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第303話 帝都決戦 三

 墜落していく黄金龍ゴルディオン・ドラゴンの内部──


分析(データ)によれば、このままだと氷邑(ひむら)家領都に墜落するぞ!」


 超・巨大質量の金属の塊である黄金龍が、人のいる場所に墜ちる。

 まぎれもない大災害である。


 墨俣(すのまた)一夜砲の直撃を受けた黄金龍は、未だ完全には溶解していなかった。

 だが、航行に必要な機能の七割を損傷し、今もドロドロに溶けた外部の熱がコックピットにまで伝わってきており、けたたましいアラートと、危険を知らせる赤い光の明滅の中にあった。


 北条(ほうじょう)家五人衆は手元のレバーやコンソールを操作して、どうにか落下地点をもう少し南へ移せないか、試している。


 氷邑家領都の南には、氷邑湾が存在する。


 超・高熱を浴びて融解しながら地上に墜ちるより、氷邑湾に墜ちた方がまだ被害は少なかろうという判断だが……


「……計算結果、出た。氷邑湾に墜落した場合、大規模な水蒸気爆発が起こる!」


 超・高熱の物体を水に落として、一気に水が沸騰した場合、発生した圧力で爆発が起こる。

 この爆発は衝撃はもちろんのこと、一瞬で熱された蒸気をまき散らしながら、大規模な被害を誘発させることだろう。


「じゃあ地上に墜ちた方がマシかよ!?」

「いや、それもそれでまずい。どうにか、別の落下地点を──」

「そもそもコントロールができない。俺たちは落下地点を選べる状況にない!」

「手足がギリ動くだろ! 空力でどうにか位置調整を……」

「だからその調整先が……」


 コックピットで北条ジャーがせわしなく操作と計算、そして議論を繰り返している。

 どうにか落下までの時間を延ばし、だんだんと南へ軌道を修正することに成功はしているものの、このままでは結局、氷邑湾か氷邑家領都に墜ちることになるだろう。


 しかも──


「頭上! 多数の妖魔反応あり! 映像出します!」


 ──このタイミングで、異世界勇者・(さくら)による、『同時多発スタンピード』が引き起こされた。


 状況は人間の処理能力をたやすく凌駕する。

 最終決戦──そう呼ぶしかないものが、始まってしまっていた。


 氷邑銀雪(ぎんせつ)は、コックピットのあるブリッジ入口付近で腕を組んで、状況を見守っていた。

 ……だが、動き出す。


各々方(おのおのがた)、よろしければ、私が外から押そう」


 一瞬、何を言われたのかわからず、黄金龍のパイロット──北条ジャーたちの騒ぎが止まる。


 外から押そう。

 空中。巨大質量の小田原城ロボを、外から押す。たった一人が。


 だが、北条ジャーは知っている。

 この氷邑銀雪が、九十九州きゅうじゅうきゅうしゅうでどのような戦いぶりを見せたか。

 その力──最上位の『剣士』の膂力を、知っている。


 だからきっと、なんとか押せてしまうだろう、が……


「とはいっても、どこへ」


 北条ジャーのリーダーが問いかけると、氷邑銀雪は静かに答える。


「領都屋敷、私の家の上に墜落させる」

「家人がいらっしゃるのでは」

「こういった被害の時、真っ先に痛手を被るべきは、領主とその一族であるべきだ。……残念ながら、この危機に際して、通信のようなことはできないらしいが──」アシュリーに試させているが、つながらないようだ。「──我らの家の者であれば、領民よりも、危機への対処が上手い。生き残る確率は、他のどの場所に堕とすよりも、高いだろう」


 氷邑家領都領主屋敷には、領主の家族と家臣団がいる。

 家臣団、すなわち武士である。武士であれば、民よりも危機への感度が高く、危機への対処法も心得ている──


「しかしそれは、『願い』にしかすぎない。現在起こっているのはどうにも、『未曾有(みぞう)の危機』です」


 ──平時、あるいは、ただの戦時であれば、鍛え上げた武士の集団は確かに対処してみせるだろう。


 しかし今は、未曽有の危機だ。武士団はあらゆる状況を想定し訓練を積むものの、『スタンピードが帝都上空で同時発生し、どろどろに融解した巨大な金属の塊が降って来る』という状況はさすがに想定の外であろう。


