第17話 「ついに始まる魔法レッスン」
「……ただいま……って、何もしてないのに疲れた……」
ロビーのソファにどっかり腰を下ろすと、出迎えてくれた使用人の一人が「お嬢様、お帰りなさいませ。何かありましたか? 少しご機嫌が……」と心配そうにのぞき込む。
リリアンも苦笑いしながら私の隣に立ち、「ええ、ちょっと『口の悪い』人に遭遇しちゃって……」とぼやき混じりに報告した。
すぐに母マチルダが「あら、エマどうしたの?」とスリッパの音を立てながらやってくる。ついさっきまで書類を読んでいたらしいが、急ぎ駆け付けた様子だ。
「実は……海辺で火の公爵家の次男、エデン様に会って、まぁ、いろいろ言われたの……」
母は「まぁ、火の……」と口を噤んで軽く息をつく。どうやら彼の評判はそれなりに聞いていたらしい。 (そりゃそうだ、火の公爵家はこの辺り一帯を治めているんだから、問題児かどうか噂ぐらいあるかも……)
「一応、危険なところはなかったのね?」 「危険なことは…なかったですけど…」
思い出すだけで頭に血が昇りそうになる。エデンのあの赤い瞳と失礼極まりない態度。でも、ここでカッとなって取り乱すわけにはいかない。精神年齢だけは大人である私は言葉を飲み込み、母の顔を正面から見つめる。
「大丈夫です!エデン様ともすぐ仲良くなって見せます!」
母は少し安堵したように、私の頭を撫でて笑った。
「何かあればすぐ言いなさい……少なくとも、火の公爵家との ‘ご近所トラブル’ は避けたいものだし」
私はマチルダの温かい手のひらに微かにほっとしつつ、しかし先ほどのエデンを思い返して胃のあたりがずしんと重くなる。 (あのクソガキ……絶対またどこかで会うよね。口の悪さと性格の悪さ、なんとかならないの?)
もしこれが前世だったら、クソガキに説教の一つでもしてやるのに…。でもここは貴族社会。下手なことを言えば政治的な問題にもなり得るから油断はできない。 (まいったなぁ……ブレイディアみたいに”良い子”だったらまだ会話しやすいのに)
そんな思いを抱えながら、私はソファの背もたれにズルッと寄りかかった。 リリアンが「……今日はもう休まれますか? 夕食はキッチンへ伝えておきますね」と気遣ってくれる。
「うん……悪いけど、ちょっと休むわ。ああ、なんでこんなに疲れてるんだろ……」
心から出た本音に、母もリリアンも「まぁ……」と苦笑いを漏らす。私自身、こんな形で最初の “別荘ライフ” が台無しになるなんて想定外すぎて、がっくりだ。
(次会ったらあの生意気な口調だけでも直させてやる…)
そんな妙な決意を胸に、私はとりあえず部屋へ引きこもることにした。波打ち際で感じたあの青空や潮の香りなんて、全部どこかへ吹き飛んでしまったような気分。
次の日、朝の陽光が窓辺を照らし、海辺の別荘に清々しい空気が満ちていた。 私はベッドから起き上がり、顔を洗って簡単な身支度を済ませると、侍女のリリアンが慌てた様子で部屋にやってきた。 「お嬢様、おはようございます。ついに魔法の先生がいらっしゃるようで、奥様がお話があるとお呼びになっております!」 「本当!?急いで行くね!」
ここに来てからまだ数日だが、“三重魔力”を持つ私の指導や世間への対応など、母がまとめてくれるのだろうか。
ダイニングで軽い朝食を摂ったあと、私はリビングへ移動した。そこには母マチルダが書類を並べてソファに座っている。優雅なローブ姿ながら、仕事のできる女性ならではのきりりとした空気感を漂わせていた。 「エマ、おはよう。座ってちょうだい」 母の柔らかな声に促され、私は向かいの椅子へ腰を下ろす。リリアンも傍らに控え、控えめに様子を伺っている。
「……この別荘では、およそ一ヶ月ほど過ごす予定よ。あなたの魔力が三種――風・闇・光――という非常に珍しいものだから、王都の魔法協会や王宮でも、どう扱うべきか話し合いが進められているわ。」
