表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輝く君へ  作者: P4rn0s


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

泡のようで棘のようで飲み込んでしまいたい

彼女がいない放課後は、二度目だった。

初めてのときほどの驚きや不安はなかった。

人は不思議なもので、どんなことにも慣れてしまう。

けれど慣れれば慣れるほど、心のどこかでひっそりと痛みが増していく。


「また友達と帰ったのかな」

そう自分に言い聞かせながら、僕はひとり坂道を下った。

頭の中で彼女の声を探すけれど、耳に残っていた響きは次第に薄れていき、代わりに風の音ばかりが強くなった。

坂道を下る足取りは、いつもより重かった。


翌日。

昇降口には彼女がいた。

いつものように柱の影で待ち、僕を見つけて微笑む。

その光景に、胸の奥がじわりと温まる。


「昨日ね、急に誘われちゃってさ。ごめん」

「うん、気にしてないよ」


本当に、責める気持ちはなかった。

けれどその「気にしてないよ」という言葉は、僕が彼女にとっての「優先じゃない選択肢」になりつつあることを認めてしまう響きも含んでいた。


彼女はそんな僕の心を知らず、無邪気に今日の出来事を話し始める。

僕はいつものように相槌を打つ。

何も変わらないように見えて、その裏で少しずつ小さなひびが広がっていくのを感じていた。


三度目は、もっと自然にやってきた。

その日は彼女は友達と話し込んでいて、僕が昇降口に行ったときにはもう彼女の姿はなかった。

きっと気づかないうちに先に帰ったのだろう。


「……仕方ないよな」


そう呟きながら靴を履き替える。

教室や廊下で彼女が友達と一緒に笑っているのを見ていると、放課後に二人で帰る時間がどこか“余分”なものに思えてくる。

本当はその余分こそが、僕にとって一日のすべてを満たすものだったはずなのに。


次の日、彼女は何事もなかったように隣に立った。

僕の方を見て小さく手を振る。

その姿にホッとしながらも、昨日のひとりの帰り道が、胸のどこかに澱のように残っていた。


「ねえ、この前のテスト、どうだった?」

「……普通かな」

「普通って? 絶対良かったでしょ」


彼女は変わらない調子で話を広げてくれる。

その明るさに救われながらも、僕の心の奥では別の声が響いていた。


──昨日も、一昨日も。君は僕と一緒じゃなかった。


それを口にすることはできない。

彼女を責める権利なんてない。

僕たちはただ「偶然一緒に帰っている」だけの関係で、約束すらしていないのだから。


週の終わり。

また彼女はそこにいなかった。

今度は「ごめん」も「昨日ね」という言葉もなく、ただ時間が流れていくだけだった。


僕らの放課後は、いつからこんなに脆くなったんだろう。


交差点で別れるたびに感じていた痛みは、今では坂道を下る前から胸に広がるようになっていた。

彼女と一緒に歩くことは「特別」だったはずなのに、今では「もし一緒に帰れたら」という偶然に変わってしまった。


家に帰って机に向かうと、彼女と過ごした断片的な会話が頭の中で反響した。

「待った?」

「また明日」

「気にしてないよ」


一つひとつの言葉が、日ごとに薄れていく。

僕がしがみつこうとすればするほど、手のひらから砂が零れるように消えていく。


それでも僕は、翌日も昇降口に向かう。

そこに彼女がいるかどうかはわからない。

けれど確かめずにはいられなかった。


もしかしたら──今日こそ一緒に帰れるかもしれない。

そんな淡い希望に縋るように。


関係は壊れていない。

でも、揺らいでいる。

それを意識しているのは、きっと僕だけだ。


彼女はいつも通り笑い、僕の横で歩いてくれる。

それで十分幸せなはずなのに、その幸せが「永遠ではない」と気づいてしまった瞬間から、僕の胸には小さな棘が刺さり続けていた。


──この棘はきっと、これから少しずつ大きくなっていく。


そう直感した。

けれど、それを止める術を僕は持っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