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第70話 『対極』

大変お待たせ致しました、第70話をお送りいたします。


 


 リク達Z組が大討伐演習未曾有の快進撃を繰り広げているその頃…


 本隊と位置付けられた3年生及び1年のA組の中央部隊は順調に行軍を続け、初の戦闘を迎えたのは何と昼を回ってからの事だった。


 アレイ達と同様、A組の生徒達にとっても初めての実戦となるその相手とは…



「あれは……ゴブル、だな。正確には魔物ではないらしいが、瘴気の影響を受け狂暴化しているのは間違いなさそう…だな」



 聖堂に属する騎士…一般に『聖騎士』と呼ばれる者だけが持つ事を許される銀色の槍を馬上で一振るいし、カインが目標の名を呟く。


 史上最年少で王都騎士団における一般騎士に匹敵する『聖騎士』の位に任ぜられた彼もこれが初陣である。


 緊張から頬には一筋汗が流れ、努めて冷静に聖堂騎士団で教わって来た事を実践しようとしているのだが、どうしても肩に力が入ってしまう。


 そのカインが見据える先に現れた集団……緑色の肌に粗末な衣服を纏い、棍棒や質素な槍で武装した小柄な…人型の生物だ。


 ゴブルとはそもそも妖精族の一員であり、見た目は兎も角本来はれっきとした人類の一員である。


 但し、瘴気の影響を非常に受けやすい性質が災いして、魔物が多く存在する様な場所においては理性を失い、しばしば他の種族に襲い掛かる事が起き…


 その結果、彼らとしても不本意な事なのだが他の種族から敵視され、魔物と同列に扱われる事が殆どという悲しい種族となってしまったのだ。


 明らかに正気を失い、闇雲に武器を振り回して突撃してくるゴブル達を3年生達は慣れた動きで回避し、後方に陣取る1年生の方へと誘導する。


 既に3度目の演習となる先輩達は実戦を何度もこなしている。ゴブルは自分達が相手にするよりも、新入生に戦わせて『慣れさせる』方が良いとの判断だろう。


 その動きを見たA組の面々は一斉に下馬し、戦闘態勢を整える。銀の槍をしっかりと両手で構えるカインを先頭に、同じく銀の輝きを放つ板金鎧を身に着けたレイモンドがすぐ後ろに付ける。


 更に戦士系を目指しているのだろう長剣や槍を手にした男子生徒が3名、レイモンドの両脇と後方を固め、その後ろにリナとレナをはじめとする女子生徒7名が杖や弓矢を手に陣形を構築していく。