母の言葉に、私は小さく頷く。ある意味“保護”されている立場なんだと思うと複雑だが、この一ヶ月は自分の魔力をコントロールするのに集中できるチャンスでもある。
マチルダは軽く書類に目を通してから、まっすぐ私を見つめた。 「エマ、あなた、書斎の本を読んで勝手に風魔法を使っていたでしょう?危険だというのに….まぁ、いいわ…まずはこの世界の魔法体系を、ざっと説明しておきましょうか」
「なんで、知っ……はい……! お願いします、お母様」
こそこそと魔法を使っていたことがバレていた私は、冷や汗をかきながらも頷いた。
母はひとつ息をつき、声の調子を少し改まったものに変えた。 「ライタンド王国における魔法は、大きく二種類に分けられるわ。ひとつは ‘基礎魔力’――火・水・地・風。もうひとつは ‘特質魔力’――光と闇よ。……あなたはその両方を併せ持っているわね」 私は自分の手のひらを見つめ、こくりと頷く。風・闇・光……三つもあるなんて、今でも現実感がない。 「基礎魔力は誰でも扱いやすい傾向があるけれど、上級魔法になると相当な修練が必要。火と水、地と風など ‘相反する属性’ を同時に持つ人も希少だけれど、あなたは ‘風 + 光 + 闇’……正直、国内でも報告例はないわ」 母はそこで書類をぱらりと捲って見せた。どうやら協会から送られた資料らしい。
「特質魔力の光と闇は、とても稀少かつ危険――特に闇の魔力は破壊力が強く、闇の魔力保持者の暴走事件はとても大きな被害を生んできたわ。ただ……‘闇’ が暴走することは滅多にないとも記録されている。感情が極端に昂らない限り、日常で勝手に溢れることはないでしょう。だから、いまはそこまで怖がらなくても大丈夫よ」
ほっと息をついて、「よかった……」と胸を撫で下ろす。 母は続ける。 「光魔力についても、王族や聖女しか本格的に教えられる人がいないわ。だから、今回あなたを教えてくれるルーア先生は、 ‘風’ を中心に指導してくれることになる。光と闇は、王都で専門家が見つかってからね」 「……はい。分かりました、お母様。まずは風……ですね」
昨日はエデン相手に失敗を見られたし、海で暴風を起こしてしまった。しっかりと教わって、人並みに魔法を使えるようになりたい。私は軽く拳を握り、やる気をみなぎらせた。 「ここで一か月過ごす……ってことは、そのあとまた中央都市へ戻るんですよね?」 「そうね。その頃にはあなたへの ‘正式な対処方法’ が決まるはず。まあ、私としては ‘特別扱い’ しすぎないでほしいんだけど……会議の行方次第かな。だから今は、ここで穏やかに過ごしなさい」
そう言って母は微笑む。私も「わかりました。精一杯がんばります!」と気合を込めて笑い返す。 「うん。……では、ルーアがもうすぐ来るわ。あの子は私の部下みたいなものだし、優秀なだから安心して。……闇や光こそ教えられないけれど、風に関しては信用できるはずよ」
そして母との話を終え、私はリビングで待機していると、ほどなくして玄関から軽やかな足音とにぎやかな声が届いた。 「あ……いらしたみたいですね。……行きましょう、お嬢様」 リリアンに促され、私が玄関へ向かうと、そこには淡い茶髪をゆるく束ねたローブ姿の女性――ルーア・バーリントが立っていた。小柄だが凛々しい雰囲気があり、20代前半くらいだろうか。母マチルダと並んでいると、先輩後輩のような感じに見える。
「はじめまして! 魔法協会から参りました、ルーア・バーリントです。フローリアス家の方にお会いできるなんて光栄です……!」 パッと顔を上げた彼女の瞳は明るく、意志の強さを感じさせた。失礼のない程度にぺこりと頭を下げ、そのまま私に微笑む。 「エマお嬢様、どうぞよろしくお願いしますね」 「ええ、こちらこそ……どうぞよろしくお願いします、ルーア先生」
