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波有伝説~海をゆく虹色の鱗【後編:不老不死の秘薬】  作者: 唯紅蓮真美(いちべにまみ)
第一章 邂逅

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第4話 小さな草亀

読んでいただきありがとうございます!


今話でついに男主人公の小亀が登場します!

カッコいい登場……かと思いきや、予想外に滑稽な姿を見せる彼。


初対面でいきなりヒロインをひっくり返すという、とんでもない登場シーンに注目です^^



 

 伊高屋も若い頃には、それなりの野心を抱いていたものだ。


 「巍峨ぎが派」という響きの良い門派名を掲げたのもその表れだった。



 しかし名とは裏腹に、本人の風采は上がらず、おまけに強欲でケチだという悪評が広まると、江湖の者たちは誰も近寄らなくなった。


 門を叩いて弟子入りを志願する者など、一人も現れなかったのだ。



 胸に秘めた熱い思いも、月日と共に次第に冷めていった。


 誰かが弟子入りに来るのを待っていても無駄だと悟った彼は、ようやく街角で三人の子供を拾い上げた。



 当時、大師兄の伊蘭は十二歳。


 すでにガッシリとした体格の少年で、一歳年下の現・二師兄である伊貴と共に、街の浮浪児たちのリーダー格だった。



 伊高屋は、ボロを纏いながらも瞳に光を宿した二人の少年を一目で気に入った。



 だが、計算外のことがあった。


 伊蘭が背中にずっと背負っていた荷物の中身は、一歳の赤ん坊の波有だったのだ。


 弟子を二人取るつもりだった伊高屋は、図らずも三人の弟子を抱えることになった。



 それから五、六年後。


 父を葬るために身を売っていた小娘を見かけ、伊高屋は「家の中に家事や炊事をこなす女がいれば便利だ」と考え、雲英を買い取った。


 するとどうだ、雲英と伊蘭が互いに惹かれ合い、つい先日夫婦になったというわけだ。



 さらにその後、三人の弟子の尽力もあり、ようやく「巍峨派」の名を聞きつけた金持ちの地主が、自分の娘を弟子入りさせてきた。



 伊高屋はしばらく上機嫌だった。


 まとまった入門料が手に入ったし、新弟子の伊念は生まれつき「陰陽眼」を持つ、滅多にない逸材だったからだ。


 ようやく人並みに自慢できるものができた。


 こうして伊高屋は、三人の優秀な弟子と、一人の中途半端な弟子、それに弟子の嫁を加えた一行六人で、故郷にある道観どうかんへの帰路についたのである。



 伊高屋は今でも、当時を思い出しては自画自賛していた。


 いやはや、我ながらなんという眼識だ。


 伊蘭と伊貴のような優秀な子を見抜くとはな!


 同時に、当時の懸念が的中したことも感じていた。あの時の赤ん坊――波有は、大きくなっても手のかかることこの上ない!




 ―――




 そんな物思いに耽っていると、隣から二師兄の伊貴が声をかけた。


 「師父、あまり長く浸かりすぎないでください。明日の朝も早いんですから」


 歳のせいか、少し浸かっただけで頭がのぼせてきた。まだ四十を過ぎたばかりだというのに。


 やれやれ、これ以上は無理だ。


 伊高屋は立ち上がると、二人の弟子に言った。「よし、店に戻るぞ!」


 そして竹垣の向こうへ叫んだ。


 「わしと大師兄、二師兄は先に店へ戻るぞ! 雲英! 念ちゃんと波有を連れて早く戻ってこい!」



 雲英がそれに応じる。


 「はい、師父! 二人を見てますから、私たちもすぐ戻ります」



 波有は先ほど叱られたばかりだったので、黙っていた。


 聞こえてるのに、あんなに大声で叫ばなくたっていいじゃない、それにしてもまだちょっとしか浸かってないのに。物足りないわ……


 心の中で不満を漏らしていると、優等生の師姉・伊念が雲英に言った。


 「雲英姉さん、私たちも上がりましょうか」


 「ええ。ゆっくり立ち上がって、気をつけて歩くのよ。足元が滑るから」



 雲英が二人の手を引こうと差し出した。


 波有はその手を掴んだが、不服そうに岸へ向かって歩き出す。



 その時だった。


 足元で何かが「つるり」と滑り、波有は仰向けに温泉へひっくり返った。



 雲英と伊念が驚いて声を上げる。


 「波有ちゃん! 波有ちゃん! 大丈夫!?」



 見れば、波有は温泉の中からゆっくりと身を起こし、掌ほどの大きさの何かを高く掲げていた。

 

  「なーんだ、この小亀を踏んづけちゃったのね!」



 雲英と伊念も近寄って覗き込む。


 三組の目が丸くなって小亀を凝視すると、怯えた亀は慌てて首を甲羅の中に引っ込めてしまった。




 ―――




 店に戻ると、波有は師父たちの部屋へ駆け込み、手に入れたばかりの小亀を見せた。


 「師父、この子に何て名前をつけたらいいかな?」



 伊高屋は一日中歩き詰め、さらに温泉に浸かったせいで、すでに鼾をかいて眠っていた。


 隣の床にいた大師兄の伊蘭も、寝返りを打って眠りの中にいた。


 ただ一人、二師兄の伊貴だけが興味深げに小亀を見つめていた。


 「可愛いもんだな。どこで見つけたんだ? 名前は自分で決めてやれよ」 そう言って、彼は優しく妹弟子の頭を撫でた。



 普通の家なら十四、五歳の娘は身なりを気にする年頃だが、我が家の末っ子は容姿のせいか師父にはあまり可愛がられず、幼い頃から師兄たちと法術の修行に明け暮れ、女の子らしさは微塵もなかった。


 後に雲英がやってきたが、彼女は買い出しや炊事、洗濯に追われ、波有とゆっくり親しむ時間はなかった。


 さらに伊念が加わったが、口数は少なく、普段は修行か読書に没頭していて、波有にはあまり構おうとしない。



 波有は興奮していたが、二師兄が大きなあくびをするのを見て、申し訳なくなった。


 「二師兄、ごめんね。ゆっくり休んで」



 自分の部屋に戻ると、雲英も伊念もすでに眠りについていた。

 皆、疲れ果てていたのだ。



 だが、波有だけは眠れなかった。


 なぜだか分からない。あの小亀を手に取った瞬間から、心の中に得体の知れない喜びが湧き上がり、誰かに伝えたくて仕方がなかったのだ。


 「みんな寝ちゃったわ。ここじゃお喋りしにくいから、外へ連れて行ってあげる」


 彼女は小亀に向かって囁いた。


 その言葉を小亀が理解してくれることを願いながら。



最後まで読んでいただきありがとうございます!


本作は毎日午後5時20分に予約投稿を設定しています。


これからもコツコツ更新していきますので、応援よろしくお願いします!


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