 そつのない動きで素早く展開される陣形に3年生から感心する声が上がるが、A組副代表のレイモンドはそんな上級生の態度には見向きもせず、仲間達に手早く作戦を伝える。



「……脅威度Dランクだな。初陣には丁度良い相手だろうが、油断するな。まず支援部隊で一撃を当てた後にカインを先頭に突撃する。異論は無いな?」


「無論だ。リナ、レナ。そちらの部隊の指揮を任せる。景気よく行ってくれ」


「では、最初に魔法を。次に姉さん達が弓で射掛けた後にカイン様とレイモンド様を中心にトドメをお願いします」


「皆聞いた通りだよ!レナ達が魔法を放った直後に行くからね?」



 A組はたまたまだが、男子よりも女子が多く…更には女子全員が後衛向きの【スキル】保有者ばかりという構成だった。内訳は弓使い4人に魔法使い3人という感じだ。


 それ故に、男子生徒は前衛に立つ事になるのだが…レイモンドは本来直接戦闘向きでは無いらしく、後衛担当のレナと同じく参謀としての役割こそが適任のようなのだが…


 それでは前衛が4人に後衛が8人という非常にバランスを欠いた編成となる為、止むを得ず前衛補助として陣を構築する事を選んだのだった。


 その上で彼が立てた作戦は…正に教本通り、魔法と弓矢という遠距離攻撃で相手の出鼻を挫き、そこへ前衛が一気に斬り込むというシンプル且つ安定した戦法である。


 初めての実戦だからこそ、基本に忠実に。そして全力で当たる……奇しくもZ組とは真逆の心構えでカイン達は作戦を決行に移した。


 最初に火属性の魔法【炎の槍(フレイムランス)】を複数本ずつ、しっかりと魔力(マナ)を練り上げたレナ達3人が放つ。


 恐らくDランクのゴブル相手ならば【魔法の矢(マナ・ミサイル)】の一斉射でも十分な打撃を与えられるだろう。しかし、初陣の気負いかレナは二段以上高位の魔法を使うよう仲間に指示したのだ。


 そこへ今度はリナ達弓部隊4人が雨霰と矢を射掛けて行く。これまた弾幕かと見紛うばかりの本数を放ったわけで…


 結果、カイン達前衛が突撃した時には既にゴブルの一団は殆ど残っておらず、残敵掃討の様な形であっさりと決着が着いてしまった。


 正直肩透かしとさえ感じる初陣の内容に戸惑いの表情を浮かべ、カインはすぐ後ろで警戒を続けるレイモンドへと声を掛ける。



「……初戦としてはこんなもの、という事だろうか?正直、力が入りすぎて加減が出来ていなかったな。どう思う、レイ?」


「概ね同感だ。最低ランクではないが、Dランク相当のゴブル如きに苦戦するよりは良いだろう。ただ…あの愚物共の様に慢心はしないようにな」



 カインの問いにレイモンドは同意しつつ、視線はその更に前方を向き…侮蔑の言葉を口にする。何故ならば…



「今年の新入生は優秀だな。これなら過去2回よりずっと楽が出来そうだぞ」


「どうせBランクまでしか出ないでしょ?これだけ戦力が整っていれば、仮にB+ランクでもきっちり対処出来るでしょうし問題なさそうね」



 既に2度の大討伐演習を越えて来た3年生からすれば、過去最高ランクの魔物…Bランク数体程度なら悠々と処理が出来る。


 そこに加え、初陣を見事な勝利で飾って見せたカイン達を戦力として加える見込みも立ったのだ。その為、彼等の間には楽観的な空気が一気に広がったのだ。


 しかし、レイモンドはそんな先輩生徒達を『愚物』と言い切り、自分達だけでも慢心や油断をする事の無い様にと引き締めを図ったのだ。


 演習と銘打っては居るが、ここは紛れもなく戦場である。そこで慢心した者の末路など考えるまでもない。


 そんな冷徹なまでな態度で警戒を解かないよう指示を飛ばすレイモンドの姿に、カインは頼もしさと同時に……危うさが同居している様な感覚を覚えるのだった。



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 一方、中央の本隊が進軍を再開した頃。左翼を突き進んでいたZ組は、まだ日が傾き始める前に…当初目的地と定めた広場へと到達し、拠点を構築し始めていた。


 10人は優に眠れるであろうサイズの天幕を3つ、リクが手際良く設営する中、シルヴィアによって各員の役割が説明される。



「えっと、リっくんが天幕を用意してくれる間に今夜の野営の用意を手分けしてやっちゃいたいんだけど…」


「言っとくけど、アタシは料理とかロクにできねーぞ?」


「うん。そう言うかなぁって思って、アレイ君達男子とミーリィには…水汲みと薪集め。あと余裕があれば狩りをお願いしたいな」


「じゃあ私とイリスは?」


「ナーシャとイリスは私と一緒に食事の用意と…あ、出来たみたい。リっくんが最後に建ててくれたあの天幕にお風呂を作るのを手伝って欲しいの」


「お、お風呂を作るの…?」



 穏やかな空気を纏ったいつもの口調で言うシルヴィア。それぞれにミーリィ、ナーストリア、イリスが口を開き彼女の指示に頷く。


 因みにアレイ達はリクの手伝いと、アレイが急遽用意させられたという魔具…『野営用トイレ』を2つ、大急ぎで設置している所だ。


 流石に女子が4人も居るのにトイレが無い、というのはマズいだろうと考えたリクが、騎士団見習いのアレイなら王都騎士団から借りられないか?と思い、無理を承知で頼んだのだ。