こうして挨拶を済ませたあと、母マチルダがルーアに向かって簡単に私の現状を説明した。 「……闇と光については、あなたじゃ荷が重いでしょう? 無理する必要はないわ。まずは ‘風’ をしっかり習得させてあげてちょうだい」 「はい、心得ております。全力でサポートさせていただきます!」
ルーアは力強く応じ、よほど魔法が好きなのか瞳を輝かせている。 母は「じゃあ、私は執務があるから」と一足先に部屋を出て行き、私とルーア、そして侍女のリリアンだけが残った。すぐにルーアが声を弾ませるように言う。
「ではまずは魔法について説明させていただきます!」
ルーア先生が取り出したのは、折り畳み式の小さな黒板とチョーク。そして彼女がローブの中からゴソゴソとノートを取り出す様子は、なんとも楽しげだった。
「本当は、魔法学院や騎士団の新人講義で使う大きな黒板がいいんですけど、ここじゃ場所が限られてますからね……ふふ、これで十分ですよ!」
そう言うと、ぱちんと黒板をテーブルに立てかけ、チョークでさらさらと見出しを書く。「ライタンド王国の魔法体系」ときちんと文字が並んでいく光景に、私は少し胸が躍る。前世でも“ホワイトボードを使った会議”を見慣れていたせいか、こういう講義スタイルに懐かしさを覚えてしまう。
ちなみに、この国の言葉や文字は前世で使っていた言語と全く違うが、エマの記憶を持っているおかげか、理解することができている。二十数年の記憶のある状態で新しく言語を覚えるのは流石にキツすぎるので、幸いであった。
「まず、ライタンド王国ってどんな国かご存じですか? エマお嬢様は、フローリアス公爵家の方ですし、一般知識はおありでしょうが……あえて整理してみましょう」
ルーア先生は黒板に「王都ゲイバリンド」「四大公爵家」と書き込みながら説明を続ける。
「この国は軍事国家としても世界トップクラスの規模を誇り、王都ゲイバリンドは城や神殿、魔法協会、騎士団が集まる大都市で……」
私も聞きながら小さく頷く。
「それと、ライタンド王国は ‘種族差別の禁止’ を徹底しているため、人間だけでなくエルフやドワーフ、獣人、竜人など、いろんな種族がいますが、70%は人間種となります。」
ルーア先生がワクワクした様子で言うと、リリアンも「私が子どもの頃、獣人の市場へ行ったときに見た珍しい品物が忘れられません!」と楽しそうに相づちを打つ。
「そうなんだ! エルフやドワーフ......私も話してみたい……!」
私がそう呟くと、先生は笑顔で続ける。
「そうですね。お嬢様にはそのうち、王都の大祭などで ‘多種族交流’ を体験していただく機会があるかもしれません。……さて話を戻します、その王国を支えているのが ‘四大公爵家’ ですよね」
ここで先生は黒板に4つの家名を書き、さらりと特徴をまとめる。フローリアス(風)、ストロンガウト(火)、ウォータブル(水)、サンディムル(地)。
「それぞれ大聖霊に守護されており、風ならゲイル様、火ならフレア様、水ならアクア様、地ならガイア様ですね。フローリアス公爵家は風――ですので、お嬢様にも風の守護があり魔力が発動したというわけです!」
次にルーア先生は本題の「魔法体系」へと話題を進める。
「さあ、ここからが本格的な内容です。ライタンド王国の魔法は大きく ‘基礎魔力(火、水、地、風)’ と ‘特質魔力(光、闇)’ に分かれていますよね」
「はい。私……その、三つも属性を持っているので。風、闇、光……」
口にするだけでまだ落ち着かない気分になるが、先生は淡々と頷いて「すごいことです」と言葉を紡ぐ。
「基礎魔力は、日常生活や戦闘で幅広く利用されています。火なら火加減の調整、水なら飲料管理や回復、地なら建造・防御、風なら情報伝達や素早い移動……などなど。それぞれの属性は全て、初級魔法、中級魔法、上級魔法と幅広くレベル分けがされており、属性によってできることが変わってきます」
