなかった。



 鷹王は腰を落とすと、足元の赤い砂をひと掴みした。


 手のひらを緩めると、赤い砂が指の隙間からサラサラと零れ落ちていく。




 「大王様、外の世界の人たちは、この『蓋紅沙(がいこうさ)』が大王様の最強のマジックアイテムだって知っていて、世界中のあらゆるものを吸い込んじゃうって恐れていますよ」


 「だって、ここの砂粒は、たった数粒で大きな湖と同じくらいの重さと大きさになっちゃうんですもの。もし全部放り出したら、世界中が砂の底に沈んじゃいますよね!」


 「外の人たちが、こんなにたくさんの蓋紅沙があるって知ったら、全員ショックでひっくり返っちゃいますよ!」




 鷹王は場にどっかと座り込み、よほどその砂が愛おしいのか、何度も同じ動作を繰り返した。


 砂を掴んでは落とし、掴んでは落とす。



 彼は不敵にニヤリと笑った。


 「フン、たとえ外の奴らがこれを手に入れたところで何になる。使い方も知らぬ奴らにとっては、ただの赤い砂ころに過ぎんわ」




 「でも大王様、僕、ずっと不思議に思っていたんです。どうしてこの素晴らしいお宝を使って世界を征服しちゃわないんですか? あ!分かりました。きっと大王様はとっても優しいから、不必要な争いをして、か弱い人間や普通の妖怪たちを傷つけたくないんですね!」




 鷹王は最初「違うわ」と言いかけたけれど、少し考えてから、都合のいいウソをついて誤魔化すことにした。


 「……うむ、その通りじゃ!このワシが、自分の一身の利益のために、天下や非力な小動物どもを滅ぼすわけにはいかんからな」


 「だがな、もう一つ理由がある。お前は、一握りの赤い砂を、どうやって砂漠と同じ大きさに膨らませるか知っているか?」


 「これには、絶え間なく水を注ぎ込んで水分を吸収させ、どんどん大きくしていく必要があるのじゃ。大きくなればなるほど、必要な水の量は尋常ではなくなる」


 「水族の奴らが味方にいれば話は早かったのじゃが……。それに、今はただでさえ水不足じゃ。最近は新しい水源すら見つからん。はぁ、どうしてまたイライラする現実を思い出さねばならんのじゃ」




 服の裾に隠れていた小亀は、この会話をじっと聞き逃さずに捉えていた。




 鷹王は不機嫌そうに眉をひそめて首を振ると、考えるのをやめた。


 また楽しそうな笑顔に戻り、しゃがみ込んで足元の赤い砂を熱心にいじり始めた。



 (――今だ!)


 鷹王の服の裾が地面の砂に触れた瞬間、小亀は少しだけ体を大きくし、地面にある赤い砂粒をパッと口で二粒ほど吸い込んだ。


 そしてすぐに元の小さな豆粒に戻ると、四つの小さな手脚でギュッと服の裏地に泥棒のようにしがみついた。




 水源が干上がっている話がよほどテンションを下げたのか、鷹王は赤い砂の島を出たあと、いつもなら楽しむ他のお宝チェックをすべてスキップした。



 「無畏、しっかり留守番をしておれよ!次回は冰晶傘を持ってきてやるからな」



 彼が帰ろうとするのを見て、モヤシっ子は寂しそうに目をウルウルさせた。


 「絶対に早く来てくださいね!忘れたら怒っちゃいますからね!」



 鷹王は「本当にうるさいやつじゃ」と内心うんざりしながら、一瞬で宝物庫の外へと脱出した。




 ―――





 沙の谷のテントに戻るまで、小亀は自分でも信じられなかった。


 こんなに簡単に最強のお宝『蓋紅沙』を手に入れ、おまけにその使い方まで100%キャッチできてしまったのだから。




 夜になり、みんなが再び部屋に集まると、小亀は全員が固唾を呑んで見守る前で、口の中からペッと二粒の赤い砂を吐き出してみせた。


 これほど作戦がスムーズにいくとは思っていなかったため、波有たちも「やったぁ!」と狂喜乱舞して大喜びした。




 ホッと長いため息をつき、小亀は無畏宝蔵穴の中で見てきたこと、聞いてきたことのすべてを、一から十まで詳しく説明した。


 「鷹王の話が本当なら、十分な水さえ注ぎ込めば、二粒の蓋紅沙はあの大月湖と同じくらいの大きさに膨らむはずだよ。それなら、如意錫杖(にょいしゃくじょう)の不気味な黒い穴をぴったり塞ぐことができるかもしれない。僕も師姉も水族だから、水を呼び出すくらい朝飯前だよ!」




 「必要なアイテムが手に入ったなら、一刻も早くここから脱出する方法を考えなくちゃ! 師父たちがいまも都で助けを待っているんだもの!」


 波有が焦ったように言った。




 伊貴が少し考え込んで顎に手を当てる。


 「トニちゃんにお願いすれば、前にここまで運んできた竜巻を呼び出せるから、沙の谷の外までは送ってもらえると思う。ただ……」


 彼は言葉を濁した。


 「ただ、もう白鶴がいない。甲ちゃんが元の姿に戻ったとしても、みんなを背中に乗せて長時間飛び続けるのは無理がある。この広大な砂漠をどうやって横断して、通天山まで帰ればいいんだろう?」




 「私の正体がラクダの妖だってことを忘れちゃった?」


 トニが彼らの顔を見回して、ニッコリと微笑んだ。


 「小さい頃から砂漠を駆け回って遊んでいたから、ここの地形なら何でもお任せあれよ。地上の砂嵐を避けて、地下にある秘密の通路を通っていけば、砂漠の底にある古い宮殿をショートカットして進めるわ」


 「私を信じて!一番安全に、最短ルートで抜け出せる道を案内してあげる!」



最後までお読みいただきありがとうございます!


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