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第306話 帝都決戦 六

 激しさを増すスタンピード。


 帝都上空に空いた『異世界に通じる穴』から、異界の生物どもがあふれ出し続けている。


「どういう神威(かむい)量だよ、クソ!」


 黄金龍ゴルディオン・ドラゴンコックピット内であがる叫び声は、北条(ほうじょう)ジャーブラックのものだった。


 北条ジャーの中でも暴れん坊で知られる彼は、チームメイトの誰よりも先に、現状に対する不満を言語化する。

 それをいさめるのが、


観察(データ)によれば……一人で黄金龍を一週間は動かせる量の神威が、すでに発せられている」


 ブルー。

『今幻庵(げんあん)』──北条家中興の祖と言われている幻庵の生き写しとされる北条ジャー内の知恵者であり、その幻庵の実の息子にあたる。

 なお、父である幻庵とは八十歳ほど年齢が離れているという事実もあった。


「ねぇ、私たち、これでいいの!?」


 ピンクの呈した疑問は、現状、自分たちが行う行動についてだ。


 それは、空から次々溢れ出す異界の生物どもに、場当たり的に対応し続けるだけでいいのか──という意味も、もちろん、なくはないだろう。

 このままただ目の前のことに対応していては、氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)にブチ込まれた神威もいずれ尽きてじり貧だという懸念は確かにある。だから、このまま対処療法的に行動を続けても手詰まりではないかという意見は尤もだった。


 ……だが、そんなことより、もっと喫緊の問題として。


 北条ジャーの中で、こういう時、もっとも常識的な──一般市民視点の意見を言うホワイトが、舌足らずな声で叫ぶ。


「《《そこ》》で戦ってるんだけどお!?」


 ──《《そこ》》。


 超巨大人型・対巨人兵器、『黄金龍』。

 平時は小田原(おだわら)城として防衛拠点兼生活空間として置いてあった、城そのものでもある巨大兵器。


 そのコックピットの配置されている、ブリッジ内──


 ──そこで、戦いが起こっていた。


 氷邑(ひむら)はる及びイバラキ。

 それに対するは、黒い鎧と盾、黒い剣を装備した、暗殺者。


 黄金龍の撃墜を行うため、恐らくはスタンピードによって湧いている異界の生物に混じって《《城内》》に侵入した暗殺者と、はるたちが戦っていた。


 はるの長刀と、暗殺者の盾がぶつかり合い、火花が散る。

 

 火花が空に舞う──その激しい美しさに目を奪われている一瞬の間に、次々と、盾と刀が、剣と刀がぶつかり合い、火花が中空で咲き誇る。


 チッ、チッ、チッ、と両者の武器がぶつかるたびに鳴るのは、金属を擦る音にしかすぎない。

 激しい音はなかった。二人とも、力と力でぶつかるようなことはしない。精妙なる一刀流の術、それに対する一対の盾と剣を操る、クサナギ大陸ではあまり見ない《《武術》》。


 両者ともに高い出力を誇る剣士でありながら、両者ともにそれに甘えることはしない巧者でもある。


 巧者二人が戦う様子は静かで、しかし、見ているだけで息詰まる、重苦しい緊張感に包まれていた。


 ……その戦いが目と鼻の先で行われているわけである。


 北条ジャーとしては、黄金龍の操作に集中していないで、はるに加勢すべきかどうかを検討せねばならない状況だった。


 が。


「気を抜いている余裕も、手を抜いている余裕もない」


 北条ジャーのリーダーであるレッドが、モニターの向こうのスタンピードを真っ直ぐに見据えながら、声を発する。


 確かに、その言葉の通りだった。

 そもそも黄金龍は『五人の相性のいいパイロットが、神威の《《色》》を合わせることで、初めて起動する』──

 それは『五人分の神威が起動に必要』という、神威を馬鹿食いする兵器であるという意味でもあるのだが、それに加えて、相性のいい五人が各々の役割をこなし、息を合わせないと、まともに動けない、操作難易度の高い兵器、というものでもある。


 だからこそ『巨人を絶対に倒す』という強い意思を持ち、さらに強い神威を持った北条ジャー五人の心が合わさらなければ動かない。テスト起動さえできない、そういうものだ。


 五人は歴代随一と言えるレベルで黄金龍の操作に慣れた北条ジャー(北条ジャーは襲名制)ではある。

 だがしかし、それでも、『操作中によそ見をしているほどの余裕はない』という厳然たる事実はどうしようもなかった。


 それに……


「加勢できる隙もない」


 はると暗殺者の戦い……

 《《食い込めない》》。


 北条ジャーは三次元機動で巨人を倒すことに特化した剣士集団だ。

 対人の技術は他の武家に比べると、一歩か二歩劣ると言わざるを得ない。


 さらに言えば、氷邑はると暗殺者との戦い、どう見ても最上位級。

 そこに食い込む白兵戦闘能力が、悲しいかな、北条ジャーにはなかった。


 ……と、理由を並べれば、『暇がない』『隙がない』という、現実的なものを挙げられる状況ではあるが。

 北条ジャーレッドは、実際的ではない、一番の理由を最後に挙げた。


「信じよう」


 暗殺者とはるとの戦いは、はるが負ければ、黄金龍の操作に集中している北条ジャーが皆殺しにされるだろう。

 だが、それでも、信じる。

 それがレッドの決断だった。


 仲間たちは一瞬の沈黙のあと、少しだけ笑い──


「少しでも地上に降りる『異界の連中』を減らす! だな!」


分析(データ)によれば、今のペースで撃退を続けることで、地上の銀雪(ぎんせつ)殿が討ち漏らしを問題なくさばけるはずだ」


「……わかった! 信じる!」


「こうなったらもうやるしかないね!」


 ──黄金龍の操作に、集中する。


 なめらかに動く黄金龍。

 上空の穴から落ちて来る魔界の巨人を撃墜し、光の筋を残して飛び回り、次々と異界の生物どもを討ち滅ぼしていく。


 コックピットの内部には、黄金龍の軌道に合わせて(負荷)がかかった。


 上から下へ、下から上へ、右から左へ、左から右へ──

 右から上、上から左、上、上、下、下、左、右、左、右──


 次々と変化する重力の方向の中、氷邑はると暗殺者との戦いは激しさを増していく。

 ブリッジの内部、壁や天井を足場にしながら飛び回る、その戦闘。一歩でも後れをとれば、北条ジャーが討ち獲られかねない戦い。氷邑はるにとって、初めての『守る戦い』……


 その中に、イバラキの噛める隙間はなく、また、《《イバラキの姿もない》》。


 暗殺者対処のためにここに残っていたイバラキが、今、どこで何をしているのか──


 ──彼女の姿は、今。


 黄金龍内部。平時は小田原城として使用するその、ブリッジ以外の区画にあった。

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