そう言ってチョークで “火×水”、“地×風” などの相性図を書く。その横に “特質魔力” として 光・闇 の単語が浮かぶ。
「光は王族や聖女が扱う ‘聖なる力’。回復や浄化、結界など、国全体を守護する儀式に欠かせない非常に尊い魔力です。それに対して闇は、呪術や破壊力を秘めるため危険視されがちですね……ただ、どちらも専門家がほとんどいないのが現状で、エマお嬢様がこの先学ぶためには、王族や聖女、あるいは魔法教会の学究機関を頼らなければならないでしょう」
私は思わず苦笑を浮かべる。確かに、ブレイディアや聖女リアあたりが心強い存在になるのかもしれないが、そんなに簡単にお願いできるものなのか……。
「……でも、 ‘闇’ の暴走が怖いかなって思ってたんですけど、母から ‘普通に生活する分には問題ない’ って聞きました」
先生は大きく頷く。
「ええ、心配ないと思いますよ。エマお嬢様の場合、まだ深いレベルで ‘闇’ を使い始めていませんから、余程のことがない限り勝手に出てきたりしないはずです」
なんだかほっとしたような、複雑なような気持ちで、「分かりました……」と返事をする。
すると、先生はさらに項目を増やして書き込んでいく。「魔法ランク」、「詠唱形式」、「儀式魔法」など見出しが増えていき、メモが追いつかなくなるほどだ。
「次は ‘魔法ランク’ ですね。初級、中級、上級、そして特異魔法。それぞれ威力や消費魔力が違います。たとえば ‘初級魔法’ は日常生活や簡単な戦闘サポートで多用されます。」
「使用人のみんなが使っている魔法ですね!」
「そうです。中級以上になると、威力や範囲がぐんと広がります。たとえば ‘中級の風魔法’ は遠距離から相手を吹き飛ばしたり、嵐を一時的に起こすものもあります。上級ともなると……広範囲の天候操作や空間転移のような特異魔法に近い技術になっていくんですよ。これは相当な修練が必要ですけどね」
私は想像して目を丸くする。嵐を起こすなんて、まさにファンタジーの世界だ。
「詠唱にも ‘長文詠唱’ ‘短文詠唱’ ‘高速詠唱’ ‘無詠唱’ など色々あります。戦場では ‘無詠唱’ や ‘高速詠唱’ が重宝されますが、実際それができるのはほんの一握りの天才……。お嬢様も、まずは普通の短い呪文を使う練習からスタートですね」
なるほど、と頷く。
「魔法に関する基礎的な知識はこんなものですね!では早速、初級魔法から使ってみましょうか!」
そう言って立ち上がったエマたちは、別荘内にある広いフロアのような場所へ向かった。
そしてルーアは手を軽く合わせて、「ではまず、風魔法の基礎の基礎から説明しますね」と説明を始めた。
「 ‘風’ の魔法は、初級なら生活魔法が多いんです。例えば【エアドライ】とか【ブリーズクリーン】。攻撃魔法なら【エアブロー】や【ブリーズカッター】が有名ですね」
私がこくこくと頷くと、ルーアは教本らしき小冊子を鞄から取り出し、見開きページを示す。そこには初級魔法の名称や短めの解説が載っているようだ。 「日常で使いやすいのは ‘生活系魔法’ ですが、魔力はちゃんとコントロールしないと暴発したり失敗したりします。……でも大丈夫ですよ。最初は誰でも失敗しますから」 彼女の朗らかな口調に、私も笑顔がこぼれる。昨日は失敗だらけだったが、ちゃんと先生がついてくれれば安心だ。
「それじゃあ……まず初級中の初級である【ブリーズクリーン】あたりから試してみましょうか。部屋のほこりを集める生活魔法ですね。お嬢様なら、多分すぐできると思います」
そう言ってにこりと笑うルーア。一方、私の背後でリリアンが「お嬢様ファイトです!」とこっそり小声でエールを送ってくれた。
そして始まった風魔法の練習。 床に散りごみをわざと落として、ルーアが模範動作を見せながら、「風の魔力をゆっくり呼び覚まし、空気をコントロールするイメージを……」と優しく指導してくれる。私はその助言に従って両手をかざし、脳裏で風の流れを思い描く。
