第11話 人魚島
末弟子の伊甲よりも美しい者が、この世にいたなんて!
島に住む人魚たちを目にした瞬間、一行は誰もがそう思わずにはいられなかった。
颶風に巻き込まれた伊高屋ら七人は、南海の深淵に浮かぶ「人魚島」へと辿り着いた。
人魚たちの説明によれば、毎年春から秋にかけてカンナ(美人蕉)の花が咲く頃、彼らは花を採取するために術で水竜巻を起こすのだという。
彼らは運悪く(あるいは運良く)、花畑のすぐ傍で眠っていたために巻き込まれたのだった。
肝を冷やしたとはいえ、世の者が大金を積んでも拝めないという人魚の姿を目の当たりにできたのだから、実に運が強かったと言える。
島は決して大きくはなかったが、いたるところに乳白色の岩洞や石塔、石柱が並び、自然が織りなす千姿万態の美しさは、伊高屋たちを陶酔させ、大自然の神秘に深く感動させた。
人魚の夫婦は、それぞれ一つの溶岩洞を住処としていた。
頭領の名は「汕」。
一族の中で最も背が高く、屈強な体躯の持ち主だ。
妻の「清」は、とりわけ美しいというわけではなかったが、非常に情に厚く、伊高屋たちを自分の洞窟へ快く招き入れてくれた。
一歩足を踏み入れた洞窟の内部には、透き通るほど純白な鍾乳石の石筍が並んでいた。
夜明珠の光に照らされた中には、幽玄な輝きを放ち、天井から吊り下がるもの、水面から顔を出すもの、どれもが奇異で美しい。
清は穏やかに告げた。
「これから数日は貴賓をお迎えする準備で慌ただしくなり、十分なおもてなしができないかもしれませんが、ご容赦ください。島の風景を整え、飾り付けるのに少し時間がかかるのです」
伊高屋は恭しく手を合わせた。
「頭領夫人、滅相もございません! 住まいを貸していただけるだけで感謝に堪えません。お忙しいところお邪魔してしまい心苦しいのですが……一つだけお伺いしたい。我々はいつ頃、ここを離れて陸へ戻れるのでしょうか?」
清は微笑んで答えた。
「大丈夫ですよ、準備はもうすぐ終わります。お急ぎなのは分かります。頭領とも相談したのですが、次に花が咲いて竜巻を起こすのはずいぶん先になります」
「ただ、ちょうど良いことに南海から貴客が訪ねてこられます。その方々がお帰りになる際、一緒に連れて行っていただくというのはいかがでしょう?」
「おお! それはありがたい! 本当にありがとうございます!」
美しく慈愛に満ちた夫人を前に、伊高屋は感謝の言葉を繰り返すしかなかった。
島で目にする男の人魚は、しなやかで逞しい上半身の筋肉を露わにし、女たちは胸に美しい貝殻を纏っていた。
誰もが腰まで届く長い髪をなびかせ、下半身は優美で軽やかな魚の尾となって、水の中を自在に泳ぎ回っている。
洞窟の間には数艘の小舟が浮かべられていた。
これは南海から来る貴客のために用意したものだと清は教えてくれた。
一緒に竜巻で運ばれてきたカンナの花は、すでに小舟の船首や岩洞のあちこちに飾り付けられ、白い洞窟に紅い花が映えて、島全体が祝祭のような華やかさに包まれていた。
―――
島に到着して三日目。
ついに貴賓が姿を現した。
汕と清は、島に住む五十人余りの人魚たちを率いて出迎えた。
彼らが一斉に喉を震わせると、天上の楽園のような妙なる歌声が島中に響き渡った。
屏風山の山主・光仮羅は、数十年に一度、こうして人魚島を訪れる。
ここは南海の管轄外ではあったが、師弟の胡白にせがまれるたびに足を運んでいるのだ。
胡白は白衣を好むが、人魚が織り上げる「鮫紗――別名「龍紗」は、水に濡れず、雪のように白い、千金を出しても手に入らない至高の衣料である。
光仮羅はこれを目当てに、霊薬や美酒を持参して島を訪れるため、人魚たちからも非常に歓迎されていた。
客人を乗せた小舟が、汕の住む洞窟へと入ってきた。
広々とした鍾乳洞の大広間には、巨大な夜明珠がいくつも掲げられ、昼間のような明るさだった。
中央には楕円形の石のテーブルが置かれ、周囲には腰を下ろすための石の椅子が並んでいる。
人魚たちはある者は水面に浮かび、ある者は水面に突き出た鍾乳石に腰を下ろした。
石台の上にもカンナの花が咲き乱れ、大きな貝殻の皿には、薄く切られた蝦や蟹などの珍味、海の幸が整然と並べられていた。
貴客も妖なら、主人も妖。
汕と清がどれほど親切でも、伊高屋たちは内心、恐怖でいっぱいだった。
彼らは一艘の小舟に身を寄せ合い、清の背後に隠れるようにしていた。
小亀の伊甲は、客人が洞窟に入る前から主人の気配を察知していた。
彼は必死な様子で波有に頼み込み、彼女の足の指の間にある「水かき」の中に自分を隠してもらった。
そこであれば、自分の気配を完全に遮断できるのだ。
波有は驚いたが、伊甲の顔色の悪さを見て、何も聞かずに言われた通りにした。
(この人が、師弟の主人……。小亀をビクビクさせて追い回している、とんでもない大妖なんだわ。しっかり観察してやろうじゃないの!)