 また、銀雪らは知らないが、現在、現場で指揮が可能なヨイチは、帝都の蒸気塔あたりにいる。

 これは帝からの協力要請に従い、蒸気塔から墨俣一夜砲への対処を行っていたためだが、こうまで切迫した状況では、それが仇となっている。銀雪の妻のトモリは女傑と呼ぶべき女性ではあるものの、さすがに実戦経験がなく、この『一つ誤れば被害が雪だるま式に膨らむ状況で、短い決断で正解を引き続ける』というところまではできないものと思われた。


 つまり銀雪の決断は実質的に、トモリや家の者を犠牲にする可能性が高い、自己犠牲的なものなのである。


 が、領民を多く失うことと天秤にかければ、それがたとえ『後々、氷邑家武士団が存在しないことにより苦戦する展開』があったとしても、領民を選ばねばならないのが、領主であった。……少なくとも、帝内地域の領主は、そういった決断をすることを美徳としている。


「わかっているからこそ、提案している。……議論の暇はもうないだろう。私は行く。みなさんも、脱出の準備を──」


 その時。


 ブリッジの扉が開き、一人の少女が入って来る。


 その少女──


 ツナギのような格好をして、何かよくわからない、どこから拾ってきたかもわからないパーツや工具をじゃらじゃらと体中に身に着けた、天狗(エルフ)


 領都への通信にあたらせていたアシュリーである。


 彼女は金色のサイドテールを揺らしながら、銀雪と北条ジャーの間に立ち、言う。


「いじっていいですか!」


 全員、何を言われているかわからず、首をかしげた。

 アシュリーは慌てた様子で「あーだからえーと……」と言葉を探し、


「黄金龍、いじっていいですか」

「……」

「落下までに修理します」


 ……未だぎりぎり『落下速度を落とす』程度のことはできているものの、黄金龍は絶賛落下中、しかも、その表面は多少は冷えてきたとはいえ、墨俣一夜砲によって溶解し、高熱を発している。

 そもそもが『城』なのだ。さらに言えば、千年前の城であり、宇宙人の技術を使った宇宙出城である。

 おまけに超巨大である。整備だけでも大勢が数週間かけて行わなければならないだろうし、修理とくればもう、予備のパーツが存在するかも怪しい。


 それを──落下までに修理?


 北条ジャーは何を言われているかわからず、固まっていた。


 反応をしたのは、銀雪だ。


「よかろう。私が責任を持つ。行きなさい」


「はい!」


 アシュリーは走っていく。

 ブリッジの扉を出たところで、イバラキの『片っ端から集めたぞ』という声がする──どうにもアシュリー今まで、通信を試しつつ、黄金龍の中からパーツや工具、その代わりになるものを探していたようだった。


 探していた、ようだったが──


 ──修理の提案に来た、ということは。


 彼女の中で見込みが立ったということに、他ならない。


「…………彼女は、賭けるに足りますか」


 北条ジャーのリーダーが、銀雪に問いかける。

 銀雪は少し悩むように顎に指を当ててから、答えた。


「クサナギ大陸史を紐解いても、彼女以上の技師を、私は知らない。とはいえ──」


 銀雪は笑う。


「──黄金龍を本当に落下中に修理してしまうなら、私が思っていた以上の技師だった、ということにはなるがね。さて……」


 その場で腰を下ろし、


「アシュリーに任せて少し、休んでおこう。各々方も、働いていただくことになるので、つかの間の休息をとるといい」


 あまりにも落ち着いたその様子に、北条ジャーが戸惑う。


 だが、銀雪がもはや動く気もないのを見やると、北条ジャーはうなずきあって、各々、つかの間の休息を取り始めた。

 ……確かに、今、このタイミングは、『始まり』にしか、過ぎない。


 クサナギ大陸の危機の始まりで……


 この『始まり』を制することができなければ、大陸全土が危機に陥る。

 だからこそ、休むこともまた、戦いだった。

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