「……えっと、 ‘ブリーズクリーン’ …!」
軽く詠唱を唱えるが、1回目は失敗。まるで風が起こらず静かに終わってしまった。ルーア先生は「ふふ、焦らず大丈夫ですよ」と微笑む。
2回目は魔力を意識的に多めに込めてみると、今度は突発的な強風が吹いて自分の髪がばさばさ乱れたうえ、近くの散りごみを舞い上げすぎてしまう。 「きゃあっ! お、お嬢様、大丈夫ですか……!」 リリアンが慌ててかけ寄り、私の髪を押さえる。半泣きになりながら「うう……すみません。加減がわからなくて……」と謝罪。ルーアは苦笑しつつ、「誰でも通る道です!」と励ましてくれた。
(……こ、このままじゃ昨日の二の舞いよ。やっぱり難しいなあ……)
けれど諦めるわけにはいかない。私は“前世の社畜経験”で覚えた ‘仕事を段取り良く進める感覚’ を思い出し、どうにか意識して風で散りごみを動かすイメージを再構築する。 三度目、短く息を吐いてから詠唱する。
「……ブリーズクリーン!」
すると今度は、そよっと優しい風が巻き起こり、地面に散らばっていたゴミや埃がまとまるようにゆっくりと移動し始めた。突風も起きず、かといってしょぼい失敗でもない。ちょうど良い力加減で片隅に散りゴミと埃が寄せ集められる。
「あ……やった! 成功……ですよね?」
まだ少しぎこちないが、ちゃんと ‘部屋掃除のような効果’ が出ている! 私は思わず笑顔になり、リリアンが両手を叩いて「お、お嬢様、すごい!」とはしゃいでくれた。
「お見事です、お嬢様! 三回目でコツを掴むなんて、さすがですね……!」 ルーアも手を打ち合わせて大喜びだ。目を輝かせて私の肩に手を添え、「ああ、いいですね! やはり ‘マチルダ様のご息女’ なだけあって魔力の吸収が早い。これは私も教え甲斐があります!」と大興奮。
私も嬉しくなって、「本当ですか? もっと難しいのも練習したいかも……」と欲が出てしまう。 でもルーアは笑いながら「焦りは禁物ですよ。まずは初級魔法をしっかり自分のものにしてから、もう少し上位へ挑戦しましょう」と釘を刺す。 (なるほど……確かに興奮して失敗したら、またエデンの言うとおり ‘下手くそ’ なんて言われるだけ……)
そんな私の心中を知らず、リリアンは「すごいです、お嬢様! 一瞬で覚えられるなんて!」と拍手してはしゃぐ。一方でルーアは魔法大好きオーラ全開で、「さあ、次は ‘エアドライ’ もやってみます? 洗濯物を乾かす技ですけど、実は応用が効くんですよ」と楽しげに話してくる。 私は思わず笑顔になり、「はい、教えてください!」と答える。
こうして本格的な風魔法レッスンがスタートし、さっそく初級中の初級をマスターしてしまった私――。 (ふふ、すぐにでも ‘攻撃魔法’ に行きたい気持ちもあるけど、まずは生活魔法でしっかりコントロールを身につけよう。……いつか絶対にエデンにも負けないくらい上手くなるんだから!)
そんな意気込みを燃やしながら、私はルーアの指導に耳を傾けていく。遠く、波の音が心地よく響き、別荘の一ヶ月が充実しそうな予感で胸が弾む。 闇と光はまだ手の届かない力。でも、焦らなくてもいい――感情が乱れなければ暴走しないらしいし、特別扱いされる前に、自分から“風”で実力をつけてやる。 (そうだ、ブレイディアからまた手紙が来ているんだった……あとで読もう。どんな心配の言葉が書いてあるのかな)
海辺の爽やかな風を感じながら、私は少しだけ昨日のイライラを忘れ、夢中で魔法の世界を堪能する。母マチルダが言うとおり、“光と闇”は王都へ戻ったとき改めて学べばいい。今はこの青い空の下で、風を味方にする楽しみを全身で味わおう――。 そう思っただけで、頬が自然とほころんだのだった。