―――
小舟の船首には、二人の男が並んで立っていた。どちらも「世に二人とない公子」といった風情である。
深い緑のローブを纏った男は、物腰柔らかで、柔和な微笑みを浮かべている。
その隣、白い長袍の男は、珍しい黄金色の髪をなびかせていた。妖艶で、男とも女ともつかぬ美しさを放っている。
後ろには温泉街の于店主が連れていたような、二匹の小さな魚の妖が控えていた。
(これが屏風山の山主……? 南海の貴賓って、この人のことだったのね!)
伊高屋の背後に隠れていた伊念が、こっそりと師父の背中に指で書いた。
――『四人とも妖』。
彼は少し残念に思った。
実は密かに期待していたのだ。
茫々たる大海のどこかには得道した仙人が住む島があるという。南海の貴客が、もし仙人であったならどんなに良かったか。
伊念の「陰陽眼」がなければ、これほど仙気漂う男たちが妖族だとは思いもしなかっただろう。
だが、聞けば法力の強い大妖ほど、神仙のような姿をしているというではないか。
(そうか、そういうことか……!)
光仮羅は、後ろの小妖に命じて贈り物を取り出させた。
「汕頭領、清夫人。ご無沙汰しております。……おや、こちらにはいつから人間が住むようになったのですかな?」
彼は、伊高屋たちの気配を察して驚きを見せた。
小舟に寄り添って泳ぎながら案内していた汕は、石台の前で舟を止め、仮羅たち四人を席へと促した。
「光山主、ようこそお越しくださいました! 歓迎いたします」
「あなた様こそ、人魚島にとって最も尊きお客様です」
汕の眼差しには、熱烈な敬意と期待がこもっていた。
光仮羅は南海の大妖であり、陸の覇者、地位は汕たちより遥かに高く、小さな人魚島が彼の知遇を得ていることは、彼らにとって身に余る光栄だった。
汕は、清の背後にあった伊高屋たちの舟を前へと出させ、彼らを紹介した。
「こちらの人間の方々は、数日前にカンナの花畑の傍で休んでいたところ、偶然にも水竜巻に巻き込まれて当島へ参りました。もし光山主がよろしければ、南海へお帰りになる際、彼らも一緒に連れて行ってはいただけないでしょうか?」
仮羅は頷き、微笑んだ。
「頭領、お気遣いなく。承知いたしました。造作もないことです」
そう言って伊高屋たちを一瞥した時――おや、と彼は思った。
(……どこかで嗅いだことのある気配だ)
山主は改めて「神識」を使い、小舟の人間たちを調べた。
ごく普通の人間たちだ。
誰一人として面識はない。……奇妙だ。
隣にいた胡白が、彼の顔色が変わったのに気づいて尋ねた。
「師兄、どうかなさいましたか?」
光仮羅は胡白の興を削ぎたくなかったため、淡々と答えた。
「……何でもない」
ただ、彼は「懐かしい気配」の出所を、しっかりと記憶に刻み込んだ。
――それは、あの醜い少女から漂っていた。
三角眼に、ぺちゃんこの鼻。髪は薄く黄色い。
背は低く痩せっぽち。
隣に立つ、彼女の父親(と思わしき男)と、瓜二つの顔をした少女からである。
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