第43話 最初の勝利
伊貴の予想は、見事に的中していた。
蘇った光如意は、都の皇宮に身を隠し、新しい皇帝を操り人形に仕立て上げていた。さらに、屏風山の一帯を李御に与え、南海と北海を美姫に任せて、あちこちに幾重もの厳しい関所を設けさせていたのだ。
もちろん、波有たちを指名手配するお触れ書きも、街のいたるところに張り出されている。
お触れ書きには、天道に背き、反逆を企てた不届き者たち、と書かれていた。
妖族だろうが人間だろうが、反逆者に関する情報をもたらした者には賞金五千両、捕らえた者には十万両を与えるという。
そのため、波有たちが秀麗山の門前に姿を現したとき、見張りの小妖たちは大喜びで踊り上がった。まるで、黄金の山が向こうから歩いてきたかのように見えたのだろう。
見張りを率いていたのは、黄色い毛並みが特徴の小さな狐の妖怪だった。
名前は「智」。
李御の側近である慧の妹だ。
慧が屏風山に戻って総支配人の座についたため、妹の智も便乗して、山の一角を任される小頭目に昇進していた。
狐が化けた人間の姿は、基本的には美女ばかりだ。
李御には遠く及ばないものの、この黄狐の妖怪も、柳のように細い腰をしたかなりの美貌の持ち主だった。
しかし、智は姉の慧とは違い、ひどく頭の固い性格だった。
一度こうと思い込んだら、誰が何を言っても絶対に引かない。
どこかの本で読んだのか、それとも誰かから噂で聞いたのか。とにかく、頭の中にすっかり染みついて離れない、とんでもない勘違いがあった。
『顔立ちこそが心を表す』――それが彼女の信念だった。
顔がすべて。
一番美しい人こそが、この世で最も賢く、最も能力がある。
天下一の美女と称される李御は、智にとって神様のような存在であり、昔からずっと、超えられない憧れだった。
それにしても、一体どういうことだろう。
少し離れた場所では、二人の少女が怯えた表情でこちらを見つめていた。
そのうちの年若いほうは、瑞々しくて美しい顔立ちをしていた。
一目見ただけで、彼女は呆然とし、究極の美しさに心を奪われてしまった。
智は混乱してしまった。
反逆者が、どうしてこんなに美しいのだろう。
国を傾けるほどの気品に満ちた顔立ちは、憧れの李御さえもかすんでしまうほどだった。
どうしよう。
ずっと信じてきた美の信念と、お触れ書きにある十万両の黄金が、頭の中で激しく殴り合いを始めた。
――――
智がうじうじと悩んでいる間に、周りの小妖たちはすでに反逆者たちに襲いかかっていた。
伊蘭と伊貴が手を組み、『風火術』を放った。
そこへ、新しく手に入れた法器『氷水牌』の力も上乗せする。
激しい風が炎を勢いよく燃え上がらせ、さらに氷の矢が雨あられと突き刺さった。
襲いかかった小妖たちは、ひとたまりもなく叩きのめされ、泣き叫びながら逃げ惑う。
一匹のネズミの妖怪が、毛を丸焦げにされてハゲた姿になり、智の元へ逃げ帰ってきた。
「かしら、早く何とかしてください! もし逃がしたなんて主人に知られたら、賞金どころか命がありません!」
智の視線が、こちらへ向かって走ってくる少年たちに留まった。
天女のような美少女だけじゃない、他にも仲間がいるじゃないか。
そうだ!あの子以外の奴らを捕まえれば、私の信念も黄金も両方手に入る。
智は自分の天才的なひらめきに、深く酔いしれた。
(さすが私。どうして名前に『智』って文字がついていると思う? 『知恵』の『智』だからよ!)
頭のネジが外れている狐の妖怪だったけれど、法力は決して侮れなかった。
仕掛けてくる法術は特級品だ。
智は素早い足取りで伊蘭と伊貴の前に立ちはだかると、懐から小さな玉の箱をうやうやしく取り出した。
出発するときに、姉がお守り代わりに持たせてくれたものだ。
中には、李御から慧に授けられた香の灰が入っている。
智が静かに呪文を唱えると、灰の中に隠されていた『三昧真火(=触れた万物を跡形もなく燃やし尽くすまで決して消えることのない地獄の業火』が、ふわふわと少年たちに向かって飛んでいった。
小亀は都で李御のこの切り札を見たことがあったため、恐ろしさをよく知っていた。すかさず伊蘭と伊貴の腕を引っ掴み、全力で後ろへと飛び退く。
けれど、香の灰はまるで目があるかのように、どこまでも三人の後を追ってきた。
人間の身で三昧真火に触れれば、跡形もなく焼き尽くされてしまう。
小亀は驚き、やむを得ず本性を現した。大きな亀の姿になり、甲羅を盾にして二人の前に立ちはだかる。
容赦ない炎が甲羅をじりじりと焼き、嫌な音を立てた。小亀自身は痛みを感じないものの、温度はどんどん上がっていく。
全身から大汗が噴き出し、頭もクラクラとして、今にも倒れそうだった。
狐の妖怪の智は、勝ち誇った顔を浮かべていた。
姉の主人の素晴らしい宝具のおかげだ、あの亀がいつまで持ちこたえられるか見ものだわ。
そう思った瞬間、目の前を激しい金色の光が遮った。反応する間もなく、相手の攻撃が電光石火の速さで顔面に迫る。
――――
それが巨大な黄色い猿の姿だと気づいたときには、もう体は動かなかった。
両腕を後ろへねじ上げられ、続いて太い棒が横から腰を直撃する。
バキッと腰の骨が砕け、智はその場に崩れ落ちた。
後四はさらに自身の猿の尻尾を太く頑丈に変化させると、容赦なく一振りを振り下ろし、狐の妖怪の頭を粉々に打ち砕いた。
一方、後四が狐の妖怪を仕留めたのを見た小亀は、急いで人間の姿に戻った。
仮羅から貰っていた『光占羅盤』を取り出し、蓋を開けて羅盤を回す。
すると、しつこく追ってきていた香の灰が、一筋の煙となって羅盤の中へと吸い込まれていった。
小亀は嬉しそうに声を上げた。
「伯父がこの宝物をくれたおかげだよ。じゃなきゃ本当にどうしようもなかった」
後四が一番手強い狐の妖怪を片付け、伊蘭と伊貴も息を合わせて残りの小妖たちをベシベシと叩きのめし、あっという間に全員を片付けた。
波有は師兄たちから、絶対に戦いに加わってはいけないと言いつけられていた。
そのため、云英と二人で離れた場所に立ち、手に汗を握りながら、心臓をバクバクさせて戦いを見守るしかなかった。
ようやくみんなの勝利が決まった瞬間、二人は飛び上がって喜び、お互いを抱きしめ合って涙を流した。
驕盧の配下と戦ったのは、これが初めてだった。
山からの脱出に成功しただけでなく、思いがけず李御の法宝まで手に入れることができたのだ。
記念すべき最初の勝利に、みんなの心はこれ以上ないほど晴れやかに燃え上がっていた。
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