 リクの読み通り騎士団には在庫があったようで、交渉の末アレイが無事男女別2つの『野営用トイレ』を借り受ける事が出来た。


 主に長期の行軍の際に持ち出す物で、排泄物を浄化し、常に清潔を保つ事が出来る優れた効果を持つ魔具である。また再利用を前提としており、各種の洗浄機能も搭載されている。


 かなり高価な物で、王都騎士団にも10程しか無いそうなのだが…恐らく、貴族だけのA組辺りは用意している事だろう。


 更に、リクとシルヴィアはわざわざ目隠し用の天幕まで用意して…簡易とはいえ風呂まで作るつもりらしい。


 そしてシルヴィアが簡単に説明を終えた時、天幕を設置し終えたリク達男子一同が戻ってくる。



「おーい、こっちは大体終わったぞー。シル、そっちは?」


「お疲れ様、リっくん。一通り説明は終わったよ。じゃあ、私は最初にリっくんとお風呂を作るから…ナーシャとイリスは今ある食材の下拵えをお願いね?」


「…んじゃ、狩りの経験があるアタシがアレイ達を引っ張っていきゃ良いんだな?おし、行くぞお前ら!」


「おいミーリィ、俺達は今来たばかりで何も聞いてはいないのだが…」


「要するに、水と薪とメシを確保して来いってこったよ。ルーカスにシードも、驚いてないで早く支度しな!」


「うわ、大雑把だなあ…分かりやすいけど」


「直ぐに用意するでござるよ。リク殿、収納用魔具を一つ借りるでござるよ?」


「いや、三つ持って行ってくれて良いよ。それぞれに分けて入れた方が後々便利だしさ」



 シルヴィアの事前説明で女子3人は既にやるべき事を準備し始めている所でもあった。リクはシルヴィアに言われた通り、先に建てた3つ目の天幕へと移動していく。


 そして、状況にすぐ付いて行けないのがアレイ達男子3人である。そこへミーリィが簡潔すぎる説明だけをして、出発を促す。


 慌てて必要な道具を用意し始め…運搬の事に気が付いたシードが、ここまで天幕等を運ぶ為にリクが持ち込んだ4つの収納用魔具を1つ貸して欲しいと、リクの背中に声を掛ける。


 するとリクからは3つ持っていく様に、と返事が返って来た。それぞれに獲物・水・薪と分けて入れるのに3つ有った方が便利だ、と。


 そしてミーリィ率いる『調達組』は、日暮れまでの時間を使っての行動に移る。



「…リクとシルヴィアの意図は分かる。しかし…流石にやり過ぎではないだろうか…?」



 出来るだけ音を立てないように、と指示をした上で先頭を走るミーリィの背を追いつつ、アレイは小さく呟く。


 リクとシルヴィアの意図…それは、アレイ達が野営に不慣れな事を見越して、少しでも良い休息を取れる環境を整えるというものだ。


 アレイ自身、騎士団での教義で休息の取り方等、野営に必要な知識は既に叩き込まれている。


 体力と気力、更には魔力(マナ)を万全の状態に整える為には、質の良い休息を取れる様に十分な準備をする必要がある。


 安全な寝床や栄養のある食事がその最たるものなのだが…リクとシルヴィアは、今の段階でそれを遥かに上回る用意をしているのだ。


 更に風呂まで作るという、ある意味徹底し過ぎな姿勢に流石にアレイも『任せて良かったのだろうか?』と少し不安が過ったのだが…


 そんなアレイの不安など露知らず、リクとシルヴィアは風呂の造成に勤しむのであった。




激動の2020年も大晦日…

今年は本当にロクな更新が出来ず申し訳ございません。

予告通り、2日連続更新出来そうですので…2021年元旦より、またよろしくお願いいたします。

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